社会

ABEMA TIMES

2026年1月6日 15:00

「DNAから作る似顔絵」世田谷一家殺人事件解決のカギに? 冤罪の恐れや人権侵害のリスクも…元成城警察署長は「なぜ加害者の人権を守る制度設計になっているのか」と指摘

「DNAから作る似顔絵」世田谷一家殺人事件解決のカギに? 冤罪の恐れや人権侵害のリスクも…元成城警察署長は「なぜ加害者の人権を守る制度設計になっているのか」と指摘
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 2000年12月30日、東京・世田谷で起きた世田谷一家殺害事件は、まもなく発生から25年を迎える。名古屋主婦殺害事件は、26年目にして容疑者逮捕となったが、情報提供として公開された犯人の似顔絵は、数少ない目撃情報を元に描かれたとされ、しかも公開されたのは事件発生から16年がたってからだった。

【映像】実際に逮捕された容疑者との比較画像(複数カット)

 名古屋事件の被害者の夫、高羽悟さん(69)は殺害現場となったアパートの部屋を26年間、そのままの状態で保管し続けた。現場に残された犯人のDNA、つまり遺伝子情報を保存するためだった。高羽さんは容疑者逮捕前、取材に対して「残されたDNA情報をアメリカに送り、より精巧な似顔絵や画像を作ってもらいたい」と話していた。

 DNAを使った手配犯の似顔絵とは、どういうことなのか。元徳島県警察本部科捜研・研究員で、藤田法科学研究所所長の藤田義彦氏は、「目や皮膚の色、年齢を推定できる部分がある。これを遺伝子と言うが、それらによってモンタージュを作成する」と説明する。

 アメリカのパラボン・ナノラボ社には、現場に残された犯人のDNAから顔の特徴を推定する「ゲノムモンタージュ」の技術があり、捜査に導入されている。同社のエレン・グレイタク博士は、「人の目や髪、肌の色、そばかすの数を推定。顔の形については、顔の幅が広いか、顔が長いか、鼻の高さはどうかといった推定をし、その人と非常に似た似顔絵が作成できる」と語る。

 ゲノムモンタージュで推定された顔と、実際に逮捕された容疑者の写真を比べてみると、顔の形状や目元など、外見的な特徴を捉えているように見える。2万人を超える民間のDNAデータベースを活用しているため、精度の高い顔を推定可能できているという。実際に同社では約10年前から捜査機関に協力し、これまで200件以上の事件解決に貢献している。

 そもそも従来のDNA鑑定では、個人識別に使う「限られた領域」だけが分析対象になっていた。藤田氏は「昔は“ジャンクDNA”、ガラクタDNAと言われていた」として、かつて役割が十分に解明されていなかったDNA領域があったと説明する。しかし、このジャンクDNAにも外見の特徴に関わる情報が含まれ、統計的に推定できる可能性があるとされている。

 これを活用すれば、犯人のDNAが残されている未解決事件解決の手がかりになる可能性があるのではないか。世田谷一家殺人事件の捜査を指揮した警視庁成城警察署の元署長、土田猛氏は「DNAからの似顔絵作成、そこから捜査が進む」と話す。

 八王子スーパーナンペイ事件や、上智大生殺人放火事件など、犯人の手がかりすらないとする長期間、未解決の事件は数多く存在する。しかし、これらも名古屋や世田谷の事件でも、犯人は現場にDNAを残して逃走している。だが警察のデータベースに照合し、引っかからなければ、捜査は限られた情報だけが頼りとなる。

 警察は定期的にビラなどを配り、情報提供を求めている。ただ土田氏は、その手法にはすでに限界があるのではと指摘する。「『ささいな情報でも』と抽象的な呼びかけでは、受ける方が記憶を戻すことにはならない。『DNAですよ』『似顔絵ですよ』と、具体的にポイントを示した呼びかけが必要だ」。

 なぜ日本では、アメリカのように犯罪捜査にDNAが使われないのか。元埼玉県警科捜研 の乱用薬物科長で、法科学研究センター所長の雨宮正欣氏は、「鑑定技術の問題ではなくて、むしろ法律的な、あとは各人の感覚的な問題。こういう問題をクリアできるかどうかだ」と話す。冤罪や人権への懸念から慎重な意見がある。藤田氏もまた「一般論として、人の遺伝子を触るのは人権に触れるということ」と述べる。

