2025年3月、東京・高田馬場の路上でライブ配信中の22歳の女性が切りつけられ殺害された。なぜ殺害に至ったのか、法廷で明らかにされた真相を追った。
その事件は、被害者のスマホから生配信されていた。2025年3月11日午前9時51分ごろ、東京・高田馬場の路上。被害者は「最上あい」の名で、山手線を1周する配信の最中だった。
突然、男がナイフで襲いかかる。男の「まだ動くんだ」「死んでますかね」との声とともに、その一部始終が生配信された。
半年で“投げ銭”は163万円に
殺害されたのは、配信者の佐藤愛里さん(当時22)。「最上あい」を名乗る人気の動画配信者だった。殺人などの罪に問われたのは、高野健一被告(44)。「間違いありません。本当に申し訳ありませんでした」と認めた。
弁護側は、大方の事実関係を争わなかった。一方で、被告には殺意がなかったと主張。しかし、東京地裁は殺意を認定し、懲役16年を言い渡した。いったい何があったのか。裁判記録をもとに、ひも解いていく。
2人が出会ったのは、動画配信サービスだった。2021年の暮れ、視聴者の1人だった高野被告は、画面の向こうの「最上あい」に恋愛感情を抱くようになる。
SNSのダイレクトメッセージから、やがてLINEを交換。佐藤さんへ投げ銭などで使ったお金は、半年で163万円にのぼった。「LINEの友達は初めてだ」(佐藤さん)。
「俺にはあいりしかいない」→「きもい怖い」
2022年1月、2人のやり取りはまるで、恋人のようになっていく。公判で明かされたLINEメッセージによると、「ぼくマジラブ」「けんいちで草」「本名バレた」「私も本名バレた」「2人だけの秘密だよ」といったやりとりが交わされていた。
また「マジラブ、あいりのことだいすきだよね」「やっぱバレてたか」「あいりも大好きだよ。いつもありがと」「うれしすぎるよ」「優しいね」「好きな人には優しい」。「結婚やな」などと好意の言葉を何度も送る高野被告に「それしかないな」と返す場面もあった。
交わしたLINEは、記録が残るだけでも約4万通。その一方で、佐藤さんが距離を置こうとすることもあった。「あいりすきだよ。ずっと好きだよ、いっぱいすき。お願いだから返事ちょうだい。俺にはあいりしかいないんだよ」とのメッセージに、「きもい怖い」と返答。
「ツンデレだなあいりは」「きらい」「嫌いにならないで」「別に配信者1人に嫌われたっていいじゃん」「よくない。あいりは特別。一番大切な人」「笑った」と続いた。
そして、「もうブロックしようかな」「ブロックだけは勘弁して」「私もう配信者じゃないよ」「でも好きだし。ブロックしないで」との会話も。そのたびに高野被告は、すがるように関係の継続を求めたという。
勤務するキャバクラ店へ通うも…
2022年8月、佐藤さんから1通のメッセージが届く。「アイリが働いてる店来る?」。佐藤さんが働くのは、山形のキャバクラ店。高野被告が暮らすのは栃木。それでも、高野被告は山形の店に向かった。2人が直接会ったのは、この時が初めてだった。
高野被告は、4回店に通い、店では合わせて77万円を使った。交通費や宿泊費、プレゼント代も惜しまなかった。だが歯車は、徐々に狂い始めていた。
そして9月ごろから、彼女の LINEに金の話が混じり始める。「申し訳ないんだけど、財布無くなって手持ちがない。お金貸してくれるかな。もうお金ない」「今って振り込めるか」「4万でいい」。
連絡からほどなく、高野被告は4万円を振り込んだ。これをきっかけに、「スマホ代払えなくてとまるかも」など、理由を変えながら金の無心が続いた。
そして10月には「私の年齢でも借りられるところ調べてくれた?デリやらされるから」との連絡が。「え、それはきつい」「(返済)ムリと言ったらデリって言われた。姉が売掛してたみたい」「36あれば大丈夫?どうかな」「うん、売掛はね」「本当に最後になるけどいい?」「あいりがチューしてくれるなら」「え、なにそれ」「このタイミングなら言えるかと。かすね」「たのみます」。
貸したお金は2カ月で250万円以上に
親密な関係を維持するため高野被告は、金を工面し続けた。「(お金なくて)あいりの名前でお金借りたいけど借りられない。名前を貸して」「いくら借りたい?」「50以上借りたい」「それはやばいな」「こんな感じ」。
高野被告は、消費者金融からも借りるよう求められるようになった。「おれ仕事してないから借りれないかも」「49万?」「多分50万」「もうちょいほし」。
佐藤さんへの貸し付けは、2カ月で合わせて254万4800円にのぼった。「いけたわ50万。返済宜しく」「うん」「残りも送金行ける?」「40万入れとくね」。佐藤さんは「すぐ返す」と伝え、一度だけ3万円を返済した。
しかし、それ以降、貸した金が戻ることはなかった。「お金返してくださいお願いします」「振り込んでみるわ」「いつ? もうお金返す気があるの?」「ごめん」。その後、返済を求めても返信はなくなった。立場は、完全に逆転していた。そして、「あいり」「助けて」と、いつの間にか、高野被告が佐藤さんにすがるようになっていた。
