2025年、全国でクマによる人的被害が過去最多を記録し、人里や市街地での目撃情報が続出している。冬眠期に入っても被害が相次ぐこの異常事態について、駆除を行っている猟友会のメンバーからも「人間を見ても逃げない」「雪が降っているのに人里に来るのは変」だと違和感も覚えている。
岩手県宮古市議会議員・西村昭二氏は、クマを狩猟する“マタギ”。「ABEMA Prime」に出演し、マタギとしての知見から現状について語ると、「全国のクマが人を襲うなんて、SFのような世界」とも表現した。
■マタギから見た“3種類のクマ”街中だけにいる「アーバンベア」も

西村氏によると、クマは生息域によって「山にだけ生息するクマ」「山と里を行ったり来たりするクマ」、そして「街中にだけいるクマ(アーバンベア)」の3種類に分かれているという。西村氏が普段狩猟する山奥のクマは既に冬眠に入っているが、人里に出てくるクマは異なる生態を持つ。クマが市街地に続出する背景には、山奥の強い個体との競争に敗れた弱い個体が下がってきているという実感がマタギの側にもある。
また「強い個体は山の奥で王様のように振る舞っている」とし、弾かれて下がってきたのは「メスクマであるとか若いオスなど、やはりあまり強くない個体」だと指摘する。特にメスクマが街中で子どもを産んで1年間生活してしまうと、その子どもは「山を知らないクマになっている」。これが俗にいうアーバンベア(都市グマ)であり、「人間依存型で、要は勝手にクマの方が人間との共生社会を構築している」と現状を分析している。
■マタギの現状認識 クマが「人を餌と認識する異常事態」

過去の事例と比較して、今年の被害状況は「異常な現象」だと捉えている。数年前に秋田で起きた連続人身被害は「特定の個体とそのグループ」によるものだったが、今年に限っては「各地で一斉に人を餌と認識している」。さらに、「犬と猫も食べる。これも異常な現象だと思う。全国のクマが人を襲うなんて、SFのような世界」と、クマの生態に異変が起きている可能性を示唆する。
クマの出没状況は地域によって全く異なるため、「一概には言えないので、これはもう永遠の課題だ」と、統一的な対策の難しさも語った。また、クマの生息数を「正確に捉えてるところは、実際はない」という認識も示した。
■批判者との戦い「土足で踏み込まないでほしい」

西村氏は、人を襲うクマへの対処や駆除活動を行う中で、批判的な声との「戦い」にも直面している。公職にある西村氏のいる市議会事務局や農林課には、駆除に対する苦情の電話やメールが殺到しているという。また、「銃の免許返納した方がいい」といった、個人の権利にまで踏み込んでくる声もある。この行為を「要はカスハラに当たる。やめてほしい」と強く訴えている。
マタギは狩猟期間外も「春にどこにクマの足跡があり、どこに冬眠したのかとか、クマが何を食べてるのかとか」を調べ、長年にわたる経験で「クマが減ったか増えたかわかる」と、クマの生態を熟知している。
しかし、狩猟文化に対する無理解な声に対し「何も知らない人たちが、要は土足でこう踏み込んできて、ああだこうだと言ってくる」と強く反発。立場が違うため「分かり合おうとは思ってない」としつつも、「人の土俵に勝手に踏み込んで来てほしくないと非常に強く言いたいし、これはマタギの人たちみんなそう思っている」と、当事者の苦悩を語った。 (『ABEMA Prime』より)
