強い不安から特定の行為を繰り返さずにいられなくなる精神疾患、「強迫性障害」。100人に1人から4人が経験するとされながら、周囲からは理解されにくく、当事者が孤立しがちな病だ。
【映像】強迫性障害の30代男性がトイレで“信じられない行動”をする様子(実際の映像)
『ABEMA Prime』では、強迫性障害の当事者と家族、専門家とともにこの病の実態と向き合い方について考えた。
■「わかってるのに止められない」二重の苦しさを抱える当事者

汚れへの不安から強迫性障害に悩むいつきさん(30代・男性)は、アパートの部屋にベッドを2つ置き、清潔ゾーンと汚染ゾーンを厳密に使い分けている。「お風呂で体を念入りに洗って、自分が納得いくまで洗ってやっと寝れる」と話す。洗濯物も頭が触れる部分は「汚いゾーン」として分類され、寝られないと判断した夜はソファベッドで眠る。トイレでは便座を上げるためだけに大量のトイレットペーパーを11回巻いて使い、1リットルの業務用アルコールを1週間で使い切るほどアルコール消毒も欠かせない。
一方で、洗面所やキッチンに生えた黒カビは「水が原因で発生したものだから自然に発生したもの。自分の中ではOK」と感覚的に判断しているといい、いわゆるキレイ好きとは異なる独自の基準が形成されている。
症状が明確に現れたのは大学3年生のころで、約10年前。悪化したのは大学卒業後に社会生活を始めた2年目ごろ。「シャワーを浴びて湯船の蓋に跳ね返った水が自分にかかったんじゃないかと思い始めてから、浴槽の壁を全部洗うようになってしまった」と振り返る。父親もキレイ好きな傾向があり、「幼いころからアイスのベタベタやトイレへの抵抗感が強かった」とも明かした。
精神科医の原井宏明氏は、強迫性障害の特徴について「自分自身がおかしなことをしている、異常なことをしている自覚があるのに止められない」と説明する。うつ病や統合失調症など他の精神疾患と異なり、自覚があることが大きな特徴だという。いつきさんも「なんでこんなことやってるんだろうと思うが、止められない。本当に疲れるし、生きてるのが辛いと思うこともある」と語る。
エアコンやコンセントの消し忘れ確認も同様で、「何回も消えてると確認して、わかっておかしいなと思って、最終的に写真を撮って後でその写真を見て確認する」。そうなったのは「写真だと間違いないと思った」と述べ、自分なりの対処法を編み出しながら日々をやり過ごしている現状を話した。
■「不安を抑えようとすると、かえってひどくさせていた」家族の巻き込みと悪循環

強迫性障害の夫と長年生活を共にしてきた美喜子さんは、夫の症状について「忘れ物確認がひどくて、飲食店で帰るたびに確認し続ける。店員さんから『何か忘れ物ですか』と声をかけられるほどで、私が恥ずかしくて喧嘩になっていた」と話す。車を運転中に突然「人を引いたかもしれない」と言い出すこともたびたびあり、結婚当初は「じゃあ見に行こう」と一緒に戻ったこともあった。「深夜に道路をライトで照らしながら二人で確認し、絶叫して大喧嘩になって帰った」。
夫は小学校2年生ごろから約50年間、強迫性障害と向き合ってきたが、美喜子さんと結婚した時点では改善していたため、「病気じゃない」と本人は主張していた。美喜子さんは薬を使わない治療を探したが、「ことごとく断られた」と振り返る。
原井氏のクリニックで行動療法を受けたことが転機となった。その際に「巻き込み」という概念を初めて知ったという。「当時は私が確認してあげたり、やめてと言えば解消されると思っていたが、それが巻き込みだと聞いた。私がひどくさせていた」。
原井氏も「不安を抑えようとしていると、かえって大変なことが起きる。不安を抑えると巻き込みが起き、もっと症状が増悪していく」と説明する。強迫行為は一種「量の病気」であり、「家の中に他の人がいる、場合によってはペットを入れる、外で人前にいる時間が長い方が症状は出にくい。一人でいると大抵悪化する」。
美喜子さん自身も、夫の強迫に毎日向き合う中で心が病んでしまい、「共依存のような関係性になってしまった」。そこから脱却するために自分なりに研究し行き着いた答えが「自分に集中すること」だった。「私の人生は夫に依存していたので、自分で生きることに集中した。距離感を取り直し、自分の人生を立て直そうと思った」。
また、強迫性障害の当事者のポジティブな側面にも言及した。「夫は確認マン。私がそそっかしくてミスをすると、すぐ見つけてくれる。定年間際でやっと監査の仕事が回ってきて、ものすごい適任。大工仕事をさせると1ミリの単位でピタッと合わせる。強迫の悪いところばかりに目を向けるのではなく、ものすごい天才性があると思っている。いいところをポジティブに捉えてあげることをずっとやってきた」。
■「元気になってからではなく、今日からやってみてほしい」治療と回復への道

原井氏は、強迫性障害の治療について、まず「休んで治る病気ではない」と強調する。「メンタル疾患イコール家で休んでストレスを避けなさいとの指導もあるが、この病気にはあてはまらない。できるだけ休ませないようにしている」。
いつきさんのように一人暮らしで症状が悪化しているケースについては、「まず外に出られるようにする。本人なりのマイルールが形成されてしまっているので、まずルールを少しずつ壊していく。ルールを壊す理由が必要なので、人と会ってみる、仕事を探すためならこのルールは壊せそうだ、というところからメリットが出るようにしていく」と治療の方向性を示した。
また、完全に治そうとすること自体が強迫になってしまうケースもあると指摘する。「ゼロか100かの思考が小さいころからついていて、完全に直したいことが強迫的になっている方もいる。それで追い詰めてしまう」。
最後に、原井氏はいつきさんに向けて「よくあるのは『元気になってからします』『後からやります』とおっしゃる方がいる。せっかく今日おっしゃっていただいたので、今日からでも、明日からでもやってみてほしい」と語りかけた。
(『ABEMA Prime』より)