社会

ABEMA TIMES

2026年8月19日 11:00

限界集落の生き残り策なのに…シャインマスカット大量窃盗 「日本は盗まれない」前提が崩壊の現実

限界集落の生き残り策なのに…シャインマスカット大量窃盗 「日本は盗まれない」前提が崩壊の現実
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 「シャインマスカット」の盗難が相次いでいる。被害を受けた、ぶどう農家の水野竜完さん(49)を取材した。

【映像】シャインマスカット盗難被害にあった農園(直後の様子)

 岡山県久米南町、人口約4000人。日照時間が長く寒暖差があることから、ぶどうの栽培が盛んで、シャインマスカットやピオーネは町の代名詞となっている。

 そんな山あいの小さな町が、「第2の人生、始めませんか」と外の人を求めている。理由は、町の高齢化が進み、耕作放棄地が増えたから。畑を貸し、技術を教え、家賃も奨励金も出す。

ビニールハウス初年度に…

 その言葉に応えた1人が、水野さんだ。大阪から移り住んで5年、派遣の仕事などをしていて、農業の経験はゼロだった。「2020年、コロナが一番ひどい時で、当時の仕事もあんまりうまくいかなくて、知り合いに紹介してもらって、いろいろ話を聞いていたら、農業なんて今まで全くやったことなかったけど、1回やってみてもいいかって」。

 移住して1年目は、よその農園で修行。2年目から畑を借り、シャインマスカットの栽培に挑んだ。「房の状態を見て間引いていって、最終的にどういう形になるかイメージしながら粒を落とす。収穫の時はそういうワクワク感とか、ちゃんとできているかなとか。そういう楽しみがある」。

 これまで露地栽培でぶどうを育てていた水野さんは、今年初めてビニールハウスに挑戦。異変に気づいたのは、収穫しようとハウスに入った朝だった。「ここで盗られた、今年は。2年前も別の畑ですけど、同じように盗難の被害に遭って」「これが収穫した跡。こういう感じで、軸を残して切って収穫するが、盗られているところは残す軸の長さが全然違う。これが端から端までずっと盗られていた」。盗まれたのは400〜500房、被害は60万円以上だった。

被害届は「何百房も盗られるようになって」から

 久米南ぶどう部会の大山正紀部会長は「(窃盗が)3年くらい前から増えてきた。少しだけ盗られても農家もわからない。大胆に何百房も盗られるようになって、警察に被害届を出すようになった」と振り返る。

 3年前から窃盗被害に苦しんでいた久米南町のぶどう農家たちだったが、2026年8月、ついに容疑者がつかまった。窃盗の疑いで逮捕されたのは、倉敷市に住む無職の男(42)。7月17日から18日にかけて、ビニールハウスからシャインマスカット約200房、40万円相当を盗んだ疑いだった。男は「ネットで売って生活費にしていた」と、ほのめかしているという。

 窃盗にあった農園の関係者は「収穫のやり方はビニール袋に入れて雑かなと思った。箱に入れて、そこは丁寧にやるんだな」とコメントする。

 盗るときは雑に、売るときは丁寧に。ただし、今回の容疑者と、水野さんの畑を荒らした人物との関係はわかっていない。

全国各地で高級フルーツの盗難、“盗まれない”という前提

 果物の窃盗は各地で相次いでいる。8月5日、栃木・佐野市で400房、13日に栃木市では200房のシャインマスカットが立て続けに盗まれた。7月には、福岡・うきは市でブランド梨5000個が盗まれる被害もあった。

 さかのぼると、高級フルーツの窃盗被害は7月から8月ごろに多発。お盆のお供え、贈答を見込んだのか。出荷がピークになる直前のタイミングだった。盗まれたら最後、それが誰の畑のものだったかわからない。高く売れて、足がつかない。それが果物窃盗の実態だ。

