東京・池袋のサンシャインシティで26日夜、女性店員が男に刃物で刺されて死亡した事件。男は女性の元交際相手で、去年12月にストーカー行為で逮捕されていました。その後も警察は、つきまとい行為を禁止する命令を出すなど、警戒を続けていましたが、犯行を防ぐには至りませんでした。
刃物にタオル 首などを数回刺す
殺害されたのはポケモンセンターのアルバイト店員・春川萌衣さん(21)でした。
「すごく礼儀正しくて明るい。家族みんな仲良かった。いつもお使いに行って、重い荷物を持ってお母さんのサポートしたりして」
容疑者も死亡して事件の全容解明は難しくなりました。春川さんを殺害したとされるのは職業・住所共に不詳の廣川大起容疑者(26)です。
「レジ辺りで暴れているように見えた。シャッターが閉まってから、中で暴れている叫び声とか、警察の制止する声が聞こえた」
犯行の様子を防犯カメラが捉えていました。1人で入店した男は、そのままレジカウンターの方へ。カウンター内には店員が4人ほどいましたが、襲ったのは春川さん1人。首などを複数回刺して、その後、自分の首を切り、死亡しました。刃物はタオルを巻き付け、ゴムのようなもので縛っていたようです。
現場に持ち込んだのは、この刃物だけ。ただ、ポケモンセンターと同じフロアにある男子トイレの個室から、容疑者のものとみられるバッグが押収されていたことが新たに分かりました。その中に廣川容疑者名義の免許証が入った財布があったということです。
去年12月 警察に“ストーカー相談”
2人は元交際相手でした。出会ったのは八王子市内にあるファストフード店。バイト仲間だった2人は、2年前の10月頃から交際を始めました。そして去年7月ごろ、春川さんは念願だったポケモンセンターで働けるように。ところが廣川容疑者は…。
「お前には向いてない、やめろ」
そう言われ、春川さんは交際関係の解消を決意していたことが、捜査関係者への取材で分かりました。トラブルが明るみになる、きっかけはクリスマスの頃。春川さんの自宅玄関に「連絡ください」と書かれた手紙や、ポケモンカードの入った紙袋が置かれていました。
12月25日の朝、春川さんは警察署に出向き…。
「元カレがつきまとってくる」
最寄り駅からついてこられたり、自宅前で待ち伏せされたりすることが複数回あったといいます。警視庁は相談を受けたその日、春川さんの身の安全を守るため、警察官を付き添わせて、自宅に送り届けました。すると、その周辺を歩きながらじっと見つめる廣川容疑者を発見し、確保しました。
春川さんの写真を削除するよう促しても、廣川容疑者は頑なに拒否。そしてこの時も刃物を所持していました。警視庁はストーカー規制法違反の疑いで逮捕します。すると廣川容疑者は…。
「もうストーカー行為はしません。反省はしています。復縁をしたかったのです」
また、廣川容疑者が借りていたレンタカーからは果物ナイフが見つかり「自殺を考えていた」と話していたそうです。
“ストーカー行為” 略式起訴で釈放
逮捕からひと月余り。警視庁は、つきまとい行為をやめるよう命じる禁止命令を出すと、検察は略式起訴し、廣川容疑者を釈放しました。その際、廣川容疑者は「もう近付きません」と話していたといいます。
警視庁は釈放後も、春川さんと定期的に連絡を取っていました。春川さんは警視庁の依頼に基づいて自宅に防犯カメラを設置し、1カ月ほどの間、親族の家に避難したということです。警視庁は、勤務先も変えたらどうかと指導したそうですが、春川さんは…。
「仕事は変えたくありません。ポケモンセンターで働くことが夢でした」
「そうなんですか、萌衣ちゃんだったんですね。娘もポケモンが好きで」
「ピカチュウの印象めっちゃある。ポケモンとかのぬいぐるみを着けているイメージ」
釈放された後、神奈川県川崎市の実家に身を寄せていた廣川容疑者。警視庁は、容疑者の母親に様子を見守るよう依頼していました。廣川容疑者にはカウンセリングを受診するよう促していましたが、拒否されたということです。
ストーカー事件から殺人事件にまで発展してしまった今回の対応について、警視庁は「取り得る最善の措置を取っていた」としています。
“暴力的ストーカー”見極めるには
医療機関でのカウンセリングや治療は義務ではなく任意となっています。2024年、ストーカー事案の相談件数は1万9567件。そのうち、禁止命令を受けてカウンセリングなどを働きかけた加害者は3271人いましたが、実際に受診した加害者は184人で、全体の5.6%にとどまっています。
状況を改善させ、犯罪を防ぐためにどういう手立てがあるのでしょうか。犯罪心理学に詳しい、筑波大学・原田隆之教授に聞きました。
「警察はできるだけの対応をしたと思う。逮捕や警告が抑止力につながらない場合もある。1カ月を超えてストーカーをする人のうち、約3分の1程度は、殺人に至るような“暴力的ストーカー”にエスカレートする可能性がある。そうした例を専門家が客観的に見極めることが大事」
どのようにして見極めるのか。原田教授は様々な文献から“暴力的ストーカー”になり得る主なリスク因子をまとめています。
・過去に暴力行為・犯罪歴がある
・交際中から粗暴な言動があった
・明確な脅迫を行っている
・アルコールなどの乱用がある
・認知のゆがみが認められる
など
「法律を変えなければいけないが“暴力的ストーカー”には半年〜1年程度、強制的に専門家の治療を受けさせることが必要。治療には再犯を抑制するとのエビデンスがある。ただ、警察内にも外にも、専門家が不足しているのが現状」
専門家「加害者にGPS装着を」
もう1歩2歩、踏み込んだ対策はないのでしょうか。法律的な観点からストーカー被害などに詳しい、桜みらい法律事務所・上谷さくら弁護士に聞きました。
「廣川容疑者の危険性を認識できていたはずなのに、罰金刑の略式起訴には疑問が残る。ストーカーはターゲットが決まっているので、距離を保てば安全は確保できる。GPSを導入する時期がきているのでは。加害者にGPSを付けて、加害者が近付くと被害者が逃げられるような仕組みが必要」
性犯罪者などに対するGPSを用いた監視は、1997年にアメリカで導入されました。その後、韓国やフランスなどでも実施されています。
「何か事件が起きないと法律が変わらないのが現状だが、先手先手で被害者を救う法改正を行わなければいけない」


















