社会

2026年2月20日 11:24

神奈川県警の取り締まり不正問題 1年半の調査から見えた「間違った正義感」

神奈川県警の取り締まり不正問題 1年半の調査から見えた「間違った正義感」
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神奈川県警は、不適正な交通取り締まりを行っていたとして、職員7人を書類送検したと発表した。1年半に及ぶ調査からは組織ぐるみの大規模な不正が見えてきた。
(テレビ朝日社会部 神奈川県警担当 加藤聖也)

茅ヶ崎分駐所を拠点に 2716件の不適切な取り締まりと虚偽の調書

県警の発表によると、不正の舞台となったのは神奈川県西部の交通違反を取り締まる神奈川県警察交通部第2交通機動隊。その中でも湘南の海沿いを通る国道134号のそばにある茅ヶ崎分駐所を拠点にする第2中隊第4小隊(以下、第4小隊)はおよそ2年半にわたり、2716件にも及ぶ不適正な交通取り締まりと虚偽の実況見分調書を作成していた。

県警は、不正を是正するためにこれまでに徴収した反則金およそ3500万円の還付や、免許停止・取り消し処分の見直しを進める。県警として記録が残っているなかで、過去最大規模の是正措置となる。
20日、県警は不正に関与した警察官7人を書類送検し、県警トップの会見とともに不正の内容を明らかにした。

交通取り締まり制度の根幹を支える「警察官の現認」の信頼が崩れてしまっていた。

発覚のきっかけは1本の電話

発端はおととし8月、車間距離不保持で交通反則告知書(以下、反則切符)を受けた人からの相談だった。

「現場で受け取った告知書の車間距離と、後日届いた通告書の車間距離が違う」

相談を受け、ドライブレコーダーを確認したところ、反則切符に書かれた車間距離が、実際とは異なることが確認された。この反則切符を交付したのは第4小隊の40代巡査部長。調査を進めるとこの巡査部長を中心に不適正な事案が次々と明るみとなっていった。

何が不正だったのか 1)〜追尾測定の形骸化〜

速度違反の「追尾測定」は、違反車両と等速・等間隔で一定距離走行することで速度を確認する手法だ。
しかし今回の場合、例えば追尾距離が20m程度しかなかったにも関わらず、調書には「追尾測定距離約100m」と記載するなど、反則切符に実際より長く記入し、虚偽の事実を記載するなどしていた。

巡査部長(調査に対し)
「事故に直結する悪質な違反を排除したかった」
「今思えば間違った正義感だった」

調査では、違反そのものが存在したケースは多いとされる。だが、適正な測定が行われていなければ、行政処分の前提が崩れる。

小田原厚木道路
小田原厚木道路

何が不正だったのか 2)〜実況見分調書の”未実施作成”〜

さらには刑事手続きに必要な実況見分での不正も常態化していた。

警察は、違反者が否認した場合など必要に応じ、実況見分を行い、検察に送るための「実況見分調書」や「現場見取り図」などを作成しなければならない。本来は第三者的立場の警察官が、現場で実況見分を行い、証拠能力を補強する必要がある。

ところが第4小隊では、現場に行かずにインターネット地図や過去データを流用して「実況見分調書」を作成したり、実況見分に携わっていない者があたかも実施したかのように装い、調書などを作成・提出するといった行為が常態化していた。

巡査部長
「実況見分調書は、行かなくても作成できる」

周囲に話すその姿に同僚や上司も流されていった。

刑事手続き上、極めて重大な虚偽有印公文書作成・同行使にあたる可能性がある。青切符を交付する交通反則通告制度は、軽微な違反を迅速に処理する行政手続きだ。
その成立は、(1)警察官の正確な現認 (2)違反者の自認という信頼に依存している。裁判のような第三者チェックは原則入らない。

だからこそ、現認の正確性は絶対条件で、今回の事案はその前提が崩れた。

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「交通のプロ」影響 小隊ぐるみの構造

主導したのは、第4小隊ナンバー2の40代の巡査部長とされる。
巡査部長は、交通取り締まり経験が豊富で、以前にも第2交通機動隊に所属していた「交通のプロ」だ。上司の小隊長も関与し、不正は第4小隊内に広がっていた。

第4小隊の部下
「意見しにくかった」「巡査部長に決定権があった」

分駐所という閉鎖的環境、本隊からの管理不足、県警は「管理体制の不備」「閉鎖的風土」が不正の背景にあったと分析する。

是正対象2716件 免許取り消し4人が覆る可能性

是正対象は2716件。うちおよそ2648件で反則金還付を見込むとしている。還付総額は約3500万円で一般運転者から優良運転者など免許区分の変更は1065件の見込み、免許取り消し・停止の取り消しまたは変更は100件を見込んでいて、免許取り消しとなった6人のうち4人は今回の違反がなければ取り消しにならなかったとされる。

県警はおよそ290人体制の是正プロジェクトを設置し、半年以内の完了を目指す。

「ノルマ」はあったのか

県警は、組織として明確な交通取り締まりの「ノルマ」はなかったと説明する。

しかし、過去の事故統計を元にして設定した「目安件数」は存在していた。「目安件数」は実態と合っているかを確認する数字で、達成を目指す「ノルマ」ではないとするが、実際に「ノルマ」と勘違いする警察官がいてもおかしくないことから、県警は去年4月からこの「目安件数」を取りやめている。

再発防止策

県警は9つの再発防止策を打ち出した。

1. 本部に「違反取り締まり巡回指導官チーム」を設置
2. 本部に違反取り締まりのあり方に関する相談窓口設置
3. 違反取り締まりに対する国民からの苦情への適切な対応の徹底
4. 交通部門執行隊の分駐所に対する業務管理・人事管理の徹底
5. 違反取り締まり状況の点検の徹底
6. 適正な違反取り締まりを確保するための指導教養の徹底
7. 違反者やパトカーのドラレコ映像の確認
8. 取り締まりにおける更なるカメラ画像の活用
9. 違反取り締まりに係る捜査手続きの合理化

公表まで約1年半 問われるのは信頼回復

県警は、不正の発覚から公表までおよそ1年半を要した。

捜査幹部
「内容虚偽の公文書が作成されたという刑事手続きに対する信頼を揺るがすことが起きた」
「県民の信頼を大きく損なった」
20日午前11時ごろ 会見する今村剛神奈川県警本部長
20日午前11時ごろ 今村剛神奈川県警本部長

20日に行われた神奈川県警本部長会見。県警トップの本部長会見は去年9月に川崎市のストーカー殺人事件の検証結果を公表して以来、今年度2回目となる。

捜査関係者
「去年9月に本部長の会見を行った時でさえ異例のことだと思ったのに、また本部長が会見するとは」

交通取り締まりは、ドライバーの「理解」と「信頼」があってこそ成り立つ。

巡査部長(調査に対し)
「第2交通機動隊員として1件でも多く交通取り締まりを行いたいので、実況見分の時間を取り締まりに回せばよいと思った」

軽視された1件1件が積み重なった2716件という数字をどう受け止め、どう再発防止につなげていくのか、県警の姿勢が問われている。

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