高野被告は2023年、貸金の返還を求めて民事裁判を起こした。就労支援で職に就き、警察にも、法テラスにも相談。裁判所は、佐藤さんに金を支払うよう命じた。しかし、差し押さえた口座の残高は約160円と、ほとんどなかった。「稼ぎの多くは事務所に入り手元に残るお金は無く、財産は無い」(佐藤さん)。
一方、佐藤さんは、交際していた男性との結婚をSNSで公表していた。判決によれば、婚約者とともに、“収入を隠すような行動”も取っていたという。貸した金が戻る望みは完全に断たれた。報われない絶望が、高野被告をのみ込んでいったのか。のちに、判決もこの経緯には「相応に同情の余地がある」と述べる。
このころ高野被告は、知人BさんにLINEを送っている。「お金を返してもらうのは、ほぼ諦めている。復讐だけしたい方向になっている。お金の問題を世間にさらしたい。裁判沙汰にしたいと思った」(公判から)。恋は、憎しみに変わっていた。
その2日後、被告は通販で、のちに凶器となるナイフを1本購入。もう1本のナイフは、前年の12月に購入していた。「あいつには苦しんでほしい」(知人BさんへのLINE)。
犯行の前夜、高野被告は1本の配信告知を見る。そこで佐藤さんから“明日、山手線1周”と発表されたことから、翌日の犯行を決意したとされる。
生配信のカメラを向け「まだ動くんだ」「死んでますかね」
そして3月11日早朝、高野被告は栃木の自宅を出て、電車で東京へ向かった。凶器はナイフ2本。刃体の長さは約12.6センチと、約15.6センチだった。
午前8時30分ごろ、佐藤さんの生配信が始まった。高野被告は、その配信を見ながら移動。「高田馬場に行きたいと思う」のような、画面の中の言葉や風景を手掛かりに、佐藤さんの居場所を絞っていった。
午前9時51分ごろ。高野被告は配信中の佐藤さんを発見する。正面から体当たりし、腹部をナイフで刺した。倒れた佐藤さんの顔や首、胸、腹などを少なくとも55回。ためらうことなくナイフを振り下ろした。
さらに高野被告は、地面に落ちた配信用のスマートフォンを拾い、「まだ動くんだ」「死んでますかね」などと言いつつ、佐藤さんの顔をアップで映した。血だらけの佐藤さんの姿はそのまま生配信され続けた。
高野被告は、駆けつけた警察官に現行犯逮捕された。「配信者だから、顔を傷つけてやればいいんじゃないかと思った」「顔を傷つけるつもりで、殺すつもりはなかった」(高野被告)。
しかし裁判所は、この主張を退けた。「転倒した被害者の上から、ためらうことなく50回以上も刺しており、確実に殺す行動を取っている」(裁判長)。
高野被告とはどんな人物だったのか。大学を中退後、仕事をしていたが、職場での人間関係がうまくいかずにやめた。その際、統合失調症と診断された。障害者手帳を持っており、国から月およそ7万円の支給を受けて生活していた。
逮捕後には、およそ2カ月間の鑑定留置が行われた。結果は、刑事責任を問うことができるというものだった。高野被告は「やってしまったことは許されないことで、被害者と家族には申し訳なく思います」と供述した。
地裁判決は「非常に悪い」が「同情の余地」も
弁護側は、高野被告には自閉スペクトラム症(ASD)の特性があったと主張。相手の気持ちを感じ取りにくいという特性が、55回にも及ぶ刺突につながったとして、懲役9年を求めた。さらに、貯金約450万円を失い、消費者金融の返済にも追われていたことを指摘。金だけでなく、被告の尊厳まで奪われたと訴えた。
初公判では、母親の供述調書も読み上げられた。佐藤さんは、シングルマザーとなり、母子育児支援施設で暮らした時期もあったという。やがて連絡は途絶えたが、配信を見て母は娘が生きていることを知った。「山形駅で配信しているのを見て、行ってつかまえた。借金の話をすると『もう終わったから大丈夫』と」(母親の供述調書)。
その1年後、娘は配信の最中に命を奪われた。母親は、お金については高野被告に詫びた上で、法廷でこう訴えた。「一生許すことができません。厳しい処罰を求めます」。
東京地裁は、ASDの特性がなかったとしても、怒りが爆発し、歯止めがきかなくなることはあると指摘。犯行については、「非常に悪い」と厳しく非難した。その一方で、金をめぐる一連の経緯には、「相応に同情の余地がある」とした。
執拗で残虐な犯行。そして、長期間にわたる金銭トラブル。裁判所は双方を考慮し、高野被告に懲役16年を言い渡した(求刑:懲役20年)。
「まじめで穏やかな側面に付け込まれないよう相談できる環境が整い、活用できるようになることを期待する」(裁判長)
画面越しの出会いから始まり、恋愛感情と金銭が絡み合った末に起きた事件。高野被告が訴えようとした金の問題は、1人の命を奪うことで取り返しのつかない犯罪へと変わった。残されたのは、返されなかった金と、二度と戻らない命だった。
(『ABEMA的ニュースショー』より)