社会

ABEMA TIMES

2025年12月21日 11:00

企業にも「哲学」は必要なのか?AI時代に急増する“企業内哲学者”の存在意義 ガバナンス・コンプライアンス時代に経営者が注目する理由

企業にも「哲学」は必要なのか?AI時代に急増する“企業内哲学者”の存在意義 ガバナンス・コンプライアンス時代に経営者が注目する理由
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 ビジネス特化型SNS「LinkedIn」において、肩書やスキルに「倫理」や「哲学」に関連するワードを含んでいる人が、この5年で6倍に急増している 。AIが進化を遂げ、予測不能な未来が訪れる中で、GoogleやAppleといった世界的大手企業が「哲学者」を正社員として雇用し始めるなど、2500年以上の歴史を持つ学問が今、ビジネスの最前線で注目を集めている 。

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 「哲学では飯は食えない」と言われてきたのはもはや過去のことなのか 。ABEMA Primeでは、企業内哲学者として活動歴のある佐々木晃也氏、大阪大学大学院で哲学を研究する森脇透青氏を招き、企業が哲学者を雇用する意義について議論した 。

■企業内哲学者の仕事は「組織文化の解析とツッコミ」

哲学者とは

 6年前からコンサルティング会社で企業内哲学者を務めていた佐々木氏は、公認会計士が中心の組織で監査役という立場から関わっており 、自身の活動を次のように説明する。「基本的には人類学者がやることに近い。会社もそれぞれ独自のカルチャーを持っていて、暗黙に良いとされているもの、悪いとされているものが、振る舞いの価値評価にある。それを逐一、道徳的観点から突っ込むというよりは、それらが体系的にどう成り立っているのかを明らかにした上で、問い直す役割だ」 。

 実社会のフィールドで活動することについて、「研究者という業績のゲームの中では経験されない、社会との直接的な戦いのような経験。誰か哲学者の理論を参照して説明することもあるが、基本的には目の前のその人たちに素手で、生で問いかけたり反論したりしなければならない場面がある」と、その実感を語った 。

 これに対し、森脇氏は哲学の持つ「危うさ」を強調する。「哲学はソクラテスが『あいつはヤバい』と死刑にされたところから始まっています。ある意味、社会に対する反発から始まっていて、歴史の中では社会正義の役に立つこともあれば、敵になることも何度もあった。それがコンプライアンスやクリエイティビティーといった言葉に切り詰められてしまうのは惜しい気がする」と、安易な流行に警鐘を鳴らした 。

■「マスコット採用」か「異質な視点」か

哲学者のニーズ

 2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏は、企業による哲学者の起用を「ある種のPR活動」と分析し、次のように切り込んだ。「Googleのような会社が『悪いことをしない会社ですよ』とアピールするために、綺麗な経歴の人や倫理の人を雇うのは、PRとして大事な『マスコット採用』だと思っている。エンジニアが判断したと言うよりも、権威のある人が客観的に判断したと言うほうが、儲けだけではないというエクスキューズになるからだ」 。

 一方で、ひろゆき氏は哲学者の「職能」として別の価値も提示した。「会社でずっとやっていると『一般人ってこうだよね』と自分の考えが正しいと思い込みがち。最初から(視点や考え方が)ずれている哲学者が混じっていることで、『あれ、本当にそうなんだっけ?』と見返す場面が生まれる。権力者に対して何でも言っていいという、伝統的なピエロと同じ仕事をしているのではないか」 。

 森脇氏もこの論には同意しつつも、「AI時代の責任などの話になった瞬間、哲学者が『まともな人間であること』を強制される。不適合な役割として面白い立ち位置にいたはずなのに、社会問題に対してお墨付きを与えるような『いい人』になりすぎているのではないか」と、企業に取り込まれる哲学者の在り方に疑問を呈した 。

■「監査役としての有用性」と哲学者の展望

佐々木晃也氏

 近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏は、当初は懐疑的であったが 、佐々木氏が「監査役」として独立した権限を持っている点を聞くと、その有用性を高く評価した 。 「今、ガバナンスやコンプライアンスとか厳しくなると、監査役的なところに弁護士や会計士を入れるが、現行のルールの中でどう整理するかであれば、外部の弁護士事務所、会計事務所に聞けば分かる」と、企業内にいる必要性が低いと感じている 。

 その上で「不祥事対応などは、法律や会計ルールでバサッと切っても解決にならないことが多い。監査役の仕事は企業のモラルや社会全体の成り行き、どういうモチベーションで各ピースが動いているかを見ながら考えなければならない非常に難しいもの。そこを弁護士や会計士という現行ルールの専門家ではなく、哲学者が担うのはアリだと思った」 。

 また、ひろゆき氏は「答えもないし、哲学者も優秀ではないけれど、いろいろ議論して話を進めていく役割として『異質なものが必要だよね』という認識が広まってきたレベルの話ではないか」と語っていた 。 (『ABEMA Prime』より)

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