今までは脳腫瘍にだけ承認されていた「ウイルスを使ったがん治療」ですが、研究開発が進み、他のがんにも広がりつつあります。今回、その最前線を玉川徹氏が取材してきました。
皮膚がん「悪性黒色腫」にも効果
「松本市の信州大学に来ています。皮膚がんの一種、悪性黒色腫(メラノーマ)に対するウイルス療法。その臨床試験の結果が中間解析として出ましたので、これから聞きに行きます」
臨床試験を行った信州大学医学部長・奥山隆平教授。中間解析の結果、驚きの効果が確認されたといいます。
「臨床試験がどういうふうに進んでいるのか非常に興味があるんですけど、どうですか」
「遺伝子組み換えウイルスを患者さんに打っているんですが、9例の患者さんに関しては解析をしっかり行いました。その9例の方のうち、有効性、奏効率、どれぐらいかというと、7人の方に関してよく効いた。割合としては77.8%となっているので、非常にいい結果だというふうに考えています」
2023年8月、実際に行われたウイルスを使った新たながん治療の臨床試験の様子です。患部の腫瘍(しゅよう)部分に注射を打ち、がん細胞を破壊するウイルスを投与します。
「“できもの”(腫瘍)の細胞にウイルスがくっついて、そして中で増えて壊していってくれるんです。なるべく多くの“できもの”にウイルスがくっつくように散らばします」
治療しているのは、皮膚がんの中で最も悪性度が高い「悪性黒色腫」。日本人10万人あたり1人から2人が罹患(りかん)する希少ながんで、5年生存率は、大きさが4ミリ以上の場合、およそ50%と言われています。
治療前の足の画像です。赤線で囲んだ黒くなっている部分ががん(悪性黒色腫)です。
治療を始めて7カ月後には、黒い部分は小さくなり、がん細胞がなくなりました。黒く残っているのはメラニン色素で、悪性のものではなく、取り除く必要はありません。
現在行われている悪性黒色腫の標準治療(免疫チェックポイント阻害薬)では、がんが消失あるいは縮小した割合である「奏効率」は34.8%です。
一方、標準治療とウイルス療法を合わせた臨床試験では、中間解析の結果、奏効率は77.8%でした。(被験者9人)
ウイルス使ったがん治療 仕組みと効果
高い治療効果が確認されたウイルス療法とは、一体どのような仕組みなのでしょうか?
番組では8年前の2018年1月、治療法を開発した、東京大学医科学研究所・藤堂具紀教授を取材しました。
「どういう治療法になるんですか」
「ウイルス療法という、がんの新しい治療法なんですけど、がん細胞だけを破壊するウイルスを人工的に作って、そのウイルスそのものを薬にするという治療法ですね」
がんに対するウイルス療法には、2つの効果があります。1つ目は、ウイルスが直接がん細胞を破壊するというもの。ウイルスは、がん細胞に感染するとすぐに増殖を始め、次々とがん細胞を破壊していきます。
実際にウイルスが、がん細胞を破壊する映像です。ウイルスは、がん細胞に感染すると赤く光るように細工されています。細長い形状のものが、がん細胞です。
がん細胞は、感染したウイルスの増殖が進むと丸くなり、その後、はじけるように破壊されていきます。
「あ、はじけた」
「はじけて死にましたね」
「ウイルスが外に出る時に、基本的には破壊して(がん細胞が)死んでしまいます」
治療に使うウイルスは、3つの遺伝子をオフにすることで、がん細胞のみで増え続け、正常細胞では増えません。そのため正常細胞は、ウイルスに感染しても傷つくことはありません。さらに…。
ウイルスによるがん細胞の破壊が行われると、免疫はウイルスと破壊されたがん細胞を一緒に排除しようとします。この時、免疫は今まで認識していなかったがん細胞も新たに認識するようになり、破壊されていないがん細胞も排除しようとするのです。
ウイルス療法は当初、脳腫瘍の一種「膠芽腫(こうがしゅ)」を対象として開発されました。
膠芽腫は、再発後に標準治療(摘出手術・放射線治療・化学療法の組み合わせ)での1年生存率はおよそ15%。
一方、ウイルス療法の臨床試験では、治療開始後の1年生存率が84%でした。(被験者19人)
臨床試験を受けた患者「どんどん良くなっている」
藤堂教授が開発したウイルス療法は、2009年から2020年まで脳腫瘍に対する臨床試験が行われ、その後、2021年に膠芽腫を含む脳腫瘍の一部(悪性神経膠腫)に対して承認、実用化されました。
同時に、新たなウイルスを開発し、悪性黒色腫に対する臨床試験も2019年から開始。現在行われている第II相試験では、中間解析(被験者9人)で高い治療効果が確認され、実用化への期待が高まっています。このように、ウイルス療法の研究開発は着実に進んでいるのです。
「悪性黒色腫って皮膚がんですけど、皮膚だけじゃなくて、他のところに転移をするということで、予後があまりよくないがんだということですよね」
