
気象予報士の穂川果音が、ABEMA開局以来10年間にわたりレギュラー出演してきたニュース番組「ABEMA Prime(アベプラ)」を卒業する。「美しすぎる気象予報士」として、時にはコスプレ姿で天気予報を伝え、番組のマスコット的な存在だった彼女は、ネット討論番組というジャンルが産声を上げ、成熟していく過程を“特等席”で見守ってきた。
地上波とは異なる熱量、時に炎上も辞さない激しい議論、そして政治家や文化人が本音を漏らす空間。この10年でネット討論番組はどう変わり、情報の洪水の中で私たちは何を指針にすべきなのか。番組とともに歩んだ10年間を振り返り、彼女が辿り着いた「今、本当に求められるメディアの姿」を聞いた。
2016年、まだ「ネットテレビ」という言葉が一般化していなかった頃、ABEMA(当時AbemaTV)は産声を上げた。
穂川 私はまだ「AbemaTV」という名前だった頃、開局前の試験放送から出演しています。2016年の3月でした。当初の計画だと、私は『韓国のお姉さんっぽく』という感じで、短いスカートにスーツという衣装だったのに『え、コスプレができるの?』という話から、天気予報を外すとコスプレをするという演出にいつしか変わり…(苦笑)。毎日色んなことが変わりながら番組が仕上がっていく手作り感があり、まさに試行錯誤でした。
当時のネット番組は、地上波ではできない「ニッチさ」や「自由さ」が売りだった。その自由さは、時に過激な演出や「お色気」的な要素とも隣り合わせだったと振り返る。
穂川 最初は本当にニッチなものを伝えるところが多かったんですよね。地上波がやっていないもの、ウェブのコンテンツをニュース番組で取り入れるみたいな感じでしたが、次第にいわゆる“ニュースっぽい内容”を扱うようになりました。私の立場で言うと、最初は『Iカップ気象予報士』とかいって、ひろゆきさんから「なんじゃそりゃ」とか言われましたし、手前味噌ですがセクシー路線でした(笑)。当時は“ネット=お色気・エロ”みたいな空気感もあったと思います。ただ、私がすごく覚えているのが、2017年か2018年ぐらいに、コンプラ意識みたいなものが一気に変わったんです。もう”おっぱい”には一切触れないですし、優しいツッコミになりました。これは私にとっては一大事で大転換でした…(苦笑)。
■10年で変わったネット番組

番組の内容が成熟するにつれ、出演する顔ぶれも変わっていった。かつてはネット番組を敬遠していた政治家たちが、今では次の総理大臣を決める自民党総裁選など重要な局面でアベプラに集結する。この「信用の獲得」こそが、この10年間の成果だと彼女は語る。
穂川 本当にネットテレビが身近になって、認められたものになったと感じています。ABEMAに総裁候補が全員来てくださるとか、すごいなと思いました。今までは『地上波にしか出ません』と言ってたような政治家の方が、ウェブにも進出してきたのを見ると、それぐらい信用がこの10年で大きくなったんだなと感じます。
一方で、ネット番組ならではの「距離感の近さ」が、出演者の素顔を引き出す効果も持ち続けている。
穂川 視聴者の目線で考えると、ネットにはちょっと油断しているところ、少し気が抜けるところを期待していると思うんです。アベプラは、テレビ朝日の基準の中で制作しているはずだけど、いまだに政治家の方も「これはネット放送だから言っちゃうけど」とか言うじゃないですか。「いやいやいや!油断しすぎ!一番切り抜かれるよ」と、私は思っています(笑)。でも、そういう意味で、みんながネットテレビに期待してるものはあるし、地上波では見せないようなお茶目さであり、カッとなる部分であり、普段は見せないような顔、発言しないようなナイショ話を出せるからこそ、アベプラにニーズがあるんだろうと思います。
それは共演してきたテレビ朝日アナウンサー陣も同様だ。穂川は、共に番組を作ってきた平石直之アナウンサーなどの「切り替え」にプロの真髄を見ている
穂川 平石さんって地上波ではお利口にしてるんですよ(笑)。テレビ朝日の「グッド!モーニング」を見ているんですけど、すごくにこやか。ニコニコしている。だけど、アベプラだと眉間にしわを寄せて討論して、目も血走っている。地上波の番組だと、本当に爽やかな顔をして「そうですよね!!」とかってやっている。本当に切り替えがすごい。きっと本人たちもアベプラだからこそ『これを引き出さなきゃ!』というプレッシャーも感じながらやっているからこその言動だと思うし、目の血走りも演出だと思うので、そういうところも相まって議論が盛り上がるんだと思います。
ネット討論番組が当たり前になり、YouTubeやSNSで、誰もが発信できる時代になった。しかし、選択肢が増えすぎたことで、新たな課題も生まれていると指摘する。
穂川 情報が混沌としすぎる時代になった気がします。情報に触れる場所もコンテンツも多すぎるんですよね。その中で、“信用できる情報”はどこが届けてくれるのか。何を見たらいいのか。みんな迷っているように思いますし、私自身もそうです。私はXの情報を一応は見るけれど『これは嘘くさいな』という気持ちで見てしまうんですよね。しかもそれって、すごく疲れますから(苦笑)
番組を卒業する今、彼女が痛感しているのは、刺激的で偏った情報や炎上よりも、その根底にある「安心感」の重要性だ。
穂川 今のネットテレビは、皆さんすごく取材した上で放送されているから信頼できるようになりました。だけど、すぐ隣に並んでるYouTubeのチャンネルやXには、全然違う情報が溢れてて、困っちゃう。だから、私も含めてみんなは「この番組は信頼できる!」と思えるものを、探しているんですよ。『安心できる情報・番組』はすごく欲しいです。これからもアベプラがそういう場であってくれたらうれしいです。