社会

ABEMA TIMES

2026年1月12日 11:30

「北九州の恥晒し」から「世界が認めたデザイナー」へ “ド派手成人式”の仕掛け人・池田雅氏が世界で喝采を浴びるまで…行政も認めた大逆転劇の舞台裏

「北九州の恥晒し」から「世界が認めたデザイナー」へ “ド派手成人式”の仕掛け人・池田雅氏が世界で喝采を浴びるまで…行政も認めた大逆転劇の舞台裏
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 成人式が来るたびにずっと叩かれてきた、“ド派手成人式”の仕掛け人で和装デザイナー・着付け師の池田雅氏。「成人式がこうなるのはあなたのせい」「北九州の恥晒し」行政までもが礼節さを求めるなど、「荒れる成人式の元凶」と言われ続けてきた。

【映像】ド派手成人式の原点となった「全身レインボー」の衣装

 しかし「ある日」を境に、まるで手のひらを返したかのように、今度は「時の人」として取材が殺到。一夜にして評価が変わるカリスマアーティストが垣間見た“手の平返し”の舞台裏を取材した。

■“ド派手成人式”に批判殺到、行政も自粛を求める

ド派手衣装を依頼した宮地大河さん

 年が明けるとメディアはこぞって北九州へ。強い絵が撮れる「成人式」があるためだ。北九州の成人式の特徴は、とにかくド派手な衣装。この日のために1年前からお金を貯めて、フル装備数十万円でオーダーメイドする新成人も少なくない。

 実際に新成人に話を聞くと「1年前くらいから(準備していた)」「リーゼントとか全部含めたら45〜46万円。お金は泣きながら働いて払いました」と明かした。

 そんな新成人たちの晴れ舞台をプロデュースするのが、ド派手衣装を生み出した元祖・貸し衣装店「みやび」だ。新成人は「絶対、雅。マジで雅おすすめ。社長、良い人すぎる。俺らが言ったことは全部叶えてくれる」と信頼を寄せる。

 成人式の前夜は毎年一晩中、灯りが消えない。店内は、数時間後に控えた成人式の着付けで熱気ムンムン。多くが、1年前から打ち合わせを重ね、この日、念願の衣装に腕を通す。新成人らは「成人式、ずっと待ってたので、やっとやな」「これで車に乗れるかどうか不安」と話した。

 新成人たちの夢と希望を一手に引き受けデザインするのが、この店の店長でもある雅氏。北九州市の新成人たちにとってカリスマ的存在だ。

 長年、格式高い礼服や着物などの着付け、デザイン、そして貸し衣装の店を営んできた雅氏が「ド派手成人式の仕掛け人」と呼ばれるようになったのは、今から20年ほど前。2人の新成人が来店したことから物語は始まる。

「2003年に『全身金と全身銀の金さん銀さんで成人式に行きたい』という新成人の男の子2人が現れて。1年前なのに男の子が来たと思って。1年前に来たのに最初から『ありません』って断るのはちょっと違うなと思って。赤字でしたけど、本人たちがめちゃくちゃ喜んでくれたので、それで私は終わると思った。前年の成人式が終わった翌日に、飛び抜けた要望を(書いた)紙を持ってきた」(雅氏、以下同)

 目が点になりながらも製作したのは「全身レインボー」の衣装。雅氏いわく「虹キング」と呼ぶ彼が、その後の未来を決定づけたのだ。「ハードルがどんどん上がっていって。基本が『先輩を超えたい』なんですよ。次の年はこれよりもさらに派手に」。

 中でも難産だったという、虎や白龍のオブジェが取り付けられた特注の衣装を見せてくれた。「『これは無理です』はないんですか?」と尋ねると、雅氏は「できるだけ、できないとは言いたくない。希望を叶えたいので」と語った。

 製作期間1年。完成したのは成人式当日、式典の3時間前だった。この衣装を依頼した新成人の森元健斗さんが式を終えたあと店にやってきて「良い作品と思います。言葉が出なかった、すごすぎて。この(白龍のオブジェの)目とかもリアルで」と感動を伝えた。1年前は髪が短かったそうだが「成人式のためにここまで伸ばした。1年間頑張って、本当にこれはみんなの思いを背負った頭」だと語った。

