1999年11月13日に愛知県名古屋市で、高羽奈美子さん(当時32)が自宅で殺害された「名古屋主婦殺害事件」。安福久美子被告(69)が逮捕、起訴されたが、肝心の動機は依然として明かされていない。
安福被告は逮捕直後の取り調べで「26年間、毎日不安だった。家族に迷惑をかけたくなかった」などと話していたが、間もなくすべての供述をやめ、完全黙秘を続けている。
黙秘の行使は、憲法で保障された被疑者の権利。取り調べでも裁判でも自身の不利益な供述をする必要はなく、それが被疑者の不利益につながることも禁じられている。自白の強要などによる冤罪を防ぐためだ。
安福被告の黙秘について、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「自白をしていて、途中で供述を黙秘することはある。客観的な証拠によって、被疑者が犯人である証拠をきちんと集められるかがポイント。黙秘しているかどうかにかかわらず、(客観的な証拠を)どんどん固めていく作業をいましていると思う」と推察。
東横こすぎ法律事務所の北川貴啓弁護士は「(黙秘することで)不用意な供述を避けようとしているのはひとつある」と見る。
元大阪地裁、札幌地裁裁判官の内田健太弁護士は「被疑者が黙る権利を保障することに大きな意味がある。殺人罪において動機が何かというのは、量刑を決めるかなり重要な要素。なので裁判所はできるだけ動機が何なのか解明したい」との見方を示した。
黙秘は正当な権利だ。決してそれ自体が批判されるべきではない。しかし殺害された側、被害者遺族の立場から見ると状況はまったく異なる。
妻はなぜ殺害されねばならなかったのか。その真相がわからないまま客観的証拠だけが並べられ、裁判が行われる。推定無罪の原則のもと、量刑が決められていく。それが司法であり裁判制度だ。被害者の「知る権利」は満たされず、怒りと悲しみは行き場がない。
被害者の夫である高羽悟さんは「黙秘権は憲法で認められた被疑者の権利だとわかっている。でも黙秘された側は、真相すらわからないまま量刑だけが決まっていく。それが相手側の狙いとは思うけど、被害者の権利はどうなるのか。イギリスでは黙秘すると、不利に扱われると聞く。せめてそういった仕組みがあってもいいんじゃないかと思う。この国は加害者の人権を優先する。被害者はないがしろ、これが一番つらい。だから民事訴訟に出ることにした」と語る。
若狭弁護士は今回の裁判でこそ動機の解明が必要だと訴える。「人間が殺意を抱くのは大体、了解可能な経過をたどることがあって、どういう経緯でどうして彼女を殺すという気持ちになったのか。その動機が検察においては一番解明しなければいけない点。非常に今回の事件ではポイントになる」。
「正直、裁判はあまり期待していない。でも、まだ奈美子に報告できていないので、公判は傍聴したいと思っている」(高羽さん)
高羽さんが黙秘について語る。「被疑者の権利だということは重々承知しているけども、だったら裁判をやる意味がないというか。結局そこで量刑が判断されるということになると、じゃあ黙っているから重い罪になるということならいいけど。黙っていて軽い罪になった時に、裁判をやる意味があるのかとか、そういう懸念はする」。
「いつも(被害者)遺族同士の会話で言うけど、2人以上殺さないと死刑にならないとか、そんなことがあるならもうAIに裁判事例を全部記憶させてAIに判断させれば、裁判早く進むじゃんという話になっちゃう。それをいちいち、一つひとつの刑事裁判を行うということは、100あれば100加害者、被害者の関係だったり、いろいろなことがあるために裁判をやる意味がある。黙秘で通してしまうようだったら、もうAIでやってもらったほうが、加害者も被害者も負担が少なく済むし、裁判員裁判の裁判員を雇うこともない、というのが本音。なかなか言えないので言いませんけど」と、複雑な胸中を語った。
また、被告の動機について「私としては、結局自分の身を守りたいと思っているはずだから、旦那とか子どもに恥ずかしくて言えないような動機だと思っている。だから『うちの母親、こんな動機で人の奥さん殺したんだ』とかいうことが、世間的にバレるのが怖いから、黙秘が一番気が楽」と推察した。
(『ABEMA的ニュースショー』より)