政府・与党による富裕層への課税強化案が話題になっている。今年から所得が約30億円を超える超富裕層に対して追加負担を課しているが、この対象を2027年から6億円に引き下げることを検討しているのだ。関係者によると、これにより数千億円規模の税収増が見込まれるという。
富裕層は給与所得より金融所得の割合が高く、また金融所得の方が税率が低い現状がある。その格差是正をねらう施策だが、「稼げる人のモチベーションを削ぐ」「富裕層がどんどん出て、貧しい人だけが残る国になる」といった意見もある。『ABEMA Prime』では、識者や当事者とともに、資産課税について議論した。
■高所得者になるほど金融所得が増加

東京財団上席フェローで税理士の岡直樹氏は、「課税強化は今年の1月から始まり、来年の3月に申告するが、その前に改定案が出たのは驚いた。『“1億円の壁”を超えると、税負担率が下がるのはずるい』と言われている。なぜ下がるかと言えば、金融所得の税率が低いからだ。現行制度は、30%までは追加課税しているが、世界的にもない先進的な仕組みだ」と説明する。
所得税負担率を30%に定めたことは、「なかなかいいセンスだ」と評価する。「1億円の壁のてっぺんが、約25〜30%の税率。そこに合わせてきた。(控除額を)3億3000万円から1億6500万円に半減させるのは、それなりに説得力がある」。
投資家のテスタ氏は、6億円に引き下げられた場合、「課税強化の対象に入る年もあるが、投資の世界は勝ち負けがあるため、確実に入るとは限らない」という。その上で、「不公平と言われるが、1億円の25%は2500万円、100億円の15%は15億円だ。金額ベースでは、それだけの税金を納めてくれている。税負担率は下がっても、負担額は多くなっている」と読み解く。
また、「ガソリン減税は、車を持っていない人からすると『自分には関係ない』となる」ことを引き合いに出し、「年収6億円以上は2000人程度しかいないとの試算もあり、少数が何を言っても届かない。僕が株を始めた20年前は10%だったが、今は所得税と住民税を合わせて35%だ。もし『消費税が10%から35%になる』となれば、自分ごとになって違う意見になるかもしれない」と話した。
税制の問題として、「総合課税の場合、1億円もうけて50%取られても、翌年1億円負けたら、通算の利益はゼロになるが、税金は5000万円取られる。株の世界はプラスもマイナスもあるため、総合課税だと納税額がすごく高くなる」と説明する。
そして、「『貯蓄から投資へ』とやってきたのに、リスクが見えることで『貯蓄の方がいい』となる」おそれを懸念する。「投資は夢がある世界だ。金融所得課税も、最初は一律で上げる議論になっていたが、それには反対だった。個人的には増税になるのは嫌だが、どちらかといえば、高所得者だけを対象にすることに賛成する」。
■投資にも回らない資産をどう動かすか

ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、「お金をある程度稼いで、運用した資産で老後を安心して暮らせる人が、できるだけ多い方がいいと思っている。資産だけで食える人は税率を高めにして、資産が足りない人は、どんどんお金をためやすくする方が、金持ちが増えて、労働意欲も増える」と考えている。
加えて、「年収30億円といった人々は、働いて稼いだというより、大金持ちの息子たちではないか。土地や会社を持っている祖父母から譲り受けたといった人々で、頑張ったから資産を持っているわけではない。たまたまそのポジションにいた人だけが得をするのはどうなのか」とも語った。
近畿大学情報学研究所所長の夏野剛氏は、「東証マザーズなどの新興市場が整備されてからの20年間、起業家の数は増えたが、それが日本経済のためになっているかは疑わしい。上場時に創業者が株を売れるのは日本ぐらいで、それを元手に経営より資産運用に行く人が多い。時価総額が上場時を上回れない企業は、株式市場から撤退して欲しいが、そうはなっていない。なおかつ所得が資産運用に移ってきている」と課題を示す。
笑下村塾代表のたかまつなな氏は「資産課税もしっかりやるべきだ。社会保険の『負担できる人が負担する』応能負担をしっかりするためにも、『非課税世帯だが多額の資産を持っている人』がわからない仕組みになっているのはおかしい。給付付き税額控除なども、資産をしっかり把握してから議論すべきだ」と指摘する。
ひろゆき氏も資産課税の重要性を説く。「何もしなくても数億円入ってくる人が、税率が低いのは良くない。一定以上の資産を持つ人は、より課税額が高くなるべき。フランスの不動産には資産課税がある。若者が低い税率で財産を作り、安泰だとなってから資産課税にする方が、ふつうの人でも資産家になりやすい」。
相続税については「良くないと思う。親が90歳で死に、その財産を60歳の子がもらっても死蔵するだけだ。昭和の時代は、60歳の親が死に、40歳が相続して、それを元手に起業しようとなった。今は“死んだお金”が高齢者の間でグルグル回っているだけ。資産課税だと、高齢者になる前から少しずつ取れる。死んだときだけでなく毎年取れるため。より若者にお金を使いやすくなる」と語った。 (『ABEMA Prime』より)
