社会

ABEMA TIMES

2026年5月10日 11:00

卵子凍結の公的助成“年齢制限”への波紋「35歳までに考えられる社会なのか」支援のあり方を考える

卵子凍結の公的助成“年齢制限”への波紋「35歳までに考えられる社会なのか」支援のあり方を考える
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 少子化対策の一環として、こども家庭庁は2026年度中に、希望する未婚女性のための「卵子凍結」費用の一部を補助するモデル事業を始める予定だ。その中で、原則18歳から35歳の女性を対象に行うとしたことが波紋を呼んでいる。「年齢上限」への批判も相次いでいるが、あくまで今回はデータ収集を目的とした研究事業の段階で、実際に公費補助を35歳までと決定したものということではないという。一方で、条件を設けたことについては、妥当性もあるとするという声も。『ABEMA Prime』では、今回の事業の意義と今後を考えるとともに、卵子凍結した当事者の苦労を聞いた。

【映像】総額100万円超も…卵子凍結、出産までにかかる費用一覧

■こども家庭庁のモデル事業がスタート

卵子凍結に補助

 卵子凍結への補助について、国は「広義の医学的適応のためのデータ収集の研究事業」と位置づけている。未婚・事実婚なしの原則18〜35歳が対象となり、卵子凍結費用を一部助成(20万円)。凍結後10年ほど追跡調査する。

 すでに東京都では補助制度があり、在住18歳〜39歳までの女性を対象に、実施年度で上限20万円助成(1回のみ)。保管後、毎年2万円支給も行っている(2028年度まで)。

 こども家庭庁の卵子凍結は、希望する都道府県で実施するモデル事業。目的は「広義の医学的適応の対象範囲検討のため、健康な女性も含めたデータ収集の研究事業」だ。事業費は全額を国が負担するが、現時点で希望する自治体はまだない。また、卵子凍結に関する正しい知識の普及啓発も併せて実施する。

 「35歳まで」の根拠として、こども家庭庁は“日本生殖医学会の指針に従った”としている。日本生殖医学会ガイドラインには「凍結・保存の対象者は成人した女性で、未受精卵子等の採取時の年齢は36歳未満が望ましい」と書かれている。

 遠隔医療サービス「産婦人科オンライン」代表で、産婦人科医の重見大介氏は、「こども家庭庁の資料をよく見ると、かなり研究色が強い。『卵子凍結の妥当な年齢範囲があまりわかっていないため、健康な女性のデータを集めて、社会的意義を検討する必要がある』との文脈で検討されている。そのため、これで『35歳まで公費補助』と決まるわけではないだろう」と考察する。

 一方で、「研究機関や国の仕組みが、メッセージを与えるのは事実だ。もっと丁寧に、根拠や意図を発信する必要がある」とも考える。「医学的データでは、凍結時の年齢が35歳を超えると、最終的な出産率は落ちていく。使われる卵子は、大体どの論文でも1割前後で、自然妊娠もあれば、パートナーが見つからなかった人もいる」。

 使われないケースを考えると、「公費を使うなら、費用対効果の面で、ある程度の線引きが求められる」としつつ、「データを集めるモデル事業としては、『36歳以上のデータを取らなくていいのか』という観点もある。慎重に検討していただきたい」とした。

■卵子凍結、どれだけ大変?

卵子凍結、9割が利用されず?

 元芸人でエッセイギャグ漫画家のかなさんは、39歳で行った卵子凍結を漫画化して話題になった。「50万円かかって、補助金が20万円出るが、ちょっとつらかった。私の場合は『1年保存するのに約10万円かかる』と言われたが、毎年払うのはネックだ。卵子を使う際に、どれくらいの費用がかかるかわからない。私は2年だけと期限を決めた。35歳で凍結した人が、何年保存し続けられるのか」。

 生成AI系会社員のハヤカワ五味氏は、「自分も凍結しているが、意外と凍結卵子を使う率は低いと聞いている。私も医療保険的なニュアンスに近く、妊娠を手助けするよりは、ライフプランでイレギュラーが起きたから凍結しただけだ」と説明する。

 そうした理由から「凍結自体にはネガティブな立場だ。凍結した卵子を解凍して使う場合は、保険診療と別ルートになり、お金がかさんでしまう」としつつ、持論を述べる。「『35歳まで』ではやさしい。30歳以降に妊娠率が明確に下がるため、自分は30歳ギリギリで凍結した。心の安心に補助を出してくれるのは、やさしい印象を受けた」。

 費用面については「20個取るのに2回やって、合計80万円くらいかかったが、都や区に加えて、会社も差分を補助してくれたため、持ち出しはほぼなかった。そうでなければ、本来やってほしい30歳未満には出せない」と説明する。

 産婦人科医で杉山産婦人科の杉山力一理事長は、こども家庭庁の「35歳まで」指針に批判的だ。「都の補助金が始まって3年がたち、『40歳までにやれば良い』という風潮がある。一方で20代でやっている人は少なく、35歳から40歳程度が最も多い」。

 卵子凍結には、保険制度上の課題もある。「体外受精は保険適用だが、卵子を凍らせることは自費だ。『国ではなく保険組合が決める問題だ』と逃げられている。都は使う時にも、43歳まで30万円程度の補助金がある。“無料に近い金額”で使える都にならって、国も補助金を出せば解決する」。

 また凍結費用については、「企業努力で年間マックス5万円程度で、何個あっても上限にしている病院がある。そうした病院を選べば、ずいぶんと安くなってくるだろう」とした。

■卵子凍結、その先は…

卵子凍結 出産率

 凍結した卵子は、9割が利用されていないというデータもある。医学誌「Fertility and Sterility」(2024年掲載)によると、卵子凍結をした人が、その後どれだけ卵子を解凍・使用したか、社会的卵子凍結した1万3724人を対象にした27研究を分析した。すると、凍結卵子を使う人は10.8%で、未使用は89.2%だった。ただし、将来も使わないことを示すものではない。

 研究者の山内萌氏は、「あくまで可能性の話であり、『若いうちに卵子凍結すれば、確実に妊娠できる』ではない。“35歳”も可能性でしかなく、40歳を超えても無事出産できる可能性もある」と話す。

 そして、「女性のライフスタイルが多様になり、35歳までバリバリ働いている女性も多い中で、可能性の話はネガティブにもポジティブにも働く。『35歳まで』と言うことが、『35歳までなら元気に妊娠できる』とのメッセージになり、社会の受け止め方が極端になっている。ただし、それに振り回されず、過ぎても妊娠できると、おのおのが好きに選択すればいい」とした。

 現役保育士で育児アドバイザーのてぃ先生は、「35歳までに考えられる社会なのか。仕事も収入もパートナー関係も不安定の中で、女性だけが将来的な妊娠の責任を前払いさせられている。この社会構造において、ずるくないか。“一億総活躍”や“女性の社会進出”を打ち出して、晩婚化が起きている。にもかかわらず、『35歳まではお金を払うから、40歳ぐらいまで働ける』と言っているように見える」と問題点を示す。

 重見氏は「企業で講演する際に、男性の上司や人事部が『全く想像できない。そんなに大変なんだ』と、よく言っている。そのあたりの知識を共有して、できるだけ柔軟に対応できる社会づくりが必要だ」と力説した。 (『ABEMA Prime』より)

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