社会

報道ステーション

2025年12月18日 01:18

「非常用ボタンの電源入れたことない」法的取り決めは?赤坂個室サウナで2人死亡

「非常用ボタンの電源入れたことない」法的取り決めは?赤坂個室サウナで2人死亡
広告
4

東京・赤坂の個室サウナ店で客の夫婦が死亡した火事で、非常用ボタンについて、店のオーナーは「警報盤の電源を入れたことがない」と話していることがわかりました。

亡くなった松田政也さん(36)と、妻の陽子さん(37)。
美容師だった政也さんのインスタグラムのフォロワーは3万人。独自の白髪ぼかし技術で女性から絶大な支持を集めていました。

政也さんにとって、サウナは特別な場所でした。

政也さんの知人
政也さんの知人
「(Q.サウナ愛を感じられたのは)いつも僕を誘ってくれるときは、『食事かサウナ行きましょう』と。“ととのう”っていうのが、一番、強いのかな。美容師界隈は、よくサウナ行く方が多い」

陽子さんはネイリスト。
政也さんとの出会いは、職場の美容室だったそうです。

松田さん夫妻を知る人
「どちらも仕事ができる人で、職場でも仲良さそうに話す姿を覚えている。まだ小さな子どももいて、職場に連れてきたときもあった。本当に幸せそうな家族だなと思っていた」
広告

17日、2人の司法解剖が行われましたが、火事による一酸化炭素中毒なのか、サウナ室に閉じ込められたことによる高体温症なのか、死因の特定できませんでした。

一方、発生当時の状況は、少しずつわかってきています。

建物は以前、民泊施設だった

建物は、以前、民泊施設だったといいます。当時の施工業者によりますと、サウナは、設置されていませんでした。

3年前、現在の運営会社によって改装され、『サウナタイガー』としてオープンしました。売りは、完全プライベート空間。フロントで受付をした後、スタッフとも顔を合わせることなく、利用できる点です。そのため、サウナ室内での異変を知らせる手段は、非常用ボタンに限られていました。松田さん夫妻によって、押された形跡もありました。

命綱となる非常用ボタン。
しかし、警視庁が店のオーナーに確認したところ、こう説明したといいます。

サウナタイガーのオーナー
サウナタイガーのオーナー
「いままで、警報盤の電源を入れたことはない。触ったことがない」

一般的な個室サウナでは、サウナ室内の非常ボタンを押すと、警報盤を通じて、スタッフに伝わる安全対策をとっています。

電源を入れない運用が常態化

火事が起きた店のスタッフルームにも、警報盤が設置されていました。しかし、電源を入れない運用が、常態化していたとみられています。松田さん夫妻が利用していた部屋に限らず、別の部屋で異変が起きたとしても、スタッフに伝わらない状況でした。

この店に、警報ボタンを設置した業者に話を聞くことができました。

非常用ボタンを設置した業者
非常用ボタンを設置した業者
「電源を切るというのは、初めて聞いた。切っちゃうと、警報盤のランプもつかないし、音も鳴らなくなる。それでは全く意味がない」

サウナストーンにタオルが触れて、発火したといいます。ただ、触れた理由については、不明のままです。

広告
室内に閉じ込められた原因

松田さん夫妻が、室内に閉じ込められた原因は、取り付けられていたドアノブが外れていたためとみられています。それぞれ、扉の内側と外側に落ちていました。

捜査関係者によりますと、通報を受けて駆けつけた消防隊員は、扉の前に落ちていたドアノブを拾い、再び、取り付けて、扉を開けていたことがわかりました。

なぜ、ドアノブが外れたのか。

火事が起きたサウナ室を再現し、鍵の専門家に見てもらいました。

ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
「(Q.ドアノブが外れる。どういう仕組みか)ここにネジがある。飛び出さないように、締めこむようなネジで、ここを緩めると、スポっと抜ける。(Q.ドアノブが木製なのは)珍しいですね。サウナの扉って、木が多いですけど、黒くぬるっとした感じがある、多湿で。木は、やっぱり腐っていっていると思うんですね。ここに亀裂が入ってとか、ネジ自体が役割を果たしていない状況になっていた可能性はある」

ドアノブで開ける扉には特徴がありました。

ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
「基本的にレバーを下げれば、このラッチボルトという三角のこれが引っ込む。錠前メーカーが作っているレバーは、きっちり切れ目みたいなものが入っている。連結の一番の肝となるネジは、先端をとがらせて、勝手に緩んでこないよう、緩み止めの液体などがついてる対策が施されている」

2人が閉じ込められた部屋以外についても、サウナ室の扉を確認したところ、ドアノブにガタつきがあったことがわかっています。

ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
ダスキンレスキュー 玉置恭一さん
「(Q.浴室など多湿の場所で、閉じ込められることはあるか)非常に多い。トイレ、浴室は閉じ込めの依頼が多いところ。お風呂は湿気が多い。錠前がさびて、このラッチが、ちゃんと動かなくなるトラブル。高温多湿なところは、やっぱり機械は、すぐにさびちゃいますので。だからサウナはイコールですよね」

政也さんの知人は、やりきれない思いをにじませました。

政也さんの知人
「安全上、法律上、ちゃんとしたものを提供してもらいたい。悔しさ、どうにかできなかったのか。亡くなってしまった悲しみ、いろんな感情がまざっています」

店の安全管理に問題がなかったのか。
警視庁は、業務上過失致死も視野に調べています。

広告

◆そもそも、サウナの非常用設備は、法律的にはどのように定められているのでしょうか。

サウナの法的な非常用設備

一般的に、サウナは『公衆浴場法』『消防法』『建築基準法』をクリアする必要があります。ただ、ホテルにサウナが併設された宿泊施設の場合は、『旅館業法』『消防法』『建築基準法』のクリアが必要です。

今回、問題になっているのが、サウナ室内の非常用設備ですが、『公衆浴場法』と『旅館業法』によって、扱いが変わってきます。

サウナ室内“非常用ボタン”の設置

『公衆浴場法』に基づく厚生労働省の通知によりますと、「入浴者の安全のため、サウナ室内には、非常用ブザー等を入浴者の見やすい場所に設けること」と設置を推奨しています。ただ、最終的に条例などで義務付けるかは自治体の判断となります。

一方、『旅館業法』に基づく厚生労働省の通知には、非常用設備に関する記載はありません。

今回のサウナ店は…

今回、『サウナタイガー』のある港区みなと保健所に聞いたところ、“旅館”として届出があったため、2022年7月、『旅館業法』に基づいて許可を出したということです。担当者によりますと「客室があり、風呂、サウナが付いている」と、旅館業法の基準は満たしていたといいます。

ただ、港区の場合は、『公衆浴場法』でも『旅館業法』でも、非常用ボタンの設置までは義務付けていません。

◆それでも業務上過失致死に当たる可能性があるのでしょうか。元大阪地検の検事・亀井正貴弁護士に聞きました。

亀井正貴弁護士

亀井さんは「法令上、非常用ボタンの設置義務がないとしても、“閉じ込め”による死亡など、サウナという一定の危険性がある施設で、不適切な管理によって、死亡事故を招いたとすれば、過失責任を問われる可能性はある」としています。

みなと保健所の担当者は「今回の件を受け、現時点で条例の改正までは言えないが、今後、非常用ボタン設置の“義務付け”も検討する必要があることは認識している」としています。

広告