社会

ABEMA TIMES

2026年3月24日 07:30

「被害者の権利はないがしろ」家賃2200万円、26年現場を守り抜いた遺族の憤り 安福被告(69)に損害賠償提訴へ 名古屋主婦殺害事件

「被害者の権利はないがしろ」家賃2200万円、26年現場を守り抜いた遺族の憤り 安福被告(69)に損害賠償提訴へ 名古屋主婦殺害事件
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 2025年に容疑者逮捕となった名古屋主婦殺害事件をめぐり、被害者の夫・高羽悟さんが、発生からの26年の闘いを明かした。

【映像】26年逃亡した安福久美子容疑者(69)

 安福久美子被告(69)は逮捕直後、犯行事実を認める供述をしていたが、一転して黙秘に転じた。その後、責任能力を問えるかを調査する約3カ月の鑑定留置を経て、3月5日に殺人罪で起訴された。逮捕から125日目のことだった。安福被告は高羽さんと高校時代同じ部活に所属していた同級生だ。

 1999年11月13日、名古屋市西区のアパートで高羽奈美子さん(当時32歳)が首などを刺され、殺害された。玄関先に残されていたのは犯人のものとみられる足跡と血痕。シューズのサイズは24センチ、韓国製の女性用。

 現場を見た元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏は「侵入してすぐに土足のまま。入った時にはすでに刃物を構えていた。出てきた時にいきなり入って、いきなり攻撃にかかった」と推察した。

 血液型はB型。犯人は自らも傷を負いながら逃走したとみられ、血痕は自宅から約500メートル離れた公園の水道付近で途切れていた。のべ10万人以上の捜査員が投入されたが、容疑者の特定には至らず、長い年月が過ぎた。高羽さんにとっては苦痛の日々だった。

 しかし2024年4月、新任となった担当刑事がリストを1から洗い直し、DNA型の提出を要請。安福被告は当初は拒否したが、ほどなく提出に応じたという。結果は、現場に残された血痕とDNA型が一致。逮捕へとつながった。

 安福被告が逮捕されるも、高羽さんの心境は複雑だった。「未解決事件の遺族としてはベテランだが、犯人が捕まった遺族としては本当に初心者なので」。

 そして今、高羽さんは新たな一歩を踏み出そうとしている。安福被告を相手取り、損害賠償を求める民事訴訟を起こすことを明らかにした。民法上、不法行為に基づく損害賠償を請求する権利は20年でなくなる。事件から26年が経過した今回、提訴が受理されるかどうかはわからないという。

 それでも高羽さんは、提訴に踏み切る。「私が放置して26年経ってしまったわけではない。お金が欲しいのでもない。後に続く人のために、やらなければならないと思っている」。

 そこには、26年の間に共有した、同じ犯罪被害者遺族の実情と思いが込められている。「事件の被害者遺族の多くは突然、一家の大黒柱を失い、経済的にも困窮する。しかし、誰も助けてはくれない。一生、犯人だけを恨み続け、前向きになることもできない。そんな状況に置かれている。この国は、加害者の権利は守られている。しかし被害者の権利は、全くないがしろのまま。被害者遺族になって初めて知った」。

 26年間、顔もわからない犯人を追い続けた。総額2200万円以上の家賃を払いながら、殺害現場のアパートを保管し続けた。「犯人が捕まったら現場検証させる」。その言葉は現実となった。

 しかし、高羽さん自身は現場検証の場に立ち会えず、安福被告の顔を見ることすらできていない。それでも、しばらくは殺害現場となった部屋の家賃を払い続けるという。「遺伝子情報の法制化が決まるまでは、あの現場はシンボルだ。戦うシンボルだから持っていたいと思っている」。

 事件発生から殺人罪の時効が廃止されるまでの約10年間を振り返る。「どの遺族もメディアスクラムということがあったが、うちは半年間誰も来なかった。次第に焦り始めて『どうしたらいいんだろう』と思ったときに、地元の民放の新人記者さんが来た。今でも26〜27年たっても、いまだに電話がかかってきて、『事件のビラまき終わった後の11月末か12月頭で忘年会しましょう』と言って、食事に付き合ってくれる記者さんだが、たまたま新入社員というか、こうした事件の遺族取材は初めてだと言っていた」。

