2024年8月、千葉県いすみ市の住宅で89歳の女性が殺害された事件で、警察は被害者の54歳の長女を母親の首を絞めて殺害した疑いで逮捕した。容疑者の女は犯行を否認しているが、捜査の過程でひとつの事実が浮上した。
【映像】もらった投げ銭の総額“およそ10億円”人気ゲイバーのママ
捜査関係者への取材によると、容疑者の女は母親の口座から多額の現金を引き出し、およそ3300万円を動画配信者などへの投げ銭に使っていたという。犯行時には母親の口座に現金はほとんどなく、相続で得た金や自身の生命保険の解約金も投げ銭に充てていたとされる。警察は殺人に至った動機につながる可能性があるとみて捜査を続けている。
なぜ人は”推し”に過剰ともいえる投げ銭をしてしまうのか、そこに規制は必要なのか。そして投げ銭を受ける側はどのようにそれを受け止めているのか。『ABEMA Prime』では、投げ銭する側・される側の当事者、投げ銭依存の患者の診察を行う精神科医とともに考えた。
■高級外車1台分をつぎ込み後悔「抜けることができなかった」

かつて男性ライバーの配信にのめり込み収入を超える金額を投げ銭に費やした森メリアさんは、「金額としては高級外車が1台買えてしまうほどのとんでもない金額をつぎ込んでしまった」と打ち明ける。もともとYouTuberだった配信者が配信専用アプリで生配信を始めたことをきっかけに、「軽い気持ちで(配信へ)遊びに行ったところ、どんどん引き返せないところまで行ってしまった」という。
なぜ投げ銭にのめりこんでいったのか。森さんは「ファンが少ない配信者だったので、リスナー同士で『私たちの推しを押し上げなきゃいけない』という集団心理に陥ってしまい、そこから抜けられなくなっていった」と振り返る。一般的に想像されるような「推しからの『ありがとう』や『好きだよ』というリアクションが嬉しくてはまる」という動機とは異なり、集団心理の圧力がエスカレートの背景にあったと語った。
途中でやめようと思わなかったのか、という問いに対しては「最初の段階から普通じゃないと思っていて、早々にやめなきゃいけないと思っていた」と明かす。しかし、「応援が少ないと推しの方が不機嫌になって泣いたり怒ったり配信を止めたりというパフォーマンスをするので、ファン同士の中で『投げれる人で投げていこう』という雰囲気になっていた。今思えば(ファンのコミュニティを)抜ければよかったと思うが、抜けることができなかった」と語る。また現在は当時の投げ銭について「後悔している」と話した。
こうした事例について、早稲田メンタルクリニック院長の益田裕介氏は「殺人事件まで発展しなくても、診察場面で『実は投げ銭をしていた』とか、『お金を使いすぎて家族で暴力沙汰になった』という話を聞くことはよくある」と述べ、症例として珍しくないことを指摘する。「辞めたくても辞められない、という話は結構ある。軽い洗脳のような状態で、孤立している人がはまっていく。密室空間の中で『それ(投げ銭)しかない』という状態になり、自己肯定感が低かったり孤独で寂しかったりする人が相手を理想化していく。自分がダメだと思えば思うほど、そっちを輝かせなきゃいけないという感覚になってしまう」と分析する。
大物マダムタレントのアレン様は投げ銭について「実態のないものにお金を使うということは人生で経験がなく、対価が欲しい自分には分からない。ライバーの場合、提供しているものが配信になってしまうから、言葉を求めるとかコメントを求めるとかになって、(投げ銭する側の)満足度が永遠に終わらないのではないか」と指摘する。森さん自身も「チケット代と見せていただくものが釣り合っているアーティストのライブとは異なり、かけた額に対して返してくれる言葉の厚みはやはり見合っていなかったと思う」と振り返る。
■「やったことある人にしか分からない」投げ銭を受け取る側の本音

