長野県の大桑村にある「阿寺渓谷」。東京から行くと4時間以上かかる場所ですが、今ここに多くの外国人観光客が訪れています。
地元住民「魅力ない」
東京駅から新幹線と特急、そして各駅停車を乗り継ぎ、約4時間。長野県の南西部に位置する大桑村。96%を森林が占め、豊かな水をたたえた木曽川が村の中央を流れます。
駅前の住宅街に人影はなく、村の駅舎には夏の強い日差しとセミの声だけが降り注ぎます。
「まもなく列車が参ります。ご注意下さい」
野尻駅に電車が来ましたが、止まらず過ぎて行きます。その後も列車は止まらず、通過するばかり。朝と夕方は1時間に1本停車しますが、ほとんどの時間は2時間に1本ほどしか止まりません。
地元の人に大桑村の魅力を聞いてみると、このような声が聞かれました。
「(魅力は)ないんじゃないかな。大桑村は、クマさんとか、おサルさんとか、こういうのがいっぱいおる」
そんな山村の駅に、外国人観光客の姿が。
「フランス」
「ベルギーからです」
「今はインバウンドのお客さんが結構来て。外国人は多いです」
ここ数年、外国人観光客が急増しているといいます。そのお目当てが、深い森に抱かれてひっそりとたたずむ阿寺渓谷。木曽の山々を縫うように、約15キロにわたって清流・阿寺川が流れます。
訪れる人が、まず目を奪われるのが澄んだ水。川底の石の形はもちろん、泳ぐ魚の模様まではっきりとわかるほどの透明度を誇ります。
その秘密は渓谷の地質にあります。渓谷を形作るのは、花こう岩などの硬い岩盤。雨が降っても崩れにくいため、水を濁らせる土砂や細かな粒子が流れ出しにくいのです。
「ある程度の透明だと思っていたけど、想像以上で驚いたよ。これだけ澄んだ川の水を私たち見たことがない。本当に気に入ったよ」
「この川が大好きになったよ」
「リラックスできて、静かでデトックスされます」
秘境が生んだ奇跡の青
名所の一つ「狸ヶ淵」。名前の由来はその昔、タヌキが化けた自分の姿を川面に映し、出来栄えを確かめたという伝説です。その伝説を今に伝えるように、鏡のような水面には木々の緑が鮮やかに映し出されています。
その美しい渓谷の評判を聞き、やって来たフランスからの若者たち。
「ここにあるよ!ここまで行かなきゃ」
彼らが目指していたのは、渓谷の入り口から約5キロ先のポイント。徒歩で2時間ほどかかる場所です。
「私たち全員“秘境”が大好きなんだ。誰も知らないようなね」
渓谷の入り口から歩き始めて約2時間。
「キレイネ」
「目的地だよ」
「レッツゴー」
「アメージング」
渓谷随一の深さと言われる「牛ヶ淵」。深い水が光を吸収し、阿寺ブルーと呼ばれる神秘的な青が生まれます。その色は光の加減により、深い青やエメラルドグリーンに刻々と変化。澄みきった水と豊かな緑が織りなす、秘境が生んだ奇跡の青です。
「この水はここだけの色ですね。これまでに見たことのない色だ!」
「極寒」の水温
この渓谷は美しさに加え、涼しさももたらしています。
「めっちゃ涼しいです」
「山梨が暑くて」
「避暑地で。ちょっと涼しいとこ行こうと」
「(Q.ここと上(渓谷)と気温違います?)違いますよね。違います。上(渓谷)の方が涼しくて戻ってきたら、またこんな暑かったっていう感じです」
取材当日、河口付近の気温は33℃でしたが、この日の水温は15℃ということで…。
「(川の)中に入ったら“極寒”ですよ。きょうは」
「(Q.極寒?)やばいみたいな」
なぜ外国人急増?
その涼しさもあってか、記録的な熱波が襲ったフランスからの家族も訪れていました。
元々この渓谷を訪れる予定はありませんでしたが、前日に泊まったホテルで勧められ、訪れたといいます。
「(暑さは)東京に比べればマシよ。 3日間東京に居たんだけど、とても暑かったわ」
「この川は特別に美しいわ。こういう川はフランスにはないですね」
泳ぐ場所を探して30分。河原に降りられる道を見つけ、ついに念願の川へ。
川に足をつけると…。
「とても良いね」
家族全員、ご満悦です。
「ここを見つけられて本当に良かった」
「(Q.帰国したらこの渓谷をオススメしますか?)もちろん自慢するわ。本当にオススメね」
「ダメ、ダメ!私たちは秘密にしておきます」
「人がたくさん来ちゃダメね!人でいっぱいになっちゃうわ」
実際、阿寺渓谷を訪れる外国人は、ここ数年で急増しています。
「明らかに去年よりも増えています。多分この7月末までの様子見ると(去年より)倍にはなっています」
なぜ、これほど外国人が増えているのでしょうか。
外国人の間で、この秘境の渓谷が口コミで広がっているということです。
渓谷の近くで30年にわたり、そば店を営む林ちかゑさんも、今、変化を実感しています。
大人気「サムライロード」
阿寺渓谷が外国人の目にとまりやすい背景の一つが、隣町の南木曽町にありました。こちらも90%以上を山林が占める町ですが、その山の中に外国人の姿が見えます。
外国人の姿はさらに。
「彼女はスウェーデン。私はドイツ」
「スウェーデン」
山道を歩くのは外国人ばかり。道沿いの休憩所には、次から次へと外国人がやって来ます。
「外国の方がこの季節だと80%以上なんですけども、きょうは(日本人が)3、4人。90%が外国人」
なぜ外国人がこの山道をこぞって歩くのでしょうか。
「サムライロード」
「サムライロード」
江戸と京都を結んだ五街道の一つ「中山道」。江戸時代には多くの旅人が行き交いました。
中でも岐阜県の「馬籠宿」と長野県の「妻籠宿」を結ぶ、約9キロの山道をイギリスの公共放送BBCが歴史とともに紹介。欧米の旅行者の間で人気に火がつきました。
2025年度は6万5000人を超える外国人が訪れ、統計を開始した16年前と比べ、約11倍に。侍が歩いた時代から長い時を経て、今や世界中の旅人が歩く人気の道になりました。
江戸時代の宿場「贈り物」
サムライロードの中ほどには、無料の休憩所も。建物は江戸時代から茶屋として使われてきたもので、ボランティアがお茶やあめを無料で提供しています。
「歴史のにおいがするわ」
「江戸時代の建物の中に外国人の旅行者がいるのは不思議ですね」
日によってはボランティアが民謡を披露したり、地元でとれた野菜を振る舞ったりして、世界中からの旅人をもてなしています。
このサムライロードには、かつて侍や旅人たちが体を休めたであろう滝もあります。
「この滝はすごく印象的だね、本当に美しい場所だ」
「夏なのに、このように実際に水の流れる滝があるなんて。スペインでは冬には見られますが夏にはありません。心が洗われますね」
気温を測ると26℃。まさに天然のクーラーです。
そして、ゴールの妻籠宿は江戸時代の宿場の街並みが残り、心を奪われる外国人も多いのです。
「わお…本当に特別な町ですね。侍の雰囲気を本当に感じます」
「タイムスリップしたみたいですね」
「そうね、なんて言ったらいいかしら。日本に来てこういう経験をするのが夢でした。人類の歴史を再び体験しているみたいです。これは100%贈り物です」
(2026年8月25日放送分より)

















