イラン情勢の悪化で封鎖が続くホルムズ海峡。原油を蒸留・分離して得られる「ナフサ」も供給不安を引き起こしている。日本の石油化学製品はナフサ由来が中心で、その影響は深刻だ。『BS朝日 日曜スクープ』は建築の現場を取材。シンナーはじめ数多くの資材が入手困難になっているという。
1) 何が起きているのか…原油由来の「ナフサ」使った製品「入手困難」
番組が取材したのは5月1日、東京・目黒区の塗装業「円谷美装」が区内の集合住宅で塗装作業を行う現場だ。建物の塗装に使う資材の納期が遅れている状況だという。まず塗料は入荷待ち。4月の頭に注文した材料でまだ届かない物も多数あるとのこと。シンナーも入手困難で、地方のホームセンターで偶然見つけて購入したものを使用している。養生シートも入荷待ちだ。同社の長谷川専務は「現場で一番困っているのは材料が入ってこないこと。資材不足で協力会社2〜3社から『もう辞めようかと思っている』と聞く」と深刻な状況を語った。
住宅関連の現場で「ナフサ製品の不足」を訴える声は後を絶たない。東京・大田区のリフォーム業者「キタセツ」の担当者は、「プラスチックだけでなく、建築で使うベニヤ板なども問屋さんに在庫がない状況。そうなると床と壁が作れない。お客さんから相談を受けても着工ができない」と言う。ベニヤ板にはナフサ由来製品の接着剤が使われている。
さらに東京・品川区のリフォーム業者「モノツクリ」の担当者は、「ユニットバスはA社で出荷が停止になったと聞いたので、代わりにB社に発注していまは作業が進んでいます。ただ、今後『受注オーバーで受けられない』と言われるのではないかという懸念がある」としている。
今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は、現在の混乱について「ホルムズ海峡の封鎖ではなく、その前段階で在庫の奪い合いが起きている」と指摘する。
高市政権が「確保した」としているのは、サプライチェーンの一番“川上”のところで、「他の地域からなんとか確保し、そこまではできた」という話。そこから先を流れていく過程に様々な需要と供給があって、政府が言う“目詰まり現象”が起きている。しかし、個々の不安に対して、政府が全部保証するのは不可能だ。また、調達はできても価格が非常に上昇して、企業として採算が成り立たなくなり、もう廃業したいというところも出てくる。
加えて、日本全体で見ればナフサも含めた化学製品はゆっくりと需要減の方向。むしろ、供給をどう再編して秩序だった縮小をしていこうかと、イラン攻撃前は話していた。そこで突然、やっぱり供給を増やしてくださいと言われても混乱が生じて、なかなか対応できない。この混乱の中では、需要を抑える等の政策で「みんなで乗り切る」しかない。
2)なぜ現場にシンナーが行き渡らないのか 業界紙編集局長の分析
高市総理は4月16日「シンナーについては目詰まり箇所を特定し、シンナーメーカーからの出荷量が回復し解消に向かいつつある」と発言。しかし4月30日、日本塗装工業会は番組の取材に対して「シンナー不足は改善されていない。シンナー・塗料の確実な供給確保を国に4月14日に要望したが、状況変わらず」と答えた。
なぜシンナーは行き渡らないのか。ナフサの流通に詳しい化学工業日報社の渡邉康広編集局長は、「シンナーは塗料だけでなく繊維や半導体の溶剤など幅広い用途がある。メーカーが付加価値の高い製品に優先的に回している可能性がある」と分析している。
さらに渡邉編集局長は、ナフサ製品の不足について、複数の原因を挙げた。その一つが「長いサプライチェーン」。ナフサが最終製品になるまでには多くの工程を介するため、確保しても製品になるまでかなりのタイムラグがある。もう一つは「国内生産能力の限界」。ナフサは 3分の2が輸入、3分の1が国内で生産されているが、備蓄している原油や新たに調達した原油から生産できる能力は限られている。「原油ではなくナフサそのものを調達する必要がある」と指摘した。
今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は、“在庫”の水準を精査することが重要と訴えた。
ただ、各メーカーにしても今は、そんなに利幅はないはず。いわゆる“特需”で荒稼ぎをしようというのではなく、企業として成り立たせるために適正な利益を得られるところに順次配分をしていったら足りなくなっているというのが実情だろう。
3) ガソリン補助金の今後は…問われる日本の経済政策
日本のガソリン価格は補助金が入っており、1リット=169.7円と、世界各国に比べればかなり低く抑えられているが、今村卓氏(丸紅経済研究所社長)は、「政策的なゆがみ」を懸念する。
ガソリンが生活必需品、ガソリンがないと事業が立ち行かない人には補助が必要だと思うが、今は所得に関係なく、富裕層に対しても相対的に安いガソリンを供給している。政策的にゆがみが生じていないか懸念する。経済として、本当に公平ですかと。
ガソリンの補助金は月5000億円ぐらいの財政負担と言われていて、おそらく予備費を含め、用意した資金は、しばらくすると尽きてしまう。そこで考え直すだろう。例えば、価格を安定させる今の政策から、あらかじめ補助の額を決め、そして、一定以上の価格上昇は利用者が負担する政策に切り替えるなど、何らかの修正がなされると思う。
アジア諸国の中では日本は、原油の備蓄がある方だ。アジア諸国、特に ASEAN 諸国には備蓄が本当に乏しい状態の国もある。アジアの同僚に話を聞くと、移動費を抑えるために在宅勤務指示が出ているところも少なくない。そういった国々に、日本が備蓄を融通するのは無理だと思うが、例えば原油の購入資金を日本から融通する政策を進めることはできる。一定の効果はある。資源国に働きかけ、日本が安定的に調達するのはもちろん重要だが、苦しんでいるアジアの国々もサポートし、支援して、日本への一層の信頼につなげてほしい。
番組アンカーの末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)も、日本の経済政策のあり方が問われる重要な局面にあると指摘した。
政府も民間も一丸となって日本の経済をもう一度動かしながら、生活の部分もプロテクトしていく必要がある。特に都市部の住宅の値上がりはかなり限界に近いところまで来ている。それをどうコントロールするか。冷や水をかけるようなことをやれば経済の腰を折ってしまう。バランスが大切だ。実質賃金を上げていく政策も非常に重要だ。今月、来月と、日本は経済政策面で非常に重要な局面にある。
(「BS朝日 日曜スクープ」2026年5月3日放送より)
<出演者プロフィール>
今村卓(丸紅経済研究所社長。2008年から9年間、丸紅ワシントン事務所長。米国政治・国際経済・金融などの情報に精通)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。東海大学平和戦略国際研究所客員教授。永田町や霞が関に独自の多彩な情報網を持つ。湾岸戦争などで各国を取材し、国際問題にも精通)





