ミシュランガイド東京2026への掲載で注目を集める料理店。和・フランス・韓国の3要素を取り入れたフュージョン料理のレストラン「HY?NE」でエグゼクティブシェフを務める木本陽子氏と、日本料理店「御料理ほりうち」の店主・堀内さやか氏。いずれも女性料理人だが、ミシュランガイドに掲載される星付き料理人のうち女性が占める割合は、確認できるだけでも数パーセントにとどまり、9割が男性というのが現実だ。
【映像】今では考えられない…女性シェフが男性から受けたハラスメント(実際の映像)
家庭料理は今や男女を問わず担う時代になりつつある一方で、なぜ一流料理店になると女性の割合が大きく減ってしまうのか。『ABEMA Prime』では性別と職業について考えた。
■「女性が少ないから、負のループがずっと回っている」

木本氏はミシュランの星を獲る女性シェフが少ない理由について、「まず女性が料理業界自体に少ないので、当然の結果だと思う。そもそも女性がいないので、星を獲る女性シェフも自ずと少なくなる。その負のループがずっと回っている状況が何年も続いている」。
堀内氏も「ミシュランを獲れるレベルまで女性が働き続けるのは、今まで確かに大変だった」と認めつつ、「今の若い世代にはチャンスがあると思う。業界もだいぶ変わってきたし、日本全体が変わってきている。ここまでの時代がそうだったのはもうしょうがない」と語る。
木本氏が専門学校に入学した18歳当時、すでに学校の男女比は8対2で女性が少なかった。新卒で入ったお店でも女性料理人は自分一人で、他の23人は全員男性だったという。「周りの男性も女性の扱い方が分かっていないので、何が困るのか、どういうふうに教えたらいいのか、全てマニュアルがないような状態で働いてきた」と振り返る。
また、60名近くを一度に受け入れる規模の店でランチも担当していたため、仕込みの量が膨大で体力的な問題も大きかった。「男性だったら片手で持ち上げられるものが、女性だと両手でも難しいものがあって、効率よくやっていくには男性と違う部分で考えなければいけなかった」という。調理台の高さが男性目線で設計されており、「肘を上げて切らなければいけない」などの問題もあったと明かす。
堀内さんの場合、修行以前の段階からつまずいた。「女性が調理場に入ること自体がありえない時代で、就職したくても女性というだけで門前払いされ、誰にも相手にしてもらえなかった」。30年近く前の話だと前置きしつつも、「鍋に水を張って、これが片手で持ち上げられたら入れてやると言われた。男性でも持てないような量で、だから女はダメなんだよと言われた」と振り返る。
一方で、現在については「女だからダメだと言ってくるような板前やシェフはほとんどいない。料理人が足りなすぎて、現場で頑張っている女性がどんどん増えてくる中で、積極的に受け入れてくれるシェフが多い」との変化を実感している。
■「アスリートと同じ。才能プラス努力が形になる」

ミシュラン掲載レストランに絞ると女性の割合が大きく下がる理由について、木本氏は「最初に始める人数はそれほど変わらないと思う。ただ、女性は一流シェフとして働けるレベルになった時期がちょうど結婚・出産と重なって、離脱してしまう人が多いのではないか」と分析する。
堀内氏は、「料理人はアスリートと一緒。やっただけ自分のものになる。才能プラス努力が形になる。オリンピックを目指している人に8時間以上練習するなと言ったら日本は弱くなっていくだけで、料理人に同じことを言ってしまうと、上を目指そうとする料理人の芽をどんどん摘んでしまうことになる」との見方を示す。
一方で、「今すごく労働環境を整えている飲食店が多く、伸びたい若者が悩んでいる。自主練をしたいのに帰されてしまう。タイムカードを切った後にやると事故が起きたときに怖いので、シェフたちもホワイトになりすぎて成り立たないと悩んでいる」と現状を明かした。
■「女性でもできると証明したい」変わりゆく業界と残る課題
出産後も現役を続ける木本氏は、コースの品数を厳選し、自分がいなくても運営を任せられるスタッフを育てて体制を整えた。堀内氏は「当時40歳になる時、結婚して子供を産むか、自分のお店をやるかという中で後者を選んだ。お店は私の子どもみたいなものだ」と話す。
情報キュレーターの佐々木俊尚氏は、料理の世界の構造的な問題として「文化の強度」を指摘する。「家庭料理とプロの料理の文化が全然違うように、地方の大衆食堂の文化とミシュランの星を獲る文化でも全然違う。高度な文化になればなるほど文化の強度が強くなり、そう簡単には変わらない」。
しかし、「ワンオペでシェフ一人、カウンター6席から8席のコース料理というシンプルな形態のお店が出せるようになってきた。そういう方向に行けば行くほど、昔の徒弟制度の中で働いてきた人ではない人でも、自由でクリエイティブな料理を作っていく余地ができてきている」と変化の兆しも語る。
将来について、木本氏は「今、女性料理人として子供を産んで育てながらリアルに働いているので、ロールモデルになれたらいいと思っている」と語る。堀内氏は、「女性料理人がいなかった時代からこの業界に入ったので、誰かがやり遂げないと女性にできるということが証明できない。自分の人生をかけて女性でもできると証明したいと思ってやってきた。今は次の世代に託す時期なのかなと思っている。これからの、料理人を目指す女性たちに頑張ってほしい」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)