社会

ABEMA TIMES

2025年12月18日 07:00

「5年間は銀行口座を作れない」中卒・元暴力団幹部(50)が算数からやり直して慶大合格→現在“司法試験”に挑む理由

「5年間は銀行口座を作れない」中卒・元暴力団幹部(50)が算数からやり直して慶大合格→現在“司法試験”に挑む理由
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 2年間の猛勉強で慶應義塾大学に合格した元暴力団幹部、斎藤由則さんの著書『中卒ヤクザの大学受験 0.0003%の挑戦』には、42歳から大学受験に挑む日々がつづられている。そんな斎藤さんは50歳の今、司法試験に挑戦している。

【映像】暴走族だった頃の斎藤由則さん(実際の映像)

 神奈川県小田原市出身の斎藤さんは、中学生で暴走族に入り、少年院を経て、20歳で暴力団へ。その後、28歳で広域暴力団の下部組織の本部長になった。恐喝罪など計7年服役し、20代のほとんどを刑務所で過ごした後、32歳で暴力団を離脱。「母親を悲しませたくない」ことが理由だった。

 そして44歳の時、一般入試で慶大に合格する。大学の前で「3月まで通っていた学校を見て懐かしいと思う。皆と年が離れているため、子どもたちに『どんなおっさんだ』と思われていたのではないか」と振り返る。

 暴力団を離脱した後、斎藤さんは住み込みでの新聞配達などを経て、起業してある程度の成功を収めた。しかし、燃え尽き症候群になってしまう。そんなある日、富士山に登頂して感動。「俺にはやり残したことがある。それは勉強だ」と、1年で慶大に入ることを目標に設定した。

 とは言っても、中卒で勉強経験はほぼゼロのため、小学校1年生の国語から勉強を始めた。支えたのは、広島県福山市の「フジゼミ」だ。「ゼロからの教え直し」をモットーにしており、さまざまな事情を抱えた生徒を、年齢を問わず受け入れている。

 斎藤さんは、「たまたま出会ったところが、広島県にあるフジゼミ。『指ありません。暴力団でした。刑務所と少年院で10年行っています』と素直に言うと、『関係ありません。勉強したい人は誰でもOKなので』」と当時のやりとりを明かす。

 フジゼミの藤岡克義代表は「『アルファベットは大丈夫』と言うから、『じゃあ書いてみて』と言ったら、小文字が足りないし、『2分の1+3分の1』を『5分の2』と答えたり。彼はまだ高卒認定を受けていなかったので、まず大学受験の前に高卒認定試験で8科目受けないといけない」と振り返る。

 東京の仕事と掛け持ちしながら、広島に通い、途中からはウィークリーマンションも借りて、フジゼミに通い詰めた。結果として、わずか2年で慶大合格。「斎藤さんは人生経験豊富なので、ぶれることなく愚直なまでに『自分が決めたからには何が何でも受かってみせる』というタイプだった」(藤岡代表)。

 そんな斎藤さんは今、最難関といわれる司法試験に挑戦している。大学時代に目にした海外の貧困や、自らの過去から、社会から隠れた人たちに自分にしかできない手助けをしたい。かつてはそれを破る側だった斎藤さんは、法律の世界に進むことに決めた。

 斎藤さんは「私は今になって勉強して、ものすごくいろいろなビジョンや国政など考えさせられたことがよかった。社会の見方が変わった」と語る。

 現在は司法試験に向けて1日15〜17時間勉強している。そのコツは「勉強前に30分間走る」「勉強中は仕事の電話に出ない」「LINEはパソコンから消す」だそうだ。「覚えないといけない時は、お風呂の中で勉強する。地味な努力は本当に大事。(最後は)もう気絶している」。

 12月3日、斎藤さんはある問題の参考人として、国会で発言を求められた。「5年銀行口座が作れない。これは犯罪の罪名によってやっていかないと。すべてを縛ってしまえば、また逃げ所ができてしまう」(衆院法務委員会より)。

 金融機関は、離脱後約5年は組合員とみなし、銀行口座の開設や賃貸契約などができない「元暴5年条項」を設けている。“5年ルール”と呼ばれる制約だ。警察庁や金融庁は、暴力追放運動推進センターの協賛企業への就労などを条件に、給与受取用口座の開設を排除しないよう、協力を求める通知を出した。しかし10年、20年単位で口座を作れない人がいる。

 元暴力団組員の西成のキンちゃんは「僕の場合、5年間ではなかった。刑務所出てきて約15年だが、銀行口座を作れたのは去年、おととし。せっかく真面目にやろうと思って、刑務所から帰ってきたのに何もかもダメ。『それならもう1回悪さしてやる』と、すねることにもなるのではないか」と話していた。

 22年前に暴力団を離脱して、飲食店を経営する男性Aさんも、“5年ルール”の壁に阻まれたという。

「僕は通帳・口座も開設でき、カードも作れた。だが携帯が自分の名前で借りられなかった。住宅ローンのような大きなお金を借りる時に、ホワイトに表面上はなっていて、納税も10年以上していても通らない。警察的には前科・前歴などがない状態になっているが、民間で引っかかる。警察が(5年ルール対象者に)認定すると、銀行や金融機関が聞きに来る。しかし(認定を)外したと言っても、それは聞きに来ないため、ずっと載ったままになっている。まじめにやっても何もできない、口座も持てない、アパートも借りられない。部屋すら借りられなければ、生活の基盤なんかない。携帯も今の時代借りられない、部屋が借りられない、となると更生しようがない」(Aさん)

 斎藤さんは自身の体験を踏まえ、今後は社会復帰の問題に取り組みたいという。「就労支援に、いま刑務所も力を入れている。だがそんなに変わっていないと思う。私は刑務所にもハローワークを作ってあげたい。法律が必ず引っかかると思うが、そういうものを生かせれば」と意気込んだ。

 フジゼミ藤岡代表は「司法試験は大学受験と比べると次元が違うので一概に言えないが、一度こうと決めたら、絶対に彼はやり遂げるタイプだ。きっとうれしい報告をしてくれると思って、待っておこうかな」と期待している。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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