熊本市内の陸上自衛隊健軍駐屯地に、12式地対艦誘導弾能力向上型の発射装置が運び込まれた。
駐屯地周辺には多くの反対派が姿を見せるが、その理由のひとつが、今回の装備品搬入に関して、熊本県や住民に事前通告がなかったことだ。
熊本県の木村敬知事が「報道を通じて知ったことは大変残念」とする一方、小泉進次郎防衛大臣は「搬入時期については、部隊運用の保全や輸送の安全を確保する観点から、公表できない性質のものであった」と理解を求めた。
搬入されたミサイルは、陸地から艦艇を攻撃でき、射程は約1000キロ。熊本市内に配備することで、台湾周辺の海域や、中国沿岸部が射程内になる。台湾有事を念頭に、中国への抑止力を高める狙いがあるとみられるが、健軍駐屯地は市街地にあり、飲食店や小中学校、病院などにも隣接している。
一切の説明がなかった住民たちは「ミサイルを持つ方が狙われる」「怖いが必要だ」「理由があっても置く前に説明すべき」と話す。防衛省九州防衛局は、発射装置に加えて、3月31日にミサイル本体も配備すると発表。17日には関係自治体の首長や、地元自治会などを対象に、装備品の展示会を開くほか、地元住民に向けたものも検討しているという。
『ABEMA Prime』では、識者や反対派とともに、防衛に関わる情報はどこまで明かせばいいのかを考えた。
■熊本に長射程ミサイル配備

陸上総隊司令官などを歴任した元陸将の高田克樹氏は、場所の選定理由について、「南西諸島の防衛が強く叫ばれている。陸上自衛隊は5つの方面隊を持ち、九州・沖縄地区は西部方面隊が担当している。その統監部が健軍にあるため、そこから配備されたのでは」と考察する。
防衛ジャーナリストの半田滋氏は、「かつての88式地対艦誘導弾から、2012年に12式に改められたが、すでに健軍にはこれが配備されている。12式の射程は公表されていないが、約200キロ程度と言われており、これでは日本列島から外国へ届かない。しかし今回の“能力向上型”は約1000キロで、将来的には約1500キロまで伸び、中国内陸部まで届く。また、今は地上発射型だけだが、戦闘機から撃つ空発型や、護衛艦から打つタイプの開発も考えられている」と説明する。
すでに健軍駐屯地に12式が配備されているにも関わらず、今回なぜ説明がなかったのか。高田氏は「運用上の保全と、運搬時の交通安全を考えたのだろう。それ以上でも、それ以下でもない」と推測する。
■「ミサイル配備が抑止力になるというのは幻想だ」

熊本県平和委員会会長の松本泰尚氏は、熊本市へのミサイル配備に反対し、自衛隊駐屯地前での抗議活動にも参加した。「配備以前に、最大の反対理由は『憲法に沿うか』だ。安保3文書の改定で、敵基地攻撃能力の保有を認めたこと自体が、憲法9条に違反していないのか」。
これまでの経緯から、「12式は200キロ程度しか飛ばない。熊本には、ハワイでの実射訓練を経験した部隊があるため、おそらく改良型も先行配備されるのではと予測していた」と話す。「2025年8月29日、九州防衛局が県知事と市長に通告に来た。その日の午前中、我々は防衛省と交渉していたが、そこでは何も答えなかった」。
反対する背景には、「ミサイル配備が抑止力になるというのは幻想だ」との考えがある。「防衛省に問うても、どこが相手国かは言わないが、無防備な国をたたく国があるのか。軍拡競争が際限なくなると、最終的に抑止力としての核保有へ行き着くと心配している。また、今後全国に配備予定のミサイルを、先行配備された熊本で阻止しようという思いもある」。
■情報公開と住民への説明
コラムニストの小原ブラス氏は「数が足りていないからこそ、どこに何発あるかわからない状態にしておくことが抑止になる。いちいち住民に納得してもらわないといけないとなれば、100発、200発と増やす時にも全部説明していくのか」と主張する。
半田氏は「そもそも地対艦誘導弾が置かれている駐屯地は7つしかなく、それ以外に唐突に配備することは考えられない」と話す。「自衛隊の能力は国民が考える以上に高い。護衛艦54隻、潜水艦22隻、作戦機300機、陸上自衛官が14万人と守りに強い。拒否的抑止の能力としては、イギリス軍よりはるかに強大だが、懲罰的抑止国であるアメリカのような能力は持てない」。
防衛費や人員の観点から、中国と比較しつつ「同じような装備を持って戦うのは無理で、最終的にはアメリカに助けてもらいながら、限定的で小規模な侵攻には独力で対処する。そのために『守りに強い国』に向けた武器や部隊を考え、訓練をした方が、周辺住民も安心するのではないか」と提案する。
松本氏は「熊本にはミサイルの連隊があり、これまでも射程約200キロのミサイルを持っていた」と振り返りつつ、「市街地のど真ん中にあり、周辺には病院や学校もある」と懸念を示す。「ジュネーブ条約の文民分離の原則にも反しているのではないか。あまりに慌てて配備して、抑止力を拡大するよりも、一度立ち止まって考える時間が必要だ」。
(『ABEMA Prime』より)