いまネット上で、栃木県・鬼怒川温泉の廃墟ホテルに描かれた巨大な壁画が話題になっている。
落書きにも見えるこの壁画だが、ネットでは「どうやって描いたんだ?」「人間業じゃない」「スパイダーマンの仕業?」との声が出ている。
7〜8階の高さに“落書き”出現
一体、どういうことなのか。ABEMA的ニュースショーは鬼怒川に向かった。現地を訪れたディレクターは「すごい迫力。ビルの3階分くらいの大きさで描かれていて、縦は10mくらいあるのでは」とリポートする。
さらに、現場から700mほど離れたつり橋の上からも見え、「これだけ距離があっても、かなり大きな壁画が描かれているのがはっきりと分かる」。驚くのは、その大きさだけではない。描かれた場所だ。建物の7〜8階部分にあたり、「どうやって描いた」と謎になっているのだ。
近隣住民に取材すると、この壁画は2026年3月ごろに突如出現。しかし、描いている姿を目撃した人はいなかった。
かつてにぎわった温泉街だが、今は巨大な廃ホテルが点在する。問題のホテルは、2008年に閉館。日光市役所に問い合わせたところ、ホテルの所有者はいるが、連絡が取れない状態が続いているという。
高所作業のプロが感じた“疑問”
所有者に無断で描かれたものであれば、犯罪行為にあたる可能性がある。一体、この巨大な壁画は、誰がどうやって、この場所に描いたのか。4人の“賢者”たちに推理してもらった。
「屋上からロープを垂らしてぶら下がったんだと思う」と推測するのは、橋や高層ビルなど足場のない高所で作業を行う、ロープアクセスのプロフェッショナルである「特殊高所技術」取締役の川村裕也氏だ。
「ぶら下がること自体に、大きな音を出すとかはない。一番目立たないかなとは思う。ただ、(ロープ1本だと)左右に振ることはできるが、振った先に留まっておくことは、振り子運動になるため無理だ」
川村氏らが行う手法は「ロープをもう1本垂らしておく。何本か垂らしておけばV字になるため、左を引っ張れば左に行き、右を引っ張れば右に行く。振った先にもう1本ロープがあり、そちらに引っ張られるため、振った先にとどまれる」といったもので、「多分そうしている」と予想する。
しかし「ちょっと1点疑問に思ったのが、ロープにぶら下がっているということは、壁にひっついている状態。離れて見ることができない。これだけきれいに描こうと思ったら、ちょっと近すぎて、遠くから1回見ないと分からないと思う。『よく描いたなぁ』という印象はある」とも語る。
「許可あり」と「無許可」の違い
2人目の賢者は、全国で大型壁画を手がける一方、海外のグラフィティ文化にも詳しい、WALLSHARE代表取締役の川添孝信氏だ。「ロープで降りてきて、描いているとなると、かなりグラフィティの経験もある人でないと、できないんじゃないかと推測した」。
川添氏は普段、建物の所有者などの許可を得て、壁画を制作する「ミューラルアート」を手がけている。今回の壁画は、無許可で書かれた可能性が高いと指摘。
「(ミューラルは」合法だから時間をかけられるし、非合法だと時間をかけずに描くことが重要とされるのが、グラフティ(無許可)とミューラル(許可あり)の違いかな」
「ミューラルは時間をかけて描けるため、色の数が多かったり、細かい部分まで描かれていたりする。グラフィティの多くはスプレーだと思う。すぐ乾き、圧倒的に早い」
「10分あればいける」
「時間をかければかけるほどリスクにはなるため、下手したら10分とかかもしれない」と話すのは、無許可で描かれる壁画事情に詳しい現役アーティストのM氏。顔と声を加工するという条件で、取材に応じてくれた。
「人目がつきにくい夜とかに描いたんじゃないかなと思う。けっこう原始的。人それぞれだろうが、上からロープなのか、2、3人とかで上から引っ張ったり、ずらしたりして、体に巻いてやっている。複数ではないか。1人だと……上でロープをやる人も必要」
描くにあたっては「スピード勝負だと思う。ちゃんとした合法の案件であれば(制作に)時間が取れるため、離れたりとか確認しながらやると思うが、いかんせん非合法のため、体に染みついているまま描いちゃう感じ。確認なんて最後の最後だと思う。一気に描けるのなら、10分あればいけるんじゃないか」とも説明する。
元鑑識は“グリッド線”に着目
そして4人目の賢者として、「事前に計画を立てて、綿密な計画の上に描いている」と予想するのは、元京都府警・機動鑑識隊の隊長補佐を務めた矢山和宏氏。元警察の立場からは、どう見えるのか。
「写真を拡大して見ていくと、建物には等間隔の窓、壁も縦横に階層や区画割りみたいな線が入っている。それをグリッド線代わりにして、事前に図面を描いて、それを実際にロープで下りて、グリッド線に従って順次描いていっているのかなと思う」
その理由として、「上から下までが、ちゃんと統一されている。ゆがんだりしていない。やはり計画性がないと、きれいには描けないだろう」と話す矢山氏。グリッド線に着目したのは、鑑識時代の経験からだった。
「現場に行って、現場の図面を本部で起こしたりする。そういう時に必ず必要なのがグリッド線。目安になる縦横の基準みたいなものがあると描きやすい。大きな窓と、それを指標にした縦横の壁の線。これが目安になって、あの場所を選んだのかなと考えられる」
加えて、「下書きは基本的にはできないと思う。写真をパソコンに落として図面は作っていたと思う。でも実際現場でそれはできないため、グリッド線を基に描かれているということ」とも語る。
また、窓や壁の切れ目を「天然の下書き線」として利用する、緻密な計算があったと推測。「描いているところは見られたくないという深層心理があると思う。絶対バレないようにしたい。なので、あらかじめ綿密に計画を立てて描いている。それもなるべく短時間に描けるようにしていたのだろう」。
なぜバンクシーは「器物損壊ではない」と言われるのか
阪口采香弁護士は、無許可の場合、これらの行為は違法だと解説する。「廃墟とはいえ、誰かの所有物ではある。これに落書きをすると、器物損壊罪または建造物損壊罪。描くにあたって中に入ると、建造物侵入罪にもなる」。
「器物損壊になるかのポイントは、建物としての効用を害していないかどうか。建物自体の価値が上がったか下がったかも問題になる。仮に無許可でも素晴らしいアートが描かれたら、『建物としての価値が上がる』と判断される場合もある。バンクシーが器物損壊にならないと言われるのは、そういった理由だが、基本的に落書きは犯罪。絶対にしないでほしい」
(『ABEMA的ニュースショー』より)