ウクライナ情勢や中東での紛争など、現代はSNSやスマートフォンを通じて、実際の戦場の過酷な映像が日常的に閲覧できる時代となっている。そうした情報があふれる現代において、映像作品で「戦争」をどう表現し、伝えていくべきか。
【映像】加害者視点で描かれた『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』の戦闘シーン
映画監督の塚本晋也氏の新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』(9月11日公開)は、ベトナム戦争に従軍した実在の米海兵隊員アレン・ネルソン氏の体験を基に、過酷な戦場体験や帰国後のPTSDを「加害者」の視点から描いた戦争ドラマだ。この作品を題材に、情報化社会において映画が果たす役割や、「戦争のリアル」をどう後世に伝えていくかについて、『ABEMA Prime』で議論が行われた。
■スマホで戦場が見える時代の映画の意義「リアルな描写」と「感情」

2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏は現代の映像環境を踏まえ、「戦争の現場がスマホなども含めて無料でいろいろ見える時代になっている。リアルが見える時代に、作り物の映画でリアルを伝えるというのは、逆に難しいのではないか」と問いかけた。
これに対し、塚本氏は実際の映像と映画の違いについて言及。「本当の現場のドキュメンタリー映像は今たくさん見られるが、動画と現実とではやはり違う印象を受けると思う。本物を見せるから本物が感じられるわけではなく、そこに創作という筋立てや物語を見せていくことで、より本物に感じるようなものを表現することが映画の役割なのかなと思う」と語った。さらに「描写と物語が関わって、リアルのように感じるものを作るのが自分の作業だ」と話した。
リアリティを追求する上で避けて通れないのが、残虐な表現と視聴制限の問題だ。塚本氏は演出の意図について、「戦争の話がいかに『嫌だ』ということを、体感してもらいたい。自分の場合、表現を加減したことはなく、映画に必要な分の内容は全部描き切る」と明言した。
ひろゆき氏は「子どもの頃に『はだしのゲン』の実写映画を見て衝撃的だったが、小学生が見られない作品になってしまうと、そういう感情が生まれないと思う」と指摘しつつ、「残虐なシーンが逆に『作り物感』が出すぎてしまいリアリティが薄れる作品もあるが、塚本監督の作品は本当に淡々と人が死んでいく。そちらの方が恐怖の感情は残るのではないか」と分析した。
塚本氏は、「暴力的な部分を見せるところ、見せないところのさじ加減は大事。頭や内臓が飛び散っているものでも、やがて見ている人は慣れてきて飽きてくる。見せる・見せないは慎重にやっている。」と説明。また主人公の周りで起きていることを中心に描き、敵側が攻撃の準備をする場面などはあえて見せず、 「ある時突然弾が飛んで爆発する。それが当事者意識だと思う」と、戦場を当事者の視点で体感させる演出について語った。
本作の大きなテーマである「加害者視点」について、塚本氏は「今の時代、“ヒロイズム” で戦争を描くのは危険だと強く思っている。戦争に行くことは、かっこいい活躍をして、かっこいいことを言って死ぬのではなく、ものすごい形で自分が死ぬか、戦争がなければ友だちになれる人を自分が殺すかだ」と懸念を示した。
さらに帰国後の問題として、「せっかく生きて帰ってきても、加害者の人は恐ろしいPTSDを抱えている。家族など大事な人にも暴力を振るってしまい、その暴力が次の世代へと続く暴力の連鎖がある。日本ではPTSDという概念がなかったので、みなさん黙っていた。それを表したいという思いがあった」と制作の動機を語った。また、「戦場には加害者も被害者もいるが、実はどちらも被害者だと自分は思っている。本当の加害者は誰か。それは戦争を始めて、実際に戦争に行かない人だ」とも述べた。
■現代の戦争と映像化の課題 フィクションが伝える「重さ」

議論は現代の戦争の変質にも及んだ。パックンが「今の戦争の特徴として、ドローンなどで見えない相手を数千キロ離れた戦場で殺し、その夜は普通に自分の家に帰っている。戦い方が違う」と指摘すると、近畿大学 情報学研究所 所長 夏野氏は「ドローン操縦士のPTSDはすごく問題になっている。今、勝ち負けがつかない戦争が起こっていることを忠実に再現するドラマも増えてきている」と語った。
また、ひろゆき氏は「『戦争はよくない』という時、たいてい第二次世界大戦で負けた話があるから、そういうことを言う。ただ、それは勝った側であっても言うべきだ。日本人は負けたからよくないと言っているだけで、人類は勝ち続けている限り反省しないのではないか」と提起した上で、「フィクションや物語は現実に先んじることがある。フィクションを通すことで、ドローンで人を殺しても重さはあることを伝えることはできていると思う」と物語の重要性を指摘した。
最後に塚本氏は、「少しでも多くの方に映画を見ていただいて、実際に戦争の現場に行くのはこういうことだと、頭ではなく体で感じてもらいたい。まずは戦争というものをわかっていただいて、『やるときはやらなければしょうがない』と考えるのではなく、なんとか一歩踏みとどまって、どうしようかと考えていただけたらいい」と結んだ。 (『ABEMA Prime』より)