思春期の子どもの10人に1人が発症すると言われている「起立性調節障害」。
【映像】「意識がない」起立性調節障害の高1が朝起きれない様子(実際の映像)
健康な人の場合、あおむけの状態から立ち上がると、下半身にたまった血液が、自律神経の動きで全身に行き渡る。ところが起立性調節障害は、自律神経の働きが悪く、朝起き上がるときに血液が行き渡らず、特に脳の血液が不足する。
実態が知られておらず、不理解から“サボり癖”と誤解されることも。起立性調節障害に、周囲や学校はどのような配慮が必要なのか。『ABEMA Prime』では当事者とともに考えた。
■起立性調節障害の日常

高校1年生の中山知佳穂さん(16)は、「起立性調節障害」に悩んでいる。朝6時すぎから5分おきに母親が起こしにくるが、反応はないまま。そして9時にようやく目を覚ます。すでに学校の始業時間を過ぎているが、ここからさらに立ち上がるのも難しいという。「横になっている時はちょっと気持ち悪い。起き上がる時に多分、脈が上がって動悸がした」。
母親の声かけは「意識がなく覚えていない」といい、「目が覚めてからも頭痛や吐き気の症状と倦怠感がひどくて、起き上がれない時間が続く」と明かす。学校に行けるのは昼ごろで、日によって症状の程度も違う。「大事な行事の時は交感神経が働いて行けることがあり、『授業やテストは来ていないのに、行事の時は来られるの』と言われた」。
母親の知映さんによると、身体の不調がメンタル面にも影響を及ぼしているそうだ。「活発で意欲的だった小学校の頃と変わり、『どうせやってもできないから、あまりやる気持ちになれない』ということがちょこちょこある」。
ピアノなどの楽器を演奏するのが大好きな知佳穂さんだが、「元気な時じゃないとなかなかずっと弾けなくて、練習もそんなにできない」。肝心の勉強も「数学Aは問題集を解くのもなかなか難しくて諦めてしまった。ほとんど解けなかった」と話す。
■治療法は?

知佳穂さんの主治医である、小児科専門医で昭和医科大学の田中大介教授は、「思春期の10人に1人と言っても、全員が学校に行けなくなるわけではない。この疾患の根本的な原因は、自律神経の不調だ。本来は朝になると交感神経が働き、血圧を上げたり、循環動態をコントロールしたりするが、それが朝から立ち上がらない。働き始める昼や午後になると元気になるが、夜寝て起きると再び活動できない。そこに一番の問題がある」と説明する。
経過については「90%以上は高校生ぐらいで良くなってくる。思春期は背も伸び、体重も増える。二次性徴でホルモンも変わり、自律神経とのバランスがうまくマッチせず、血圧などに影響が出る」という。「人間の睡眠サイクルは『起きて16時間後に眠くなる』。10時に起きると、眠くなるのは深夜2時になり、寝ようと思っても寝られない」。
「イベントの日は起きられる」というメカニズムは、「うれしくて交感神経が働くから」だそうだ。「朝その勢いで起きて、普段は使っていないエネルギーまで使い果たすため、次の日は疲れてしまう。イレギュラーでも交感神経が働いて、やりたいことができるのは良い。その反面、その後のことは今後考えていこうとなるが、周囲に理解されないと『ディズニーランドに行けたのに学校には来られない』と言われる」。
治療法としては「特効薬はない。血圧に関わるため、水分1.5〜2リットルぐらいと塩分を取ることがベースになる。起立性調節障害では、頭と心臓、足が平行だと血液が楽に流れるが、立つことにより下に行った血液を上げるメカニズムを作動しないとならない。そのため、さっと立ち上がらない、じっと立ち続けないといった姿勢の保ち方も重要だ」と説く。
■「同じ病気の当事者のために、もっと理解を広げていきたい」

起立性調節障害をめぐっては、まだ周囲の理解が足りない現状がある。知佳穂さんは「発症当初は自分でもどうして起きられないのかわからず、周りから『なんで起きられないの』と言われると、自分自身が怠けていると誤解してしまった。『こういう病気なんだ』と、周囲から当事者に言ってもらえるのが一番いい」と提案する。
そして、「私自身もこの病気を受け入れるのには時間がかかった。病院で教えてもらい、体調が悪い自分を受け入れて、学校に行けない間も向き合うしかない。落ち込むことも多いが、時間がたつにつれて、だんだん自分の体調も把握できるようになってきた」と振り返る。
周囲からの助けは「久しぶりに学校に行けたときに“やっほー”とあいさつしてくれる。それだけでも来て良かったと安心できる。体育の授業に出られない時に、『サボっている』ではなく『体調悪いんだよね。無理しないでいいよ』と言ってくれるだけでも明るくなれる」と感謝する。
そんな知佳穂さんは、同じ悩みを分かち合いたいと、「当事者の会」を立ち上げ、ネット上などで交流会を開いている。これからの目標について聞いてみると、「体調が悪い中で、今後の進路が決まらない部分もあるが、同じ病気の当事者のために、もっと理解を広げていきたい思いが一番だ。正しい理解が広まり、苦労せず傷つかない当事者が増えればいいと思っている」と答えた。
(『ABEMA Prime』より)
