12月8日午後11時15分ごろに発生した、青森県東方沖を震源とするマグニチュード7.5の地震。最大震度は6強を観測、北海道から岩手県の沿岸には一時津波警報や注意報が発表され、午前1時ごろには岩手県の久慈港で70cmの津波を観測した。
一夜明けると、各地で地震の爪痕があらわに。震度6強を観測した青森県八戸市では多くの建物に被害が発生し、JR八戸線の橋脚には地震でできたと思われる亀裂や破損が。飲食店ではガラスが散乱し、東北町では陥没した道路に車が取り残され、運転していた男性が病院に運ばれた。
今回の地震を受け気象庁は、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を2022年の運用開始後初めて発表した。これは、日本海溝・千島海溝付近でマグニチュード7.0以上の地震が起きた場合に、その後に発生する可能性がある大きな地震への警戒を呼びかけるもの。内閣府は、北海道から千葉県にかけての182の市町村を、強い揺れや津波に備えて防災対応をとるべき地域としている。
後発地震注意情報とはどのようなもので、何に注意して生活すればいいのか。『ABEMA Prime』で専門家とともに考えた。
■後発地震への備え 「“1週間”に科学的根拠は全くない」
日本地震予知学会会長の長尾年恭氏は今回の地震について、「もともと地震が多い地域。2011年の東日本大震災で茨城から岩手県沖まで(プレートが)動いたが、青森県や千葉県のほうは動かなかった。テーブルクロスの真ん中を引っ張ると両端にシワが寄るが、今回はその片方の青森県側で起こったもの。日本海溝・千島海溝の一連で考えるべきだ」と説明する。

Mw(モーメントマグニチュード)7.0以上の地震発生後、7日以内にMw8クラス以上の後発地震が発生する確率は「100回に1回程度」とされている。長尾氏は「東北地方は地震が多く、0.1%の確率でM7クラスの地震は起きるとされているが、一度M7クラスが起きるとその確率は1%と10倍に上がる。これを高いと見るか低いと見るかは難しい」とした。
後発地震注意情報の警戒期間として示された「1週間」については、「科学的根拠は全くない」という。「東日本大震災の後や南海トラフ地震に関して、どれくらいなら耐えられる(警戒できる)かというアンケートを行ったところ、3日〜1週間が限度だということがわかった。1週間で安全になるのではなく、社会の許容限度。内閣府も1週間経ったら臨時情報や後発地震警戒情報の“アナウンスをやめる”と言っている」。
■南海トラフ地震臨時情報時には“経済的自粛”も 必要な“備え”は?
2024年8月、宮崎県で震度5を観測した地震を受けて、初の「南海トラフ地震臨時情報」が発表された。それにより、イベントの開催や鉄道の運行、旅行・外出などをめぐる混乱が発生。今年8月にガイドラインが改訂され、住民へは「逃げられる備えをして日常生活を維持」、イベント・事業は「来場者の安全を確保し実施」、鉄道へは「運休や徐行など運行規制を求めない」とした。安全を確保し“できる限りの活動継続”を求めつつ、最終的な判断は現場に委ねている。

長尾氏は、「この基準を作った時、“2年に1度はこういうことが起きる”と思っていたが、6年間なかった。突然出たことで過剰反応が起き、経済的自粛につながってしまった。白浜の海水浴場等が閉鎖するのは合理的だが、神奈川県の湘南や紀勢本線の運休、新幹線の減速について、それらが十分だったかという検証はない。そのあたりは却って『臨時情報はないほうがいいのでは』との説も出てきた」と説明。
また、備蓄においては、「普段使いの備蓄、ローリングストックといって、レトルト食品なんかを多めに買って常時ストックし、古いものから食べていく。日常生活の中に防災を組み込むというのが今の方向だ」とした。
文筆家・情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、「東日本大震災の福島原発事故で散々言われたのは、『正しく恐れろ』。当時も過剰反応が多く、家のドアにガムテープを貼ったりする人もいた。正しく知識をつけて恐れるべきだし、“日常”と“備える”を分離するのは間違いだと思う」との見方を示した。
なお、気象庁は後発地震情報時にとるべき防災対応について、枕元に靴などを置いて寝るなどすぐに逃げ出せる態勢での就寝、非常持出品の常時携帯、ラジオなど緊急情報の取得手段の確保、ブロック塀に近づかないなど身の安全の確保を促している。
■穂川果音「“空振り”でいいと思っている」
災害時に接する情報について、精神科医の井上智介氏は「情報から距離を取ることは無責任でも逃避でもない」との見方を示す。「災害報道に強いストレスを感じるのは弱さではなく、人が本来持つ『共感装置』が働いている証拠」だとし、「画面を閉じる、深呼吸する、状況の確認だけして情報から離れるなど、小さく細かな区切りが心の回復力を支える」としている。

気象予報士で防災士資格も持つ穂川果音は、「自分が安全な場所にいればそうしたほうがいいが、私は気象災害に関しては伝えて、“空振り”でも命を守ることが大事だと思っている。(情報と)距離を取らないでほしいが、その伝え方はすごく難しくも感じる」と話す。
長尾氏によると、「気象庁の最大の課題は、いかに警報を早く、正確に解除するか」だという。「それが社会への大きな貢献になるのではと、気象庁も最優先課題で取り組んでいる。スパコンでシミュレーションする際、大地震だと破壊に数分かかるため、最初と最後で津波の規模が変わり、予測に時間がかかってしまうという原理的な問題がある。ただ、最初に海面が盛り上がった形を知る方法が最近かなり出てきていて、より正確に解除ができるように研究を進めている」とした。(『ABEMA Prime』より)
