2025年10月に投稿され、インプレッション3億6000万回と、話題となったXのポスト「グエー死んだンゴ」。このフレーズは、かつて「2ちゃんねる」で流行したネットスラングで、失敗したことを自虐的に表現するものだったが、今回は少し違う意味合いで使われた。投稿者は北海道大学の学生だった中山奏琉(かなる)さん(22)で、投稿時にはすでに亡くなっており、生前にポストする日時を予約していたという。
【映像】「いつ死んでもいい」亡くなる4カ月前に撮影された中山さんの動画(実際の映像)
父親の和彦さんは「『なぜこんなに盛り上がっているのだろう』という思いがありながら、お悔やみのコメントももらい、戸惑いや『なんで』がずっと大きかった」と振り返る。
がん研究会によると、この投稿以降、寄付の件数は通常の約10倍。1000万円以上の寄付が集まっているという。『ABEMA Prime』では、投稿に込められた思いと、SNSの可能性について、父親の和彦さんとともに考えた。
■「グエー死んだンゴ」の投稿者・中山奏琉さん

中山さんが生まれ育ったのは、オホーツクの山間部に位置する、北海道・津別町だ。中学時代にはソフトテニスで全国大会に出場するなど、体力にも自信があったが、大学1年生で病魔に襲われた。
病名は類上皮肉腫。新規患者数は年間20人ほどのいわゆる希少がんで、手術のため即入院となった。SNSでは当時、「癌発覚。明後日から入院生活が始まるけど初めてなのでちょっとテンションが上がってる」と投稿していた。
亡くなる4カ月前に撮影された動画でも、進級できるかとの問いに、「いや無理だね。来年からニートっすね。マジ何しよ。暇なんだよな」「死ぬもん。おれはいつ死んでもいいんだけどさ」などと、まるで人ごとのように語る姿が収められていた。
撮影した友人の松岡信さんは、「僕らの前では一度も弱音を吐いたことがないし、身体的な辛さ以外で苦言を呈したことはない。僕は後にも先にも、上にも下にも、そんな人間には絶対に出会えない。『すごい』という一言で終わらせるのもおこがましい。『唯一無二』という感じだ」と語る。
弱音を吐くどころか、周囲を楽しませようとさえする中山さんは、手術から1年でがんが再発した時でさえ、「再発しましたね。運がなかった。嘆いて治るものでも無いのでネタにでも昇華しようと思います。結論から言うとステージ4らしいです。すごいですねステージ4って。創作でしか見聞きしたことないですよ」と投稿していた。
その時の状況を、和彦さんは「先生に『完治治療ではなく、延命治療に切り替える』と言われ、『やっぱり亡くなるんだ。死んじゃうんだ』と現実に引き戻された」と明かす。その後、肺からの出血を繰り返し、呼吸さえままならない状態となり、2025年10月12日に亡くなった。
その2日後、「グエー死んだンゴ」が投稿された。松岡さんは「(スマホの)画面を見ていたら流れてきて、『やりやがったな、あいつ』と思った。『死んで万バズ(1万件以上の反応を得ること)やったら中山も報われるやろ』と思っていたら、10万、100万いった」と驚く。
中山さんが苦しんだがんの研究機関などに、寄付する人も相次いだ。寄付した「ぱいく」さんは「自分の死後に予約投稿されていたという行い自体が、すごく粋だった。そういった行動自体に感銘を受けた」と理由を話す。
■投稿者の父「毎朝の日課は息子のXを見ること」

父親の和彦さんは、「グエー死んだンゴ」の投稿について、「葬儀の時に、息子の高校の同級生が教えてくれた」と振り返る。「我慢強くて、子どもの頃から手のかからない子だった。なんでも自分で考えて、行動するような子どもだった。X投稿は教えてもらった後に、全部見返した」。
投稿を読んで、どのような感想を抱いたか。「男同士なこともあり、親子で病気に関する会話はほとんどなかった。弱みも一度も聞いたことがなく、『その当時、息子がどんなことを思っていたのか』に後から気付いた。『言ってはなかったが、こう思っていたのか』と感じた」。
中山さんが残したものについて、「手紙をもらったこともなければ、病気の話も遺言もなかった。そんな中で、形に残るものとしてX投稿があり、番組に取り上げてもらったり、動画に残ったりした。記念にもなれば、助けにもなる。毎朝の日課は息子のXを見ること。少ないながらもコメントが付いているのを見るのが楽しみだ」と話す。
■「本当にいろんな偶然と奇跡が重なった」

学習院大学非常勤講師で、ZEN大学客員講師の塚越健司氏は、「ネットスラングをわかっている人たちの“内輪ノリ”だ。内輪ノリは、社会のルールに反することをして目立つなど、炎上しがちだが、今回は亡くなる本人が不謹慎なことを書いている」と説明する。
また、「これに『成仏してクレメンス』というネットスラングで乗りやすく、寄付が集まった。私の感覚では、中山さん自身は寄付を呼びかけるより、『勝手にやれば』と言うタイプだと思う。でも、これを粋に感じた人が寄付をして、“良い炎上”が起きた。中山さんも『マジで』と驚くだろう。寄付やインプレッションが供養になっている」と考察した。
和彦さんは「病気のことをSNSでつづる人は多い。最初は『なぜ息子の何気ない、淡々とした投稿が、こんなに見てもらえるのか』と理由がわからなかったが、偶然が重なって『香典代わりに寄付をした』という人が出て、賛同が広がった。いろいろな偶然や奇跡が重なり、本当に良かった」と語る。
京都大学成長戦略本部の特定准教授、渡邉文隆氏は、今回のポイントとして「あまり皆が『こういう状況では、寄付するのが当たり前』『寄付しないヤツはダメ』と言っていない。押しつけられると、良いことでもいやになる。自発性が引き出され、意気に感じたことを気持ちよく表現できたことが良かった」と指摘する。
なぜ和彦さんは、息子の死について発信し続けるのか。「本人の苦しむ姿を見て、家族を亡くした悲しみもわかる。そういう人が少しでも減れば、と切実に思う。息子が入院していたがんセンターには、1、2歳の子どももいれば、子を持つ親も患者としていた。そうした人々の気持ちが痛いほどわかる。寄付などで少しでも亡くならずに済めば、と強く思っている」。
(『ABEMA Prime』より)