 遺伝子情報は、究極の個人情報と言われ、プライバシーや人権を守るため、採取や開示には、本人の同意が必要となる。しかし特定すらされていない犯人の同意を得ることは、事実上不可能だ。また、再現された写真が事件と無関係の人に似ていた場合、冤罪の恐れもある。こうした人権侵害に加担したと非難されるのを恐れ、捜査協力に消極的な研究者も多いという。

 さらに2025年9月には、佐賀県警でDNA型鑑定をしていないのに、したかのように見せかける不正が発覚した。これがDNA捜査に対する警察当局の動きを、にぶくしているという指摘もある。

 それでも土田氏は、1日も早く日本でもDNA捜査を取り入れ、事件を解決しなければならないと主張する。「なぜDNA情報が活用されていないか。それは加害者の人権だ。なぜ(加害者の)人権を守る制度設計になっているのか、大きな疑問を感じる」。

 名古屋事件の被害者の夫、高羽悟さんは、容疑者の逮捕後も、事件現場の部屋を借り続けるという。「あの現場(アパート)は戦うシンボル。早く遺伝子情報を使って、もっと正確な似顔絵を作ってほしい」。

 DNAの似顔絵を強く求める理由は、未解決事件の遺族の多くが高齢者のためだ。「生きている間に事件を解決するのが、警察に課せられた使命」土田氏はそう話す。世田谷一家殺人事件の遺族、節子さん(宮沢みきおさんの母)は今年94歳になった。

 土田氏によると、「似顔絵が公開されると、『似ている』という情報が警察に入る。警察はそこから基本的な捜査を始める。似ている人物は被害者と接点があるのか。事件当時どこに住んでいたのか、といった基本的な捜査で詰めていき、容疑性を高めて逮捕に至る流れだ。似ているからと言って、すぐに犯人と決めつけて動くわけではなく、あくまで捜査の入口を示す」という。

 ゲノムモンタージュの技術と成果について「2019年に『DNA研究が爆発的に進んでいる』と報じられた。当時モンタージュ似顔絵から20数件の犯人が逮捕されていると表現されていたが、今年の報道では200件を超えるという。似顔絵公開で10倍以上も犯人逮捕に結びついている実例が、海外では起きている」と実態を明かす。

 一方で「日本が踏み込まないのには、人権問題がある」と説明する。「被害者にも加害者にも人権があるとなったとき、被害者の人権は残っているのか。私は検視官として司法解剖に立ち会ったこともあるが、被害者のご遺体は全裸で、頭髪も剃髪される。そしてメスを入れられて、臓器を検査するために取り出す。こうした姿を見ると、被害者の人権はゼロに等しい」。

 そして、「『(DNAは)究極の個人情報だから、踏み込むのには問題がある』という主張には、あなたの家族や大切な人が殺されて、DNAが残っている、それでも『人権の問題があるから、加害者の生体情報は研究は進んでいるけど、使わないでくれ』という思いになるか。ならないだろう」との考えを示した。

 しかし、いざ導入の機運が高まってもハードルは残る。「DNAは人権に関わる部分なので、しっかり法律に基づいて運用する。海外でDNAから似顔絵が作られているのも法律に基づいてやっている。例えば冤罪が起きました。DNA上の鑑定に問題があったとしても、それを検証して法改正して次に進んでいる。法律ができたから、そのままというわけではないし、法改正をしながらやっているという流れだ。ただ仮に今年法制度ができても、研究所の充実だとか、最大の問題はデータベース。進んでいるアメリカはDNAのデータベースが非常に多い。日本はここに踏み込む研究が進んでいないので、データが非常に少ない。こういう形で法律を施行しますよとなると、国民に周知するまで時間がかかる。裁判員裁判制度は5年後の施行だった。法律ができてもすぐに運用されるわけではない。(世田谷事件の遺族である)94歳の母・節子さんの年齢を考えると、来年法律ができても2〜3年かかるとなると、果たして間に合うのか。時間との戦いで、もう議論の段階ではない。踏み込むべきだと強く感じている」。

情報提供先 警視庁成城警察署 03-3482-0110

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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