社会

ABEMA TIMES

2025年12月13日 10:15

4つ子を妊娠で“減胎手術” お腹の子を減らす決断した苦渋の想い「『本当に正しい選択なのか』と何度も思い直した」「カウンセラーのメンタルケアがありがたかった」

4つ子を妊娠で“減胎手術” お腹の子を減らす決断した苦渋の想い「『本当に正しい選択なのか』と何度も思い直した」「カウンセラーのメンタルケアがありがたかった」
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 少子化対策の一環として、体外受精などの不妊治療に、保険が適用されるようになって3年がたった。3割の自己負担で受けられるようになり、経済的負担が減少し、子を望む人にとって選択肢が広がった。

【映像】4つ子を妊娠…当時の“エコー写真”(実際の映像)

 しかしながら、不妊治療は授かりやすくなる一方で、方法によっては3つ子、4つ子などの「多胎妊娠」の可能性が高くなり、胎児、そして母体へのリスクも…。そうした場合の選択のひとつ、一部の胎児を注射により心停止させて「減らす」手術で、母親と残った胎児のリスクを下げる「減胎手術」。実際に3つ子以上の妊娠では、4割の家族がこの方法で妊娠を継続したというデータもある。

 『ABEMA Prime』では、当事者とともに、多胎妊娠時の選択肢のひとつとなる“減胎手術”について考えた。

■4つ子を妊娠し、減胎手術を決断した夫婦

ヨシコさんとタケシさん

 結婚3年目のヨシコさん(29)は、不妊治療を通して今年6月に妊娠が判明するも、4つ子だと判明した。夫のタケシさん(30)は「最初は深く考えずに『4人育てていくのは大変』と軽い感じだった」というが、検査技師として病院に勤務していたヨシコさんは「見た瞬間におかしいなと。リスクのほうが最初に頭に浮かんできた」という。

 医師からは「全員おろす」か「全員産む」かを選択肢として与えられ、わずか2日ほどで決断するよう迫られた。限られた時間の中で、タケシさんは第3の選択肢である「減胎手術」を見つけた。

 ヨシコさんたちも減胎手術を希望したが、かかりつけ医は否定的で、「『(手術を受けたとしても)そのことを表に出すな』みたいなことを遠回しに言われた記憶がある」とタケシさんは振り返る。

 医師が消極的だったのには理由がある。法律上は胎児を外へ排出することが「中絶」の定義だが、減胎の場合は手術後も母体内に胎児がとどまるため、法律上の位置づけもあいまいだ。医師が「堕胎罪」に問われる可能性も否定できない。

 ヨシコさんは、実施を公表している数少ない民間のクリニックで、手術を受けることにした。「予約後も『本当に正しい選択なのか』と何度も思い直した」が、葛藤を乗り越えて受けた手術は無事成功し、来年は“双子”として出産する予定だ。

 減胎手術をめぐっては、「残された子を無事に産めるかを最初に考えた。リスクが少なく、しっかり治療してくれる病院を選びたいと、手術を受けようとした人は必ず考える。病院選びに悩むため、公的な病院がガイドラインを確立してくれた方が、患者側は安心して選択できる」とした。

 タケシさんは「不妊治療の末で、うれしい気持ちもあったが、ハイリスクのため悩んだ。時間がなく判断を迫られていた中で、この選択をして本当にいいのかと、ずっと悩みながら手術に臨んだ」と明かす。

 ヨシコさんによると、「私たちが手術した病院では、カウンセラーが手術前にメンタルケアしてくれた。話を聞いてもらってから、手術に臨めたため、事前に話せたことはありがたかったなと、いま振り返っても思う」そうだ。

■減胎手術とは

遠藤誠之氏

 しかし減胎手術は現状、実態として行われていながら、国としての指針さえ定まっていない。そんな状況を変えるべく動いているのが、大阪大学医学部附属病院・胎児診断治療センターの遠藤誠之副センター長だ。

 2024年に国内初となる「減胎手術の臨床試験」を実施したが、「日本で研究を行うことで、最終的には法律が改正されて、減胎手術が一般の選択肢のひとつになることが一番望ましい形だ」と語る。ルール作りに向けた議論のきっかけにしたいという。

 多胎妊娠については、「母体のリスクも相当高い。分娩時におなかが大きくなり、出血のリスクが増える。妊娠高血圧腎症の発症も増える。赤ちゃんが1人増えるごとに、妊娠週数は約4週間早くなるため、早産のリスクもある」と説明する。

 その対処法となる減胎手術だが、「医師が消極的になるのは、法的な位置づけがされていないところが一番大きい」と話す。

 減胎の対象とする胎児は、どのように選ぶのか。「残った赤ちゃんに不利益が及ばないように、包まれている袋に傷が付かないように選ぶ。胎児2人で1つの胎盤を共有している場合は選択できない。どのような胎盤や膜を持っているかの“膜性診断”で選ぶ」。なお、減胎手術は「胎児の遺伝的問題や、性別によって選択しないことが大前提」になっているそうだ。

 ヨシコさんは「減胎手術では『心臓に針で薬を注入しやすい、一番手前にいる子にしましょう』と言われた。位置で決まる、運の話なんだなと思いながら説明を聞いていた」と語る。

■「取り上げていただくことは、すごく大きなこと」

 第3の選択肢が生まれたことで、「妊娠がわかった時は『宿ってくれてありがとう』という気持ちで一杯だったが、4つ子とわかった瞬間に『せっかく来てくれたのに、みんなダメになってしまう』と思った。減胎手術を教えてもらい救われて、『全員を失わなくていい』と希望ができた」とコメントする。

 とはいえ、4つ子を妊娠したからといって、必ずしも減胎手術を受けるわけではない。遠藤氏は「きちんとした情報を得た上で、家族で選択するものだ。現在一般的な選択肢は、『妊娠を続けるか、やめるか』の2つだが、そこにリスクを軽減する減胎手術という選択肢も提示して、メリット・デメリットを考えられる環境が求められるのではないか」と考える。

 そして「今回のように取り上げていただくことは、すごく大きなことだ」と語る。「国や学会、大学の倫理委員会でも、『減胎手術が国民的にどう捉えられて、そこからどうしたいのか』という流れが醸成されないと、動きようがないとされてきた。減胎手術の体験者には、誰にも相談できない状況があるが、選択肢に加われば、隠す必要がなくなってくる。本当に重要な1歩だ」。

(『ABEMA Prime』より)

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