日本人の15人に1人が一生に一度はかかると言われる「うつ病」。社会全体で当事者への理解が進む一方で、その影で誰にも言えない苦悩を抱えているのが、彼らを支える家族やパートナーだ。ネット上では、うつ病を抱える妻を支えてきた夫が「一体いつから、愛する人を支えるという尊い行為が『自己犠牲』に変わってしまったのでしょうか」と、悩み苦しむ投稿があり、話題にもなった。「ABEMA Prime」では、うつ病の当事者を支えるサポート側の実態に迫り、専門家とともに共倒れを防ぐためのあり方について議論が行われた。
■二児の母にして看護師 夫が重度のうつ病に「主人を悪者にしたくなかった」

ガーたんさんは、フルタイムで看護師をしながら2人の子どもを育てる母親だ。夫がうつ病と診断されたのは7年前。2人目の子どもが生まれて1年が経った頃だった。
夫は転職先での人間関係のトラブルから体調を崩し、トイレにこもって動けなくなる日々が月に何十回も続いたという。当時の状況をガーたんさんはこう振り返る。
「毎日ひたすら『こんな俺でごめんね。いなくなったら楽だよね』と。ひどい時は毎晩ずっと泣いていて、本人もどうしていいかわからない。その状態で、私に『ごめんね』と謝ってくるけれど、謝ってこられてもどうしていいか…」。
献身的に支えようとする一方で、正解のないサポートに無力感を抱くことも多かった。「ケガをしたら手当てというか、こうしておけばいいという正解があるが(うつ病は)正解がない。ゴールが見えない。これがいつまで続くんだろう?と漠然と思った」。
さらに、彼女を追い詰めたのは「弱音を吐けない」環境だった。「自分もつらいけど、そのつらい原因が主人。主人のことを悪者にしたくないのは結構、大きかった」。周囲に詳細を話せたのは、自身の母親と友人1人だけだったという。
■うつ病の妻をサポートし自分もうつ病になった夫「自分自身の心も徐々に傷ついた」

結婚して2年になるゆーさんの妻は、出会った当初からうつ病を患っていた。ゆーさんは仕事中も鳴り止まないLINEに対応し、時には「今からこの世を去るよ」というメッセージを受けて早退し、家に駆けつけることもあったという。
「少しでも妻の何かしらの要求とかに応えられるように接していきたいと思っていたが、それに伴って、自分自身の時間がほぼなくなってしまった。自分のリラックスできる空間が作りづらくて、この数年間は耐えていた」。
生活の中心を妻のサポートに置いた結果、ゆーさん自身の心も限界を迎えた。仕事に対する意欲が起きず、朝も起きられない状態となり、現在は休職して自身の回復と妻のサポートに専念している。
「自分自身の心も徐々に傷ついたり、落ち込んだりする状況になってきた。妻のサポートと仕事の両立が非常にしんどくなって、仕事する気も起きずに、上司に相談し、現在休職をとって、自分の心の回復と妻のサポートに専念している」。
■なぜ「サポートする側」まで病んでしまうのか

なぜサポートする側まで共倒れという事態を招くのか。メンタルレスキュー協会理事長の下園壮太氏は、サポートを「エネルギー」の観点から解説する。
「介護でも子育てでも、私たちが一緒に生活すること自体、サポートをすることでエネルギーを使う。エネルギーを使うほど、うつっぽくなりやすい。一般的に一番わかりやすいのは『疲れ果てる』だ」。
さらに、下園氏はサポート側がうつ状態に陥ると、冷静な判断が難しくなる危険性を指摘する。「サポート側がうつっぽくなると、距離が取れなくなってくるし、自責感が強くなる。無力感、自信のなさが強くなる」。
サポート経験のあるEXIT・りんたろー。も自身の反省を込めて強く同意する。「僕も経験があるが、うつになったことがない人が支えるのは、ほぼ不可能だと思う。価値観が違いすぎて理解できない。うつ病を悪化させてしまうこともあるし、そこは僕も反省している」。
EXIT・兼近大樹も、サポート側が周囲に相談できない構造的な問題を指摘した。「支える側が、人に話せないところがある。話したら失う日常、会話がある。変に気を遣われてしまい、笑い合えたことができなくなる。(話した相手が)気を遣って距離を置いてしまうこともある」。
■「1人で戦わない」ための具体的な処方箋

では、家族がうつ病に直面したとき、どのように立ち振る舞うべきなのか。下園氏は、サポートの難しさを救助に例えて警告する。
「できるだけ1人で戦わないこと。これが案外難しい。(溺れた人を見つけても)1人で水に飛び込んで救助はダメだよと教わると思うが、あれと同じで簡単ではない。1人でやる場合でも、必ずその分野に詳しいサポートをつける。そうすると、自分はかなり安定した距離や価値観を維持できる。これが長くサポートしていくコツだ」。
またリディラバ代表・安部敏樹氏は、家族がすべてを背負わなければならないという社会的な期待値を見直すべきだと主張する。「家族がみんな、最後まで面倒を見なければいけないわけでもない。その結果、どんなことになったとしても、それは個人の意思決定。その家庭の中でベストを尽くされているのだから、もうそれ以上自分も責めなくていいというように、社会の認識に変えていければ、一番みんなが傷つかない」。
また、相談のハードルを下げる手段としてAIの活用も現実的な選択肢になりつつある。下園氏は「AIが発達してきた。相談がAIでかなり受けられることがわかり、相談に対するハードルが少し緩んでいる」と述べると、安部氏も「相談する時に『ここから先はAIと話しますか、人間と話しますか』と選ぶ実証実験があったが、8割を超える人がAIを選んだ。思っているほど、我々は人と話したいわけではなく、AIでもよかった」と、対人ではない相談窓口の有効性に触れた。
最後に関係者が共通して強調したのは、サポート体制の多様化だ。りんたろー。は「いいカウンセラーに出会って、セットでカウンセリングを受ける。二人三脚で進んでいくことが、近道だと思う」と専門家との連携を推奨し、兼近も「誰か助ける時は、1人でやるよりも力を合わせた方がいい。知識がある人、さらには道具を持っている人がいたら、より救い出すのが楽になる。だから詳しい人、サポートできる人、道具を持っている人たちを増やしていくのが大事」と、個人の努力に依存しない仕組みづくりの重要性を訴えた。 (『ABEMA Prime』より)