SNS上に「夢を諦めて生きる意味がなくなった」「夢なんて持つんじゃなかった」という声が多く見られている。夢を追い続ける中で精神的に追い詰められ、自殺未遂に至った人もいる。学校教育からヒット曲まで、夢を持つことは素晴らしいと語られ続けてきたが、その裏には生々しい現実がある。『ABEMA Prime』では、夢を追うことが人生にもたらすリスクと、それでも夢は必要なのかについて考えた。
■小説家を夢見て100作品、自殺未遂を経て10年の引きこもりへ

40代の湊うさみんさんは、高校卒業後に専門学校でシナリオを学び、3カ月に1作のペースで小説を書いては新人賞に応募し続けた。その数は10年間でおよそ100作品。しかしデビューはおろか受賞歴すらないまま30歳を迎えた。
夢を追い始めたきっかけについて、湊さんは「文章を書くのが好きなのと、人が怖いのもあって、人と接することなく文章を書いて暮らしていけるものはないかと考えたときに、小説家になろうと思った」と語る。
しかし、精神を安定させるための薬を飲みながら作品を書き続けた末、30歳という節目に「年齢的に厳しいか」と感じた。就職活動もうまくいかず、自殺未遂という事態にまで至った。その後は精神疾患を抱え、現在も10年以上にわたる引きこもりの生活が続いているという。
それでも、湊さんは夢を追ったこと自体を後悔しているわけではないと話す。「もう一度人生があったとしても、また夢を追いかけると思う。夢を追いかけたこと自体に、あまり後悔はない」と述べる一方で、「夢は人を殺します」という言葉も口にした。
■夢を追う人たちを取材してきた研究者が指摘するセーフティネットの不在

およそ10年にわたってバンドマンを取材し、夢が人生にもたらす影響を研究してきた秋田大学講師の野村駿氏は、湊さんのケースについて「メンタルを崩してやめられるというケースは私の調査でもかなり見られた。夢を考える上では重要なポイントだ」と述べる。
野村氏が指摘するのは、夢を追う過程で「普通」とされる働き方から離れていく葛藤だ。「夢が次から次へと変わっていって、結局そこに追いつかず、常に更新されていく。叶わないのが前提というか、その過程でだんだん『普通』とされている、それこそ正社員といった働き方から離れていくところの葛藤をどう調整するかが問題だ」と説明する。
そのうえで野村氏は、夢を追った後のセーフティネットの欠如を問題視する。「夢を追うという個人の選択は大事だと思うが、追った後のセーフティネットのなさはしっかり考えていかないといけない。夢を追うことは素晴らしいとドラマや映画で語られる中で、実際に夢を追っている人の一定数が苦しんでいたり、その先に進めない状況にあるなら、キャリア支援のような形で社会的に準備していくことが別途必要だ」と訴える。海外では労働市場の流動性が高い分、セーフティネットもある程度整っているとも指摘した。
番組では、夢との向き合い方についてさまざまな立場から意見が交わされた。
政治ジャーナリスト・岩田明子氏は「夢が常に叶わなかった人間」だと自らを振り返る。医師を目指すも高校2年の夏に文系に変え、弁護士を目指して司法試験に挑んだが受からず、さらに婚約も破棄された。NHK入社時もディレクター志望だったが記者に、希望の社会部配属を望んだが政治部だったという。「その都度(心が)バキッバキッと折れる」としながらも、「パッと夢を変える癖があって、『じゃあ今度はこれだ』という風に歩き出す」ことでなんとかつないできたと語る。挫折を経たことで「いろいろな人を知ることができたし、こういう苦しみがあるんだという引き出しができた。今の職業に結局合っていたかなと思っている」とも述べた。
パックンは「小さな夢を毎日叶えている」という感覚を大切にしていると話す。「大きな夢を見ながら、小さな毎日のプロセスを楽しむのが生き甲斐だ。夢が叶わなかったとしても、今日は一生懸命作文した、一生懸命人の話を聞いて考えたという、一生懸命取り組んでいる自分が好きであれば、毎日少しずつ夢が叶っているかなと思うタイプだ」と語る。
EXIT・兼近大樹は、夢を「宗教」に例えてこう語る。「どうしようもない人生に、何かすがるもの、祈るものとして夢を持つことが必要だ。だから何にもない人こそ夢は持った方がいい。何にもない人は夢ぐらい持っておけば生きている意味になる」。
また、湊さんの100作品という事実に「すごいとしか思わない。確実にできることを、小説家とちょっとずれたところでも活かせる」とエールを送った。
野村氏は最後に、「自己責任をどこまで自己責任とみなすかもしっかり考えないといけない。夢を追うという生き方の中で一定数漏れ落ちてしまう人たちが出るのであれば、何かしらの社会的なセーフティネットは必要だ」と改めて提言した。 (『ABEMA Prime』より)