廃墟から白骨遺体が発見される例は少なくない。その多くは、肝試しに訪れた若者が見つけ、死因も身元も不明な白骨が大半を占めた。犯罪行為となりうる肝試しがなければ、今も気づかれることがなかった。
しかし、母と息子2人が暮らす家に、白骨が放置される事件が発生した。
ゴミに埋もれるように白骨遺体が…
6月30日、栃木県日光市の民家の1階で白骨遺体が発見され、この家に住む無職・齋藤雅幸容疑者(56)が死体遺棄の疑いで逮捕された。齋藤容疑者は「放置したのは間違いない」「母親と同居している。遺体は母親だ」と、供述しているという。白骨遺体の身元は特定には至っておらず、母親とは連絡が取れていない。
いったいこの家で何が起きていたのか。現地を訪れると、白骨遺体が見つかった民家には草木が生い茂り、建物の外観はわからなかった。この家の1階で生活ゴミに埋もれるような形で、白骨遺体が見つかったという。外からは民家があるとは気づかない状態になっていた。
警察によると、齋藤容疑者はこの家で、今年80歳になる母親と2人暮らしだったという。
現場は、観光地としても有名な日光東照宮から車で30分ほどの場所にあり、上空から見てみると、現場の裏には山林が広がり、周辺には住宅が点在していることがわかる。
“明るく多趣味な母親”に起きた転機
近隣住民に話を聞いた。「(会ったのは)お母さんの方だけ。元気で明るくて多趣味。カラオケやったり、CD自主制作したり。友達と楽しく出かけて行ったのも見たことある」。連絡が取れていない母親は、元気で明るく多趣味な人で、30年ほど前から住み始めたという。
生い茂る木については、「もう10年以上たっているんじゃない?あんなんじゃないよ。綺麗だったよ。花が好きだったから。花を隣の家の境に植えてあって、向こう側は畑をしていたんだから、家庭菜園。あんな獣道みたいになっているのは知らなかった」と証言する。
別の近隣住民も「前は綺麗だった。上も見えていて。私たちがここに来て35年になるんですけど、その時にはお母さんも元気で、庭もちゃんと綺麗になっていた」と振り返る。2013年ごろの写真を見てみると、確かに生け垣が整えられ、庭には花も植えられている。近隣住民によると、野菜や果物を育てていたという話も。
それが10年ほど前から、このような状態になったという。激変したきっかけは長男との同居だったという。「息子さんがここへ転がり込んでからずっと一緒でしょ?お母さんの方はもう10年以上見ていない。息子さんが来て12〜13年?会社辞めたか何か知らないけど。離婚してこっち戻ってきたらしい」(近隣住民)。以来、母親と顔を合わすことがなくなったという。
別の住民も「お母さんとはもう全然、ここ20年ぐらい会っていない。息子さんはたまに自転車とか、買い物で歩いている姿を見ていますけど、近所付き合いもしていないのでわからない。気味悪くて(家に)入ってもいけない」と明かす。
親族からの「数年連絡取れない」→発見のきっかけに
いったい、この間に何があったのか。白骨遺体発見のきっかけは、親族からの「数年連絡が取れていない」という相談だった。安否を心配した親族から連絡を受けた警察が家を訪ねたところ、1階はゴミ屋敷状態になっており、中から白骨化した遺体が見つかった。
見つかった遺体は、完全に白骨化が進み、名前も年齢も性別もわかっていないが、目立った傷はなく、死因は不明。ただ、周囲には着衣らしきものが見つかっている。齋藤容疑者は「遺体は母親」と話している一方、殺害については供述していないという。
近隣住民は「お母さんは元気でしたけどね。町内会にも入って。そのうち息子さんも帰ってきたのか。転がり込んだのか知らないですけど、そのぐらいから、あまり聞きはしなくなった。お母さんの姿が見えないので、市の人が(自宅に)聞きに来たこともあったが、『ここ最近見てないです』と言った」と証言する。
