先週、高校生の市販薬乱用、いわゆる「オーバードーズ(OD)」についての調査結果が明らかになった。厚労省研究班によるもので、過去1年以内に乱用目的で市販薬を使用した経験がある高校生は1.4%、約70人に1人と推計されるとの実態が示された。
また、薬物依存症の治療を受けた10代患者の「主たる薬物」の推移を見てみると、危険ドラッグが減る一方で、市販薬が増加。市販薬のオーバードーズは違法ではないが、政府も今年3月に「ODするよりSD(相談)しよう」というメッセージ動画を公開した。すると「言葉遊び」「深刻さが伝わらない」などの批判もあり、削除されることに。
今年10月には、新宿・歌舞伎町で女子中学生がビルから落下し、死亡。オーバードーズ状態だった可能性が指摘され、大きな社会問題となっている。ある若者は「オーバードーズは逃げ場。頭ごなしに、やめろ!じゃ反発するだけ」と言うが、どうすればいいのか。12月17日の『ABEMA Prime』で考えた。
■「酒、タバコ、オーバードーズが揃って“本番”」
トー横に頻繁に出入りし、ストレス解消のためにオーバードーズをすることもあるBADさん。きっかけは、会社の人間関係などのストレスに逃げ場がなく、周りの友人に相談した際に勧められたこと。普段は咳止め薬1箱(20錠)〜3箱(60錠)、抗アレルギー薬1瓶(60〜120錠)をアルコールとともに摂取するという。

オーバードーズにより酩酊状態になることを指す「パキる」状態について、「簡単に言ったらハイになる感覚。テンション上がって、みんなとワイワイガヤガヤして、お酒よりも強い感覚」と表現する。BADさんにとって、酒、タバコ、オーバードーズが揃って“本番”であり、「ストレス発散方法がそれになっている」と語る。
厚労省研究班の調査(2021〜2022年)では、過剰摂取に使用された市販薬の種類は平均1.5個、錠数は平均101.8錠(中央値76.5)。健康被害として、意識を失う、心臓が止まる、呼吸が止まる、急性中毒を起こす、依存するなどのリスクがある。
BADさんは「やめないと身体が壊れることはわかっている」と自覚しながら、一回に最大300錠を飲んだことがあるそうだ。「一気には飲めないので順番に、それも水ではなくお酒で入れたりする。次の日は二日酔いよりもひどくて、起きられなかったり、一日中昏睡状態だったり、逆にハイの状態のまま2、3日動き回ったりする」。それを踏まえ、「ボロボロに自分の身を削りながら、それでもあがいてもがいて生き抜いている生の実感がある」とした。
■「飲みニケーションならぬ“パキニケーション”」
オーバードーズ経験者で頻度は月に1回以下のペースのうにさん。「最初は3年くらい前。歌舞伎町で仲良くなった子がオーバードーズをやめられないので、試しに自分でもと、1箱という単位でやってみた。確かにぐるぐる回る感覚はわかるけど、楽しくはない。その後、『私これ飲まなきゃダメだ』と言う友達がいて、『半分もらうからちょっと抑えて』と飲んだら意外と楽しかった」と話す。

界隈では、オーバードーズの状態でカラオケに行く“パキカラ”を楽しんでいるという。そのため、「一種のコミュニケーションツールであるのと同時に、楽しくなかったらやらないとも思う。飲酒や喫煙とあまり変わらない感じなのではないか」との認識を示した。
BADさんは、「飲みニケーションって言うけど、パキってる状態でコミュニケーションを広げる“パキニケーション”。逃げ場がない子たちばっかりの仲間意識がある」と説明した。
■ジャーナリスト「“人とは違ってかっこいい”という別の価値観への転換を」
若者の薬物事情などを取材するジャーナリストの石原行雄氏は、オーバードーズ界隈には「ガチ勢」と「好奇心勢」がいると説明する。「前者は家庭で虐待を受けていたり、解離性障害で“自分が自分でいられるためにはオーバードーズしかない”という方。後者の勢力も少なくはない」。

また、「オーバードーズはダサい」という空気づくりが必要だと訴える。「オーバードーズの起源は、どうやら1990年代のサブカルブームにある。ドラッグや自傷行為をすることが、“普通の友達とは違う特別な私”“かっこいい”みたいな価値観があった。本当に治療が必要な方は別だが、好奇心でやっている人は、“人とは違ってかっこいい”という別の価値観への転換で対処できると思う」との見方を示した。
これにうにさんも理解を示し、「オーバードーズの写真をSNSにあげたり、錠剤をデザインした服なんかもある。それを着ている人は自分で体現しているわけで、一種のファッションなんだろうなと。それをダサいとか否定されると怒ると思うので、どうやったら止められるかは難しい」と語った。
■「裏ではめちゃくちゃ苦しんでいる。それに気づいてほしい」
BADさんが訴えるのは、「かっこいいとか、ダサいとかは正直どうでもいい。自分らが楽しいからやっているけど、その裏ではめちゃくちゃ苦しんで、つらい思いをしている。それに気づいてほしいという思いがある」ということだ。
うにさんは、「4人くらいでパキカラした時、歌いたいし話したいのに、みんなパキっていて会話が通じない。僕もオーバードーズして意識を落としたら笑えたけど、ある意味これは現実逃避。オーバードーズを繰り返して、相手のことも自分のことも人として思えなくなってきて、いつの間にか自分の言葉で傷つける。オーバードーズは肝臓に対する自傷行為で、どうしようもないと思うけど、どれだけのSOSサインが絡まっていて、どれだけ伝えられないことがあるのか。受け取り手が会話を経ずとも考えることが大事なのかもしれない」と語る。

石原氏は、「基本的にオーバードーズをやっているのは若い子ばかり。子どもは経済的にも、1人で何かすることもがんじがらめでできないわけで、お酒を飲むことも禁止されている。じゃあどうするの?となった時に、かぜ薬などは合法的に1箱500円とかで手に入って、全部飲めば現実逃避できる。別の価値観や逃げ道みたいなものを大人や社会がいかに提示できるかだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
