東京・赤坂の繁華街に位置する高級個室サウナで発生した火災事故。利用客の男女2名が死亡したこの事故だが、捜査関係者への取材で、運営側の不備と思われる点が見えてきた。テレビ番組「ABEMA Prime」では、なぜ被害者が脱出できなかったのか、そして急速に普及する個室サウナが抱える制度上の課題について、実際に同施設を利用した経験がある気象予報士の穂川果音、業界関係者を交えて議論が行われた。
■脱出を阻んだ設備不備

事故が発生したのは12月15日正午過ぎ。出火したサウナ室内から、松田政也さんと妻の陽子さんが発見され、死亡が確認された。捜査関係者への取材によれば、政也さんは陽子さんに覆いかぶさるような状態で倒れており、その手には扉を激しく叩いた際にできた皮下出血が確認されている。意識を失う直前まで、妻を熱から守りながら脱出を試みた形跡が残されていた。
夫妻が室内の非常ボタンを押した形跡があり、ボタンは押し割られていたものの、警報がスタッフに届くことはなかった。施設のオーナーは取材に対し、「今まで警報盤の電源を入れたことはない。触ったことがない」と証言しており、緊急時の連絡手段が事実上機能していなかった実態が判明している。
番組では、実際に当該施設を利用した経験を持つ番組の天気担当、気象予報士の穂川果音が、当時の印象と室内の詳細な構造を報告した。「外観はかなりラグジュアリー。見た目がとてもきれいで、何よりも新しい施設だったので、結構信頼をして使用した」と語る。しかし、その一方でサウナ室のドアには強い違和感があったという。
一般的なサウナ室のドアは内側から押すだけで開くタイプが多いが、この施設ではドアノブを下げて手前に引かなければならない、サウナにしては特殊な構造が採用されていた。「ドアノブを下げて引くようなタイプを見たことがなかったので、すごく珍しかった」と、当時の直感を振り返った。また、個室サウナの特性について、「本当にプライバシーが守られてる空間。2時間など時間が区切られて使用でき、その時間はスタッフも入ってこないような状況。倒れてしまった場合でも、見つかりにくい怖さはある」と安全管理上の死角を指摘した。
■専門家が指摘する設計セオリーの欠如

サウナ文化に詳しく、自身もサウナ店のマネージャーを務めるヨッピー氏は、このドアノブの形状について、「あのような形状のドアというのは非常に珍しい。最近はサウナに詳しい人たちもたくさんいますから。多分、使ってるお客さんからお店にも、あのドアノブ、危なくないですかという話はいってると思う」と推測した。通常、サウナ室の扉には安全を確保するため「ラッチ(戸締り金具)」を設けないことがセオリーであり、ヨッピー氏は「内開きにすると(サウナ室で)中で倒れた人がドアに乗っかると外から開けられなくなってしまう。だから外開きにするなどの暗黙の了解、セオリーがある。それを持っていない会社が作った可能性もある」と設計上の欠陥を強調した。
また、当該施設が「旅館業法」で認可を得ていた点についても、「旅館業法は、宿泊施設にサウナがくっついているという認可。あそこは別に寝る施設でもなんでもないのに、なぜ旅館業法で通しているのか」と疑問を呈した。ヨッピー氏は業界の健全化に向け、「真っ当にやっている人たちは安全管理に相当気をつけている。人命に関わる部分、ラッチを作っちゃダメとか、非常用電源を切っちゃダメとか、そんな規制ならみんなウェルカムなはず」と、法整備の重要性を訴えた。
■業界の法整備と今後の展望

温浴施設の経営コンサルタントである望月義尚氏は、個室サウナという業態が急増した背景として「初期投資を抑えられる。銭湯は100坪近くないと作れないが、個室サウナは1部屋2坪ぐらいで作れてしまう」と語る。
ニーズとして、友人同士で過ごしたいといった個室需要の高まりを認めつつも、安全対策の徹底を求めた。「個室業態そのものは、貸し切りも含めてあっていいし需要もある。それにどう安全に対応していくかが大事」とした上で、日本の温浴業界の歴史について、「これまでもいろいろな事故を経て法律が整備されてきた。温泉の爆発などが起きた後に法律が整備されていくということが繰り返されてきている。今回もそういう動きになっていくのだろうし、業界はその意味を受け止めて安全にしていかなければならない」と述べた。
またヨッピー氏も、今回の事故によるサウナのイメージダウンを危惧する。「サウナそのものが悪いとなるのは嫌。サウナで倒れる人もいるが、風呂は人が倒れるもの。家の風呂で倒れて助けが誰もいなくて、そのまま亡くなる方が年間1万人もいる。ただ銭湯などであれば、倒れても助けてもらえる。逆にそちらの方が安全という考え方もあるので、サウナそのものをあまり悪く思わないでほしい」と願っていた。 (『ABEMA Prime』より)