白骨化しても周囲は気づかなかったのか
しかし、遺体が白骨化するまで、誰にも気づかれないということはあり得るのだろうか。神戸で起きた冷凍庫バラバラ遺体事件では、マンションの近隣住民が異臭に気づいたことが発見のきっかけとなった。
元京都府警科学捜査研究所の矢山和宏氏は「一般的にゴミ屋敷の場合、生ゴミなど生活ゴミがあり、ハエやゴキブリがすぐさま遺体を蝕むため、もちろん腐敗臭は発するが、白骨化までのサイクルは早いと考えられる」とコメントする。
白骨遺体がどのような経緯で死亡し、その後、遺体がどんな状態にあったかは不明だが、仮にそのまま放置されたとすると、遺体はどのような変化をたどるのか。
日光の事件では異臭騒ぎなども特になく、数年誰からも気づかれなかった。矢山氏によると、「一定の異臭は発するが、一軒家で草木に覆われているので、外までは漏れなかった可能性もある」という。
家族間でのトラブルと“ゴミ屋敷”になる人の心理
現場で取材を進める中、齋藤容疑者の親族に出会った。映像や音声はなしという条件で、取材に応じてくれた。親族によれば、実は、母親だけでなく齋藤容疑者とも20年以上連絡を取っていなかったといい、家族間でのトラブルが原因であったと話す。
母親は夫と離婚したあと、親族と“絶縁状態”となり、交流が途絶えていたという。親族は齋藤容疑者や母親とも長年連絡が取れず、消息を案じていたそうだ。
行政では救えなかったのか。日光市に問い合わせたところ、担当者は「詳細は調査中です」と返答した。
犯罪心理学者の出口保行氏は、対応の難しさをこう語る。「ゴミ屋敷になってしまうタイプの人は、人の意見は取り入れない。この人たちの価値観の中では、別にそれは汚れではなかったりする。『誰に迷惑かけてるんですか?』という話になるのが普通。ご遺体であっても『何とかしなきゃいけない』という感覚を持たなかったのだろう。(ゴミ屋敷に)住んでいる人がどういう人なのかを調べていくと、基本的には社会との接点がない。『なんであんた達にそんなこと言われなきゃいけないんだ』『大きなお世話でしょ』ということにもつながり、なかなか解決しない」。
死体遺棄の時効は3年だが…
阪口采香弁護士は、「死体遺棄罪の時効は3年だが、『いつから数えて3年か』のポイントは2説ある。遺棄行為の時点とする説と、それとも遺棄状態が継続していて犯罪行為は終了していないとの説があり、どちらの裁判例も存在する」と解説する。
そして、「『この時点で遺棄した。埋めた』のような明確なものがあれば、遺棄行為の時点から公訴時効の3年間が起算されるという裁判例もある。今回のように放置して不作為、何もしなかった状態が遺棄だとして、『まだ継続しており、3年間は加算されていない』との考えの両方がある。後者を取った可能性もある」とする。
加えて、「公訴時効とは『起訴できない』という時効であり、捜査や逮捕は禁じられていない。そのため、どっちの時点から3年間をカウントしていると明確にせず、公訴時効だからという点で逮捕に踏み切ったのかもしれない。死体遺棄では3年だが、その先にある犯罪を見据えて、そちらで起訴しようとして逮捕した可能性も考えられる」と推測する。
ゴミ屋敷について出口氏は、行政による救済の難しさも指摘していた。これに阪口弁護士は「法的救済も難しい」と指摘する。「自分の家、私有地にゴミを捨てていれば、不法投棄ではない。自分の家に何を置こうが自由で、刑事罰は科せない。となれば民事になるが、仮に『ゴミを撤去してください』という判決が出ても、それを守るようなら、こんな問題は起きていない。行政代執行するにせよ、税金を使ってゴミを捨てるまで周りに危害が及んでおらず、自宅内で完結していることも多いため、そこまでの危険性はない。だから代執行もできないとなってくると、法的な救済は難しくなってくる」。
(『ABEMA的ニュースショー』より)