 加えて「半年ちっとも来てくれないので、他の遺族の取材を見ると、どうしてもメディアの人は泣くところをとらえる。泣くところだけを編集して流す。視聴者にとってはすごく感情を揺さぶられて、『かわいそうだから』という気にさせるかもしれないが、私は『そんなところを見せたら犯人喜ぶじゃないか』と。恨みがあって刺しにくるのに、泣いている姿を見せたら犯人を喜ばせるばっかりだと思った。うちは(子どもが)男の子だし、一緒にキャッチボールしたり、遊んでいるところを撮ってほしいといい、そこから私はそういう形でずっと取材を受けてきた」と語る。

 「犯人の血痕が付いた女性の足跡」という事実については、「新聞報道から知る。警察からは一切聞いていない。ほとんどそうだ。逮捕後も『子育て論がどうのこうの』(の供述)も、メディアが書くから知るだけで、警察から説明はない」と明かす。

 被害者遺族は、犯人が逃走中という理由などで顔の露出を控えることも多いが、高羽さんと息子の航平さんは、顔を出して取材を受けている。「私が思ったのは、男の子だったので、『顔隠して』といっても子どもが引っ付いてくるため、テレビに出ざるを得なかった。私だけが隔離して取材を受けても、子どもなんて5秒でも10秒でも間が空けば『遊ぼう』と言って、引っ付いてくる。そんなことなら一緒に、ということで。その方が事件の悲惨さが伝わるかなとも思った。たださすがに姉や妹から『航ちゃんの顔まで出すのはやり過ぎじゃないの』と怒られはしたが、それでも通り魔的だと思っていた。それがわざわざうちの家まで訪ねてきたということで、自分としてはそういう犯人ではないと思った」。

 現場の家賃を払い続けてきたことについては、「みなさん『26年、2200万円も大変だ』と言うが、私としては1年1年やってきたことが、振り返ったら2200万円になっていただけ。大家さんとか不動産の仲介業者さんとかみんなが応援して『まだまだ部屋を持ってていいよ』と言ってくださったおかげ」とする。

 民事訴訟を起こすことについては、「事件が26年逮捕までかかったのは、私の責任ではない。(民法上、請求権がなくなる)20年までに犯人がわかっていたら当然提訴したことだ。それを門前払いするというのは、ちょっと社会正義に反するのではないか、という疑問は、宙の会(殺人事件被害者遺族の会。高羽さんは代表幹事)としては元々あった。たまたま私が解決し、言葉は悪いが実験台みたいな形になり、これはやらないといけないと。今のところ20年を越して逮捕されたのが、私が初めてなのか。15年の時効を過ぎて16年などのケースはあったが、20何年というのは初めてだったと思う。自分が真っ先にそういう経験をしたのだから、後に続く方のためにも、やっぱり最高裁で良い判例を勝ち取りたいと思って、提訴することに決めた」と説明する。

 とはいえ現実には、訴えが認められても、加害者に支払い能力がないケースが多いとされる。「犯罪、特に殺人なんて犯す者は、大体お金に困っていてやる。刑務所なんかに入ってしまえば、もとより収入がないわけだから、払えないということは当然あると思う。ただそこで宙の会が前から言っているように、代執行制度といって、そういう判決をもらったら、いったん国が立て替えて遺族に払って、国が加害者に求償していくシステムが、スウェーデンや北欧の国にはある。そういったのを参考にして作ってもらいたいな、ということでやっている。うちも判決をもらい勝ったとしても、払ってこなかったら、やはり代執行制度の運動にまた繋げたいと思っている」。

 賠償請求額については「(家賃なども)加味して請求する予定でいるが、最終的に額をいくらにするかということは今検討中だ。30日に提訴して記者会見するというスケジュールは決まったが、金額が出ると、みんな金額の方に報道が集中して、またネットで『やっぱりお前、時効撤廃とかきれい事言ったのに、やっぱり金か』と絶対に批判を受けるので、金額は秘匿したい」と説明しつつ、裁判の意義として「今の民法が20年で門前払いすることがおかしいということと、私に続く、事件後20年経ってから犯人が捕まるケースが、今後も科学的な捜査を使えば出る可能性があるので、そういう人たちのためにも道をつけたい」とした。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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