 健斗さんの親友で幼馴染の宮地大河さんは、自身の名前にちなんで、虎のオブジェを依頼した。大河さんは「最高ですね。誰にも渡したくないです。こだわったのは人形、特に人形の目。目はぎらついたトラにしてほしいと思って。無理なこと言いました」と語る。

 1年前の打ち合わせでは「オブジェ作る」「キラキラOK」「派手にしたい!」「2人でどえらく目立つように」と思いのたけを伝えていた。百戦錬磨の雅氏も、これまで作ったことがないオブジェ付きの作品に頭を抱えた。しかし、できないという選択肢はなかった。

 費用は70万円以上。大河さんは「1年半かかったのかな。自分の好きなこと全部諦めて毎月貯金してました。親に感謝を伝えるのに親にお金を借りて苦労をかけたらいけないなと思って、やるからには絶対自分のお金で衣装を借りようと思って、ここまで大きくなったよって、そういうのを見せなかった」と語った。

「どれだけ『普段は普通なんですよ』『今日だけこの髪型でいつもはこれなんです』と写真を見せたりしたこともある。でも、そういうところは全部カットされて。悪そうなイメージだからそういうふうにされちゃうんだろうなって諦めの部分はあった」

 新成人の特別の1日は、派手さだけが一人歩きを始める。この文化に眉をひそめる人たちも多く、毎年、批判の電話が相次いだ。苦情は行政にも届き、議会でも問題視され、「きちんとした服装で出席するよう心がけましょう」という声明が出される始末だった。

「必ず成人の日の報道がされたら、その報道を見た視聴者の方から批判のお叱りの言葉とか。あなたたちは新成人にこういうことをやっちゃダメっていうのを言わなきゃいけない立場ということはわかっているのかとか、ずっとお叱りのお電話を黙って聞くしかないので」

■世界で喝采、行政のトップが自ら着こなす歴史的瞬間

ニューヨーク・ファッションウィーク

 ニューヨークの街で可憐に舞う、世界的なバレリーナの姿があった。これから雅氏の人生が変わるオープニングアクトとなった。

 2022年9月、雅氏は世界4大ファッションショーのひとつ、ニューヨーク・ファッションウィークから招待状を受け取り、大舞台で自身の作品を披露した。日本の伝統美にも造詣が深い世界のファッションに目の肥えたニューヨーカーも、これまで見たことのなかったジャパニーズ・ビューティの登場に驚いた。

「見る目が肥えた人たちの中でいろいろなことをいっぱい言われて、もう受け止めきれなかったが、すごく明確に1つ言ってくれたのが、伝統的な着物のスタイルに現代の若者の新しい感性を取り入れて、うまく融合させた新しいスタイルというふうに評価してくださった。日本人じゃなくてもそれがわかるんだということに私は逆にすごい評価だと思って」

 北九州で浴びせられた批判の嵐が、ニューヨークでは万雷の拍手に変わった。ファッションの最先端で披露したのは、北九州でずっと作り続けてきたド派手成人式の作品だった。

 この快挙はすぐさま日本に逆輸入され、雅氏は「世界が認めた着物デザイナー」として多くの報道陣に囲まれた。「同じことをただやり続けただけなのに…」と雅氏は戸惑った。そして報道陣が色めき立ったのは、これまで自粛を求めていた市役所のトップがそこにいたからだ。雅氏はサプライズで、新たに就任した市長にド派手衣装を手渡した。批判してきた行政のトップが自ら着こなすという、歴史的な瞬間となった。

「北九州市の若い人たちがコツコツコツコツ生み出した美意識が世界で認められようとしている。これはものすごく素晴らしいことだと思う。ぜひ否定から挑戦へ」(北九州市 武内和久市長)

 2024年3月、ダウン症モデル・菜桜さんが歩いたパリ・ファッションウィークのランウェイも雅氏の作品だった。その後、台湾でのイベントやミス・インターナショナル日本代表の衣装も手がけるまでになった。

 徹夜続きで新成人の晴れ舞台を見届けたばかりの雅氏を訪ねると「とりあえず片付けを」と手を動かしていた。休みはないそうで「明日、衣装の返却に何十人も持ってくる返却の日だけど、それに紛れて来年の方が来る」と明かした。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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