投げ銭を“受ける側”として番組に出演したのは、5年間でリスナーから投じられた投げ銭の総額がおよそ10億円にのぼるという、新宿2丁目のゲイバーのママ・なーりーママ。配信と投げ銭文化については「自分の人生を切り売りしていって、ライブ配信で生物(なまもの)として、その時の感情や自分の立ち位置、人生を一緒に共有しているという感覚なんですけど、本当に投げたことある人とか本気で応援したことがある人じゃないと説明してもわかってくれない」「投げたから何かもらえるというわけでもない。その時間とか私との関係性をお金で買っていただいているという感じ」と表現した。
自身の配信の内容については「新宿2丁目でお店をやっていて、コロナ禍でお店に人が来られなくなった中で配信を始めた。くっちゃべっているだけ」としながらも、「何者でもないので何者かになりたいと思ってライバーになった。ライブをやることによってちょっとずつ露出が増えたり、有名な人とコラボできたりして、私がちょっとずつ夢になっていく。その夢を一緒に(視聴者と)共有しているという感覚がある」と説明する。
投げ銭を“煽る”ようなことはしたかと問われると、なーりーママは「してます」と即答。「新宿2丁目という名前を使ってやっているので、オネエタレントの真似をしてツンデレキャラをやってみたり、ツンツンしてみたりというのを一つのエンタメとしてやっている。それを煽るといえば煽りになってしまうけれど、それも含めて楽しんで選んでくださっている方もいる。そこで一つのコンテンツとしてエンタメが生まれているという事実があるから投げ銭が飛んでいると思う」と語った。
益田氏はこうした構造について、「“詐欺にならない言葉”をみんなが知っているということ。ライバーがその抜け目を狙って煽るから、結局自己責任論になってしまう」と指摘した。これを受け、リディラバ代表の安部敏樹氏は「規制しないと、うまくやればいっぱい金を出すという人にだけターゲティングしていくことになり、遺伝子的に、あるいは環境的に寂しくてお金をどうしても使ってしまうような人たち向けのサービスにどんどん進化していく」と懸念を示した。さらに衆議院議員の門ひろこ氏もそうした状況に対して「歯止めがない」のが現状だと指摘した。
ラッパーの呂布カルマは「好きなことにはまってお金を使ったというだけの話」とした上で、投げ銭をしている人すべてが問題を抱えているわけではないと指摘。「例えば水商売や飲み屋にはまるのと、根本的な構造は変わらないのでは」と述べ、投げ銭だけを特殊な問題として捉えることに疑問を呈した。
■「人類が初めて遭遇した依存行為」――ルールメイキングはどうあるべきか

益田氏は投げ銭について「人類が初めて遭遇した行為であり、おそらく依存を生むものだと思う。ただ、どう規制したらいいかが国内外でまだわかっていない」と現状を分析。「依存症というのは全員がなるものではないが、なる人が一定数いて、社会秩序を壊し得るほど強力なものだ。遺伝子的にハマりやすい人がいて、本人の意思が弱いということではない。ギャンブルがそうであるように、投げ銭についても同様のことが起きているのではないか」と私見を述べた。
現在、YouTubeやTikTokなどではプラットフォーム側の自己規制として上限額などの仕組みがすでに存在している。安部氏は「公的な規制と自主規制の両面があるが、業界として行き過ぎる前に自主規制するというのがスタンダードになると思う。大きなプラットフォームはそれほど多くないので、金額を大幅に制限すれば、毎月何百万円もつぎ込むという状況には構造的につながりにくくなるのではないか」と提言する。
門氏は政治的観点から「そもそもどういう主体にお金が行っているのかが不透明で、反社会勢力への資金流入も懸念される。本人確認などの法的な枠組みが整っておらず、法規制が全く追いついていない。一定の自由を担保することも重要で、依存症対策だけで金額規制以上のことが政府にできるかは難しいが、何らかの政治的関与が必要になる場面はあると思う」と述べた。
なーりーママは受け取る側として「規制はした方がいい。人が不幸せになることを願って配信しているわけじゃないので、ある程度基準を決めた方がいいと思う」と語る。森さんも「応援する側は本人がコントロールすべきだと思うが、規制があればとんでもないところまで行ってしまう人は減るのではないか」と語った。
アレン様は「エンタメを発信する側に対価を感じてお金を払っていただくのがこの業界だと思うので、コンサートのようにきちんと対価に見合ったものを提供しているならありだと思う。ただ煽るという行為は規制した方がいい。恋愛に絡めた発言や『もっと』を促すような言葉を使わないといった文言規制はあっていいはず」と語った。益田氏も「プラットフォーム側も儲けるためにやっているのだろうが、人類が初めて遭遇したものだから、規制について考えることはとても大事なことだ」と述べ、それぞれがルールメイキングの重要性について強調していた。
(『ABEMA Prime』より)