 日本の畑は長い間、盗まれないという前提の上にあった。だから鍵もかけてこなかった。その前提がいま崩れ始めている。さらに、この町が直面している危機は他にも。久米南町の住民は44.9%が高齢者(2020年)で、25年後には人口が2000人台まで減るとされている。

「生き残り大作戦」としての農業移住

 かつて畑だった土地は作る人がいなくなり、木と草に覆われた「荒廃農地」になりつつある。

 大山会長は「限界集落の生き残り大作戦。20年前から地区の人と計画を立てて、ぶどう栽培をしに来てもらって地区を盛り上げようと」と意気込む。

 ぶどうは町が生き抜く最後の砦。久米南ぶどう部会によれば今、ぶどう農家は41人。そのうち36人が移住者だという。

 警備会社に勤めていた山田剛史さんが選んだのも、この町だった。「研修生で来たとき、最初にハウスの中にぶら下がっているぶどうを見たときに、僕がやりたいのはこれだなと思った。目に入ったときは輝いていました」。

 家族との時間も大切にしたいと、農業への転職を妻に相談。5年かけ説得したという。「農家のところで1〜2年間、研修生という形でぶどう栽培を1から教えていただいて、栽培に関すること、それから経営に関すること、もちろん農機具の使用方法。新規就農者を受け入れる体制が出来上がっているのが魅力。途中で辞めた方は今のところはいない、皆さんも独立で、ぶどうで生計を立てて成功している」。

“ライバル”だけれど、頼り合える存在

 2008年に新規就農者の受け入れを始めて以降、離脱した移住者はゼロだ。

 山田さんは「農家同士だとライバルみたいなところもあるので、聞きづらかったり、頼りづらかったりすると思う。久米南町山手地区に関しては全くそういうところはなくて、『これどうするの?』『袋がたりない、ちょっとちょうだい』とか、『いいよ』って快く(協力してくれる)」と、町の良さを語る。

「(窃盗事件を)聞いた時には、盗難にあった農家の方にすぐ電話をした。電話をして励ますことはできないかなとは思うが、気付けば電話していて、『大丈夫?』と。今回の事件は、悔しさもあり、悲しさもあり。こういうことは二度と起きてほしくない」

 シャインマスカットは、農林水産省の試験場が約20年の歳月をかけて生み出した、メイドインジャパンの品種。栽培も繊細で、花が咲いたら薬に浸けて、種をなくす。実がつきすぎた房は落とす。1房ずつハサミを入れ、最終的に残すのは45粒ほどだ。

 被害に遭った農園の関係者は、「見た目が大事で1房あたり粒数が決まっているので、粒を落としたりする作業が一番時間かかる」と話す。そのあとは、粒の並びを整え、袋をかけ、色がのり、実が熟すのを待つ。

被害は売上だけでなく…

 苗を植えてから、安定したお金になるまで約5年。初期費用は数百万円かかるという。

 水野さんによると、「1時間くらいで、今回取られた房数なら収穫できてしまう。1人でも」という。時間をかけたハサミの苦労を簡単に盗んだ罪は重い。報道を見てこみ上げたのは怒りだった。

「(押収品に)黒いビニール袋が写っていた。たぶん(ぶどうを)あれに入れて、ガサガサと持っていったのだと思う。盗むのもどうかと思うが、雑に入れて持って帰るのも、嫌な気分になった。盗むならきれいに盗んでよ。売上が減るというのもあるが、パートさんやアルバイトさんなど、たくさんの方が携わってくれた。一生懸命やってくれましたし、『いいブドウができるといいね』と言いながら作業したので、その人たちの思いを考えると、お金よりもそっちの方が腹が立つ。申し訳ない気持ちもあるし…」。

 水野さんは2年前、窃盗被害に遭った露地栽培の畑に、防犯カメラを設置した。

「露地は囲いがないので入りたい放題。これから露地栽培ものの収穫が始まるので、防犯カメラはつけないといけないだろうが、それ以外に方法があるなら逆に教えて欲しいくらい」

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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