社会

ABEMA TIMES

2025年12月30日 19:30

スポーツにおける「ずる賢さ」は悪か?世界で勝つためのメンタリティ 鄭大世氏「汚い手を使っても勝利は経歴」ウルフアロン氏「結果を出した後に道のりが注目される」

スポーツにおける「ずる賢さ」は悪か?世界で勝つためのメンタリティ 鄭大世氏「汚い手を使っても勝利は経歴」ウルフアロン氏「結果を出した後に道のりが注目される」
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世界で勝つために必要なものは

 2026年は国際スポーツ大会ラッシュを控えている。2月にミラノ・コルティナで冬季オリンピック・パラリンピックがあり、3月には野球のWBC、6月にはサッカーのワールドカップもあり、それぞれ日本人選手の活躍が期待されるところだ。

【映像】サッカー日本代表、歴代の外国人監督が指摘してきた「ずる賢さ」が足りない点

 海外の強豪を相手に、世界で勝ち抜くために何が必要か。その中の一つがポルトガル語で「マリーシア」を意味する「ずる賢さ」の是非だ「ABEMA Prime」では、元トップアスリートたちが、勝利を掴むためのずる賢さについて議論を重ねた。

■正々堂々、どこまで世界で戦える?

世界で勝つために必要なこと

 サッカー元北朝鮮代表の鄭大世氏は、日本サッカー界が抱える「クリーン」な現状に疑問を投げかける。自身がワールドカップのアジア最終予選で感じたことを振り返った。また、海外の選手たちが「そこまでやるか」というほど徹底して勝利に執着する現実についても触れている。「勝っている状況では時間稼ぎをしなければいけないが、(海外の選手は)やりすぎだろというくらいやる。すぐに痛がってプレーが終わる度に倒れるし、ゴールキーパーに接触でもしたら、試合が3分、4分止まる」。

 勝利に向けた執着心が見えるエピソードだが、こうした行為は、日本で美徳とされる「正々堂々」とは対極にある。しかし、鄭氏は「正攻法で勝てるのが一番かっこいい」と認めつつも、世界で勝っている国々は「相手を潰すだとか、絶対にエースに仕事をさせない」と、なりふり構わぬ闘争本能を剥き出しにしていると分析する。

 鄭氏がドイツのブンデスリーガから、日本のJリーグに戻ってきた時に感じたことがある。「Jリーグに帰ってきて、すごく違和感を覚えたことがある。ブンデスのプレーヤーのセンターバックはシーズンに(イエローカードを)7枚、8枚と平気でもらう。でもJリーグで、センターバックの選手がフェアプレー賞をもらってすごく喜んでる姿に、すごく違和感があった」。

 鄭氏によれば、センターバックの本分は「前線のミスを責任取らなきゃいけない立場」であり、カウンターを食らった際に体を張ってイエローカードをもらってでも得点機会を阻止することが、戦略上の責務であるという。「(ファウルせず)自分の身体能力で勝負することで(相手と体が)入れ替わって失点をしてることも間違いなくある」と指摘し、ルールの範囲内で戦略的にファウルを選択するメンタリティの重要性を説いた。

■ウルフアロン氏「ルールを最大限に使って勝つのがスポーツ」

ウルフアロン

 柔道100キロ級の五輪金メダリストのウルフアロン氏も、この「ずる賢さ」を「戦略の一部」として肯定する。柔道には「指導」という反則があるが、彼はそれを勝利のために巧みに利用してきた。「試合がラスト30秒で、こちらが『技あり』のポイントでリードしている場面で、相手の技で投げられそうになった時、わざと相手の足を持って『足持ち』の指導もらうこともある。そこで投げられたら負けだから。指導のルールを利用して勝負をすることは、僕には戦略の一部」。

 ウルフ氏は「ルールを最大限に使って勝つのがスポーツ」と断言する。第一線で戦うトップアスリートとして、「フェアプレーでやらなければ勝てたのに、(ルールを守り)それで負けるのが一番ダサい」という勝負哲学を展開した。

 ソフトボールの五輪金メダリスト・三科真澄氏も競技特性の中で「見えない駆け引き」が存在することを明かした。「本当にギリギリのラインで、審判を騙すとか相手を騙すとか、そういう雰囲気を持ってグラウンドに立つことはあった。本当はタッチしていないけどタイミング的にはアウトだから、雰囲気的にさっと(タッチしたように見せて)逃げて顔でアピールすることもあった」。

■「親たちは子どもに聖人君主であってほしい」

鄭大世氏

 なぜ、日本人はこうした「ずる賢さ」に抵抗を感じるのか。コラムニストの河崎環は、日本人が持つ特有の性質を指摘する。「日本人には遵法精神があり、ルールに書かれていることは『そうでなければならない』となり、さらにはルールに書かれていないことまで空気を読み、行間を読んで抑制してしまう」と過剰に反応するケースもあると述べた。

 鄭氏もこれに同意し、日本の育成年代における「親の介入」を「親ブロック」と呼び、実情を指摘する。「親たちは自分の子どもをサッカーする時、汚いプレーをせず聖人君主であってほしいと思っている。ここ止めないとヤバいという時、タクティカルファウル(戦略的ファウル)を子どもがしたら、親がめちゃめちゃ文句を言う。僕は、それを『親ブロック』だと思う」。教育としてのスポーツと、勝負としてのスポーツのジレンマが、日本人の「したたかさ」を阻害している可能性も説いた。

 スポーツにおけるルールと駆け引きの議論に対し、近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏はビジネスシーンとの共通点と相違点を提示する。「例えば税金の仕組みなら、あらゆる人はなるべく逃れようとしてギリギリのところをやる。全てチェックできるわけがないから、やはりグレーゾーンがあるのは当たり前」。

 ただし、夏野はビジネス特有の側面として「信頼関係」を挙げる。スポーツが短期決戦で勝敗、順位がつくのに対し、ビジネスは「その時は勝ったけど、その後の信頼関係を築けないことによって、マイナスになることもある」ため、長期的な視点が必要だとしていた。

■負けたら終わり トップアスリートの世界

 改めてトップアスリートの立場からすれば、いかにして勝利をもぎ取るか。そのために全てを惜しみなく使うメンタリティが重要だと選手たちは語る。鄭氏は「どんな汚い手を使ったとしても勝利は経歴になる。それは積み重なっていくもので、その手段ではない。それに対してああだこうだ言う人は負け犬だ」。

 ウルフ氏もまた、「結果を残している人がまず見られる。結局、結果を出した後に、その道のりが注目される。負けた時に『でも、頑張ってきた』と言うのは、アスリートからしたらしょうもない言い訳だ」と言い切る。「こうやれば勝てたのにやらなかったと自分で気付いた時の方が、心がねじ曲がる」。

 また三科氏も「この勝利を絶対に勝ち取りたいという時に、それがずる賢さなのか賢さなのかわからないが、ルールの中のグレーゾーンを使うことはある。ルールを守っているつもりでも破っている選手もたくさんいる。そういう賢さを持って執念深く戦っている」と添えていた。 (『ABEMA Prime』より)

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