有名な絵画などのデザインを、手織りの絨毯(じゅうたん)として仕上げる伝統の技術があります。その最後の名人が亡くなり途絶えたかと思われましたが、その技術は刑務所の受刑者によって受け継がれていました。
伝統技術を刑務所で継承
ここは、大阪府堺市にある「大阪刑務所」。今月、番組のカメラがその内部に入りました。目的は、刑務所内で行われているある作業を取材するためです。
広いスペースの一角で、歌舞伎役者が描かれた浮世絵を見本に絨毯を作っています。これは、およそ200年前に生まれた「緞通(だんつう)」と呼ばれる堺市の伝統技術です。
作業専門官
「刑務作業の職業訓練として導入したのが始まり。(技術を)途絶えさせるわけにはいかないので、また後継者も育てていきたいなと思う」
この「堺緞通」の技。かつては、町の多くの農家が兼業として営んでいました。
西埜植俊成会長
「小さい頃から『緞通』を自転車で運んでいる方が、ちょくちょく、うちの町内では見ましたね。(音が)『ダンダン、ツーツー』と聞こえて『緞通』になった(という説も)」
受刑者の手織り絨毯
1992年に最後の名人が亡くなり、製品レベルの技の継承が途絶えてしまいました。その技術を唯一受け継いでいるのが、大阪刑務所です。
ここは覚醒剤や窃盗など、再犯リスクの高い日本人や外国人の男性、およそ1200人が収容されています。
受刑者の部屋にはテレビがあり、新聞を読むこともできます。一日のスケジュールを見ると、体育館で運動する時間なども設けられていますが、午前と午後で合計7時間ほどあるのが、刑務作業です。
しかし誰もが緞通に関われるわけではありません。
「比較的『刑期が長い』のが第一。作業に対する『集中力』『手先の器用さ』『色彩感覚』そういったものが条件として考えられます」
現在、この条件を満たしているのは3人だけ。うち2人は外国人です。
緞通は、「トルコ結び」や「ペルシャ結び」と呼ばれる方法で、縦糸2本に色糸を結びつけ、はさみでカットしていく、とても手間のかかる作業です。
「今ではもう18年ですね。少しでも売れたら、すごくうれしいです」
一日に1センチほどしか進まない作品もありますが、機械では再現できないデザイン性と丈夫さが魅力です。
名人技作品が10分の1価格
今月、都内で開かれた「矯正展」でも、彼らの作った緞通が大きく展示・販売されていました。
「伝統工芸がなくなって、それを継承しているって。そこが私の一番のひかれたところです」
受刑者の作業は人件費が発生しないため、価格は一般的な緞通の10分の1ほどと安くなっています。
名人が消え、刑務所の中だけで受け継がれる緞通の技。この伝統は今後どう守られていくのでしょうか。
(「グッド!モーニング」2025年12月29日放送分より)








