いま大学受験で、“ある枠”の廃止が進んでいる。それは「帰国生入試」。
ことし、慶應大学と早稲田大学が相次いで、帰国子女など「帰国生」対象入試の廃止を発表した。早稲田大学は2025年度から一部学科を除き、原則廃止。慶應大学も2025年度から文学部、商学部、薬学部などで廃止。2026年度から、総合政策学部、環境学部で廃止される。この流れはほかの大学でも進んでいるという。
そもそも帰国生入試とは、海外で教育を受けた受験生の学歴背景を尊重し、広く多様性のある入学者の受け入れを目的としたもの。廃止の流れについては、入試がAO、総合選抜型入試への一本化が進む中で、入試制度の再編が行われているとの分析がある。
SNSには「国際化の流れに逆行。帰国子女の選択肢が減るのは問題」「学力で苦労する帰国生もいる。ほかの受験生からすれば不公平感もある」などの賛否両論の声があがっている。また、帰国子女を採用した企業からは「敬語が使えない」「感覚で話す人が多く、論理的でない」など困惑の声がある。
その一方で、帰国子女側からは「手を挙げて発言するのが、迷惑みたいに思われた」と、自己アピールが迷惑がられることや、日本特有の空気を読む習慣に戸惑ったという声も。
帰国子女、そして受け入れる学校、企業の双方がウィンウィンになるためには、どうすればいいのか。帰国子女の当事者とともに考えた。
■帰国生入試の廃止

国際教育評論家の村田学氏は、帰国生入試廃止について、「リニューアルと考えた方がいいと思う。従来、帰国子女は、1980年代以降から増えた。アメリカに行って帰ってくるっていう想定だったが、今、他の国に行ったり、複雑になってきている。そのため、大学は新しく定義を整え直して、枠は廃止したけど、総合選抜に変えたと考えるのがいい」と説明。
帰国子女にとって不利ではないのか。「一見、不利には見えるが、大学側としてはそういう生徒を引き続き求めている。なので、入試制度が変わっても受け入れる方向にある」と答える。
また、「一般生からすると、帰国枠は楽だと思われている。科目数が少なかったり、一般入試のように6科目8教科はなかった。ただ、よく考えると、高校生は先進国含めて、到達する学力は18歳とほぼ同じ水準に入る。それをどの言語で、どういう思考法で学んできたかは違うので、そこをうまく評価しようとするのが今回の取り組みだ」と補足した。
■帰国子女の苦悩

子ども時代にアメリカやインドで14年間生活し、帰国子女としてのギャップに苦しんだ経験を持つ茂木潤子氏は、「海外ではアクティブラーニングとしてグループディスカッションやリサーチ発表などを行うが、日本の学校はパッシブラーニングで先生の話を一方的に聞くことが多く、疑問があって手を挙げたりすると、空気を読めてないと思われてしまうことに困った」と話す。
日本に帰国してから、海外の方が長く大学の授業も英語だったため、日本語を使う機会が少なかったことから、社会人になってから名前を一部変更したという。「『茂木潤子です』と言うと、日本人のマナーや文化をすべて理解していると見られることが当たり前なので、日本語に自信がなく間違った時に恥をかかないように『茂木潤です』と言って、『この人は海外の人なのかな』と第一印象を持ってもらうように、自分のアイデンティティを使い分けている」。
帰国子女の生徒の多くは自己主張が強い傾向があるため、「就職後、自分が発言したいときに発言ができなかったり、意見を聞いてもらえなかったり、『絶対こうした方が良いのに』という考えが言えずにイライラ感があったりした。海外の方が魅力的だと感じ、海外に行ってしまう友達もたくさんいる」と明かした。
■企業は帰国子女を活かせていない?

人材研究所の安藤健氏によると、帰国子女のニーズは「グローバル系や外資系のニーズは高いが、それ以外ではAIの発展でニーズは減少しているため、帰国子女だけでは価値はない」。それでも生き残るには「何でも『海外では』と発言する人材は扱いにくいが、会社のために敢えて空気を読まない発言をする帰国子女は出世する」という。
村田氏はこれに対して、「おっしゃる通りだが、定型的な帰国子女に対する知見だ」と反論する。「例えば日本の製造業や、ラーメン、カレー、キティちゃんが海外に展開する時代において、地元のニーズを読みやすい。そういう意味で、企業は帰国子女を積極的に採りにいっている」。
しかし、「従来のドメスティックな発想で、英語が便利な人という使い方で帰国子女を採用してしまうと、ミスマッチが起こる」と語る。「海外から帰ってきた日本人が日本の企業に就職して活躍できているのは半分くらいではないか」とし、「組織の壁やコミュニケーション言語の違いが合わないという問題がある」。
文化通訳でシンガーソングライターのネルソン・バビンコイ氏は、「日本では同調と協調の違いがある。海外ではトップダウンよりフラットで、新入社員でも良いアイデアがあれば評価されるが、日本は上から言われたことをやる必要があり、グローバル目線で考えると、もっとフラットで協調性がある方が、相乗効果や化学反応が起こりやすいのではないか」との見方を示した。
(『ABEMA Prime』より)