「はい」
「局所じゃなくて転移とか、そういうふうなことに関しては効果はどうなんでしょうか」
「打ったところにも効くのですが、中にはですね、打っていない部分にも非常によく効く場合が非常に高頻度で見られています」
「高頻度なんですか」
「はい。そのため、例えば肺の転移巣には打っていないけど、打っていない肺の転移巣が小さくなってきたというようなこともよく見られているところです」
「それはどうしてかというと、皮膚、皮下、リンパ節の転移巣にウイルスを打って、ウイルスががん細胞を打った部分で壊すのですが、そこで腫瘍免疫、がんの免疫が誘導されるので、自分の免疫の力が高まって、がんをしっかり認識して、それで肺の転移巣であったり、肝臓の転移巣、そういうものをやっつけてくれる。それで打っていないところにも効くというようなことなんだろうと考えています」
臨床試験では今のところ、ウイルスによる重篤な副作用は確認されていません。
およそ4年前、鼠径(そけい)部にウイルスを投与した男性も、その効果に驚いているといいます。
「治療から変化はどういう状態ですか」
「正直申し上げて、どんどん良くなっているというのが実態だと思います」
「良くなっているんですか」
「例えば歩行することでも感じるようになるんですね。ここ(鼠径部)のリンパ節ですから、どちらかと言えば歩きにくかったわけですよね。そんなことはもうどんどんなくなってきて、もう今ではほとんどないですね」
対象拡大への期待…副作用に懸念も
さらに、脳腫瘍や皮膚がんだけでなく、多くのがんを治療できる可能性を秘めた新たなウイルスの開発が進んでいるといいます。そこでもポイントとなるのは「免疫」です。
「新しい研究で、がんの免疫治療が大きく変わるんじゃないかという可能性が出てきたという話ですけど、これどういうことになるんですか」
「ウイルスが増えるたびに免疫チェックポイント阻害抗体を出しながら増えるウイルスを作れば、今まで効かなかったはずの免疫療法が効くようになる」
「ウイルス自体が出す?」
「ウイルス自体が抗体を出すんですね」
免疫チェックポイント阻害抗体とは、現在、多くのがん治療で使われている薬剤です。
がん細胞は、「免疫チェックポイント」というブレーキをかけて免疫からの攻撃を回避して、生き残ろうとします。そこで、免疫チェックポイントの働きを阻害することで、免疫ががん細胞を攻撃することができるようになります。
しかし、この治療薬には、副作用という問題も指摘されています。
「免疫チェックポイント阻害抗体というのは、免疫全体を攻撃にシフトさせますので、免疫が攻撃する対象が分かっていれば効くようになるわけです。ただ、がん細胞というのは、ほとんどの場合はそれ(がん細胞)が育っていることは免疫が認識していないということなので、何を攻撃していいか分からない状態になる。そうすると効かない。効かないだけではなくて、今度は自分を攻撃するようになる。これが大きな副作用として問題になる」
「自己免疫疾患」
「そうですね。しかも自己免疫疾患はかなり重度になることも多くて、また、その時点で免疫チェックポイント阻害抗体の投与をやめても、副作用が残るというのが問題になるわけです」
「一回、自己免疫疾患が始まったら、(投与を)やめても治らないんですか」
「その後はずっと認識し続けますから、それ(自分)を攻撃し続けるわけですね」
「すべての固形がん対象に」ウイルス療法の可能性
そこで藤堂教授が考えた新たなウイルスは…。
「腫瘍の中でウイルスが免疫チェックポイント阻害抗体を出して、腫瘍の中だけで免疫チェックポイント阻害抗体が蓄積される。それによって全身には全く副作用を生じないで、同じ効果が腫瘍に対して出せる」
新たなウイルスには、免疫チェックポイント阻害抗体の遺伝子が組み込まれています。そのため、がん細胞に感染し、ウイルスが増えるたびに抗体がつくられます。
つくられた抗体によって、免疫チェックポイントの働きが阻害され、免疫のがん細胞を攻撃する力が強まり、薬剤を全身に投与するのと同じ治療効果が得られるというのです。
また、つくられた抗体はがん細胞の外には出ますが、腫瘍の外に出ることはないため、自己免疫疾患などの副作用は少ないと考えられています。
「これは対象となる疾患・がんはどういうふうなものが考えられるんですか」
「すべての固形がんに対しては、同じメカニズムで同じように効いてくる。どんな固形がんでも生検をしますので、生検する方法があります。同じ方法で今度はウイルスを投与する、直接投与することができますので、すべての固形がんが対象になるということになりますね」
(「羽鳥慎一 モーニングショー」2026年1月8日放送分より)





















