災害をもたらす危険な雨として一般にも広く認知されるようになった「線状降水帯」。
この情報に対して、テレビ朝日ウェザーセンターから情報を発信する気象予報士として、その課題や情報の捉え方について考えたいと思います。
線状降水帯とその予測情報
「線状降水帯」はその局地性から発生の予測が大変難しい現象です。しかし技術の発展に伴って近年はある程度、発生を予測できるようになってきました。
気象庁は2022年6月1日より、「線状降水帯による大雨の半日程度前からの呼びかけ(線状降水帯予測情報の発表)」を行っています。
予測情報の運用は2022年からですが、3年目の2024年には予測の対象範囲を地方単位からより細かな都道府県単位にアップデートしています。さらに2029年には市町村単位で危険度の把握が可能な危険度分布形式の情報の提供を目指すなど、今後も精度の向上、発展が期待される技術です。
予測精度の検証 適中率は想定を下回るも捕捉率は高め
ここで現時点の精度検証です。気象庁が発表している最新の2025年実績は以下の通り
適中率:約14%(88回中12回) 前年比4ポイント上昇
捕捉率:約71%(17回中12回) 前年比33ポイント上昇
※記載のデータは気象庁HP掲載の“令和7年の実績【令和7年11月14日時点】"より
捕捉率:「線状降水帯が発生」した回数に対して「予測」が発表されていた割合
まず目立つのは、その適中率の低さです。前年実績の適中率約10%と比べてもほぼ横ばいとなっています。一方で、捕捉率は約71%と前年の約38%と比べて大幅に高くなりました。
一般に適中率と捕捉率は反比例の関係にあり、適中率を上げようと予測基準を厳しくすれば捕捉率は下がり、反対に捕捉率を上げようと予測基準を緩めると適中率が下がります。
「線状降水帯」のような災害をもたらす危険な現象に対しては、見逃しがないように、ある程度は適中率を下げてでも捕捉率を高めにしようとするのは妥当な設計です。
実際に気象庁も当初の想定として適中率25%(4回に1回)、捕捉率50%(2回に1回)と捕捉率を高めに想定しています。その意味で前年より大幅に捕捉率が高くなったことは評価できます。ただ、適中率と捕捉率のバランスは非常に難しく、捕捉率を高く維持するために予測情報の発表を乱発してしまうと受け手の警戒感が薄れてしまいます(予測情報がオオカミ少年になってしまう)。捕捉率に偏った現在の実績には課題があると考えられます。
現場の受け止めは
いち気象予報士としての意見になりますが、今年は線状降水帯予測情報の発表が多すぎたという印象があります。この情報が発表されるとウェザーセンター内でも緊張感が一気に高まります。必ず伝えなくてはならない重要な情報として、局内でも気象情報の優先度が高まります。2025年は府県単位で88回予測情報が発表されました。発表日数は7月〜9月にかけて集中していて、ほぼ3日に1日はどこかで線状降水帯予測情報が発表されていた状態です。出水期のはじめはこの情報に対しての注目度が非常に高いという実感がありましたが、発表が重なるにつれてこの情報への警戒感が次第に薄まっていくような懸念がありました。
情報をどう受け止め、どう伝えていくべきか
いまのところかなり低く見える適中率ですが、もう一つ知っておくべき事実として、予測を外した裏で実は「大雨」が発生していたということがあります。線状降水帯予測が発表された88回のうち、大雨といっていい3時間100mm以上の雨は53回、約60%の割合で発生していました。
「線状降水帯」発生の有無のみで考えると非常に低い適中率も「大雨」発生の予測としては高い精度となっているのです。気象庁も「線状降水帯の発生の有無に関わらず、発生予測情報の発表があった際は、 大雨災害への心構えを一段高めていただくことが重要。」としています。
また、予測情報の対象とした時間の2時間前に発生したもの(8月8日の鹿児島県)や、中国地方での発生を予想したものの、実際には九州北部で発生した例(9月10日)など予想には場所的や時間的、規模的なずれが生まれています。幅を持って受け止め、伝えていく重要性を実感しました。
空振りをおそれず適切な備えを
頻繁に発表される線状降水帯の予測情報にどこか慣れてしまった方もいるかもしれません。
ただ、線状降水帯はひとたび発生すれば命にかかわる危険な現象です。その発生の可能性を半日程度と時間的な余裕をもってお伝えするためには、ある程度の空振り(予測が外れること)を許容するしかありません。自宅や生活圏のハザードマップを確認しておくなど備えは日ごろからするとともに、日々の気象情報に耳を傾け、線状降水帯のような危険な現象が予想された際には空振りを恐れず避難行動につなげてほしいと願います。
テレビ朝日ウェザーセンター 気象デスク 野口琢矢
