社会

ABEMA TIMES

2025年12月23日 13:00

特攻機と重なり…学校名「桜花」が物議 反対する市民団体「戦争体験や記憶の風化に警鐘を鳴らしたい」

特攻機と重なり…学校名「桜花」が物議 反対する市民団体「戦争体験や記憶の風化に警鐘を鳴らしたい」
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 福岡県大牟田市で進む市立中学2校の統合で、両校の校長やPTAは新校名を生徒や住民から募集した結果、花の咲く土地柄にちなんだ「桜花(おうか)中学校」と決定した。しかしそこに、「桜花とは太平洋戦争で使われた特攻機と同じ名称だ」との指摘が…。

【映像】太平洋戦争での特攻の瞬間(当時の映像)

 多くの若者が命を落とした「桜花」の名を学校名にしてはならないと、市民団体が市の教育委員会に、校名の再考を申し入れた。

 SNSでは「特攻の歴史を知るいい機会にはなった」「競馬の桜花賞も、桜花の名の付いた学校もあるのに、なぜ騒ぐ」「美しくてありふれた言葉なのに。言葉狩りだ」など賛否さまざまな声が出ている。戦争を想起する名称などを、どこまで考慮すればいいのか。『ABEMA Prime』では識者と、申し入れを行った市民団体関係者とともに考えた。

■特攻機「桜花」とは

特攻機「桜花」

 特攻機とは、どのような兵器なのか。太平洋戦争末期、戦局が悪化する中、神風特別攻撃隊(特攻隊)が組織された。主に航空機に爆弾を積み、標的に体当たりをする、生還を前提としない攻撃だ。

 そんな状況で特攻専用機として開発されたのが「桜花」だ。全長6メートル、先端に1.2トンの爆弾を搭載し、着陸装置も取り付けていない。戦場へは中型攻撃機につるされて運ばれ、敵艦に近づくと切り離され、ロケットを噴射し、目標へ体当たりする。そのため「人間爆弾」とも呼ばれることもある。

 平和学者で政治学者、新潟国際情報大学の佐々木寛教授は、「日本軍が行き詰まった戦争の終末期に、人間魚雷や特攻隊のように、人間の身体を兵器にするしかなくなった。桜花は米軍からは『バカな爆弾』と言われていたくらいで、非合理的な状況になった日本軍や、戦争の愚行の象徴だ」と説明する。「戦争は次世代を守るために行うが、次世代を武器にした。いったい何を守ったのだろうと思わせる、本末転倒で残念な歴史の象徴だ」。

■「桜花」案に反対の理由

中井康雅氏

 中学校名の「桜花』案に反対する理由について、申し入れた団体の1つ、「九条の会おおむた」事務局長の中井康雅氏は、「政治的な意図でないことはわかるが、知っている者からするとやはり違和感」とする。「『桜花』と聞いたときに特攻兵器が浮かんでしまう」としつつ、「『だから撤回せよ!』と抗議するつもりはない」とも考えるが、「戦争体験や記憶の風化に警鐘を鳴らしたい思いもあって申し入れ書に賛成した」という。

 中井事務局長は、「申し入れ書には『撤回しろ』ではなく、『再考して』と書いてある。桜花の校名を提案した子どもたちが、特攻の歴史や戦争の悲惨な現実を知らないのなら、子どもたちが納得いくように説明すべき」と求める。

 そして、「その上で、校名にするか、考え直すかだ。私たちは校名を決める当事者ではないため、そこには口出しできない。ただ、そのまま決まってしまうことには異議を唱えたい」とした。「一般名詞として『サクラの花』の意味はあるが、特攻兵器として用いられた歴史もある。歴史を知る者としては引っかかるが、そこに引っかからない人が増えていることに危機感を持っている」。

■「学校に教育の全部を投げてしまっている問題がある」

佐々木寛教授

 現状の教育システムにも課題があるようだ。佐々木教授は「学校の現状は深刻で、そこには学校に教育の全部を投げてしまっている問題がある。歴史や政治の教育を教師だけでやるのは、マンパワーが足りない。結果的に外からクレームが付いて、子どもたちも『せっかく自分たちが決めたのに』とマイナスの経験になる」と考える。

 その上で、「これをチャンスにして、地域住民も歴史・政治教育に関わって教師を助け、子どもたちと話す機会を作る。そうすれば、責任の押し付け合いではなく、地域にとっていい教育になるのでは」と提案する。

 大学入試データベース未来図代表の孫辰洋氏は、「『学校教育において、どうやって歴史教育を構成するか』と『“桜花”を忘れない』という2つの目的がある。忘れないことは大事だが、今のリソース不足の学校ではできない」と話す。そして佐々木教授のアイデアには「100%同意だが、誰が地域の人を学校に巻き込み、誰が責任を取るのか。いま教育委員会や教師は悩んでいるが、違うアプローチはなかったのか」とコメントする。

 ジャーナリストの堀潤氏は、「正々堂々と『桜花中学校』と付けて、『住民の声が上がったが、当時の責任者は“桜花”の歴史を知らなかった。だからその歴史を考えて、次の平和を作る場所になる』といった位置づけもできるのでは」と考えている。

 中井事務局長は「僕たちには戦争の歴史を記憶する責任がある。戦争体験を直接した人が、だんだん日本から消えていく中で、次の世代にどう継承するか。今回『特攻機について知らずに、桜花と決めていいのか』と問題提起をした。これを受けて、当事者の中で論議をしてほしい」と願った。

(『ABEMA Prime』より)

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