社会

ABEMA TIMES

2026年9月1日 07:00

「あいつら消してやる」犯行を請け負った男らの重層的な関係…顔も知らない夫婦をなぜ殺害?上野・飲食店経営夫婦殺害事件

「あいつら消してやる」犯行を請け負った男らの重層的な関係…顔も知らない夫婦をなぜ殺害?上野・飲食店経営夫婦殺害事件
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 上野を舞台に発生した夫婦殺害事件、裁判で明らかになった事件の実態に迫った。      

【映像】事件をめぐる相関図(顔写真あり)

 東京・上野。かつて焼肉店など十数店の飲食店を展開する、らつ腕経営者の名前から「宝島ロード」と呼ばれた通りがあった。しかし現在、その面影は見られない。2年前に経営者夫妻が殺害されたからだ。

遺体発見から2カ月で7人逮捕

 元徳島県警捜査1課警部の秋山博康氏は、現場を歩きながら「完全に看板も変わっている」と話す。「単なる身内だけの事件ではよくありますけど、第三者が入っていますから、これは許せない事件だと思います」。

 殺害の直前。この通りにある店で、電気の延長コードを買い求めた男がいる。本当はロープを探していたが売っていなかった。

 この男は、東京・五反田の駅前交番に出頭した。2024年4月17日の午前6時30分、夫妻の遺体が発見された翌朝のことだった。埼玉・越谷市に住む建設作業員・平山綾拳被告(当時25)。「自分の車が使われた」と話したが、それはウソだった。

 ここから事件は大きく動き、2カ月の間にあわせて7人が逮捕されていく。その中には殺害された夫婦の娘と、内縁の夫も含まれていた。いったいどんな事件だったのか。そしてなぜ平山被告は出頭したのか。

被害者は“やり手の実業家”、依頼主は長女の内縁の夫

 栃木・那須町の河川敷。ここで2人の焼死体が見つかった。2024年4月16日の朝、全身が焼けていた。手は結束バンドで縛られ、顔には粘着テープが巻かれていた。死因は頚部圧迫による窒息死、妻のほうは頭蓋骨に複数の骨折があった。

 遺体発見から数日後、秋山氏は現場を訪れていた。「これが現場。焼けてない?焼けとるやろ?この辺りの木でも一部しか焼けていない。人間の体はそんなに燃えて骨だけになることはない。人間の体は水分がほとんど」。この時点では、まだ被害者の身元は割れていなかった。それほどの損傷だった。

 そしてその遺体は、宝島龍太郎さんと、妻の幸子さんであることが判明する。夫妻は上野の一角で焼肉店や居酒屋などを経営するやり手の実業家だった。

 宝島さんを知る元従業員は、「お店を回って何をしていた?」の質問に「大体、集金と会社での指示。集金はほぼ毎日。ずっと怖いなと思っていた。毎日毎日こんな大金を……十何店舗あるから何百万円」と振り返る。

 実は、2人が殺されたのは那須ではなかった。犯行現場は、東京・品川区にある空き家1階のガレージ。そこから車で那須まで運ばれ、ガソリンをかけて焼かれた。

 この事件で逮捕され起訴されたのは7人。殺害を依頼したとされるのが、夫妻の長女の、内縁の夫である関根誠端被告(当時32)。その長女、宝島真奈美被告も、のちに殺人の疑いで逮捕される。

出頭した人物は「依頼者」も「被害者」も知らなかった

 そして実行役を集めたのが、最初に出頭してきた平山被告。出頭した当初、警視庁にこう語っていた。「(殺害を)指示したのは兄貴分です」「名前は言えない」。

 実はその時、平山被告は自分に指示を出した人物しか知らなかった。さらにその上に誰がいるかも知らず、犯行に加担していた。そしてさらに、殺害された夫妻の顔も知らなかった。

 実は、この出頭には裏があった。自分から交番に入る30分前、平山被告は共犯者と会っている。

 2週間前に時計の針を戻す。埼玉・越谷市のアパート、昼間は建設現場に出る仕事をして、夜は渋谷のクラブに通う。宝島さん夫妻とは面識がなく、上野の店にも行ったことがない。

 その男の携帯に、1本の電話がかかってくる。かけてきたのは、クラブで知り合った佐々木光被告(当時28)。「運んでほしいものがある。金は出る」「それだけだ」。

 平山被告は「最初は遺体の処分だけを引き受けたつもりだった」という。誰の遺体なのかも、誰が頼んでいるのかも聞いていない。その数日後、再び佐々木被告から連絡があった。「話が変わった」「殺すところから、頼みたい」「その分、金も上がる」。その後「報酬が増額され殺害も指示された」と話した平山被告が知っていたのは、この男までだった。

 平山被告は自分の下、つまり指示で動く実行役を探した。「普段からけんかっ早い。怖いものを知らない雰囲気があったから、2人に依頼した」。選ばれたのは2人の当時20歳の男、姜光紀被告と若山耀人被告だ。平山被告によれば、上下関係のない飲み友達だったという。

 平山被告の「車で、運んでほしいものがある」「数百万にはなる」との声かけに、姜被告は「やります」と答えた。しかし後に平山被告は「運ぶだけじゃなくなった」「殺してから運ぶ。金は上乗せする」「相手は50代の夫婦だ。女のほうは髪が長い」と依頼を変えた。姜被告は「やらなかったら何をされるか分からないと怖くなり依頼を受けた」と話している。

 同様に平山被告は「頼みたいことがある。やれば、金が入る」と、若山被告に打診。「ちょっと考えさせてください」との反応に、「今、決めてくれ」と要求。若山被告は「やります」と返した。

 準備も平山被告がした。4月13日の夜、越谷市のホームセンター。買ったのは携行缶と着火剤。その30分後、同じ越谷市内のガソリンスタンドで、携行缶にガソリンを入れている。

 翌日の夜は、東京・上野の量販店。結束バンド、粘着テープ、そして延長コードを購入した。「ロープ売り場が見つからなかったので、電気コードを買いました」「首を絞めるためには、ロープが必要だろうと思って」「何に使われるかは、なんとなくわかっていました」。

 殺害する相手の顔を知らないまま、道具を選んでいた。そしてこの夜、平山被告がいたのは、夫妻が毎日集金などで回っていた、あの通りのすぐそばだった。

経営方針めぐり対立、他店ともめたことも

 ここで時間を戻す。平山被告が最後まで知らなかった“上”の話だ。事件を計画したとされ逮捕・起訴されたのは、夫妻の長女の内縁の夫だった。

 2024年1月、平山被告に指示を出した佐々木被告の、その上にいたとされるのが関根被告。会社のマネジャー的存在で、店も人の採用も関根被告に任されていた。しかし、経営者の宝島さんと関根被告は、徐々に話が合わなくなる。

 捜査1課が見立てる対立は、店の増やし方をめぐるものだった。宝島さんが「もっと店、増やせるだろ」「人件費は抑えて、人を増やせばいいんだよ」と求めると、関根被告は「いや、俺は増やしたくないです」「ちゃんと給料払って、日本人を雇った方がいい」「今ある店で利益出した方がいいですよ」と反論。

 宝島さんが「それじゃ広がらないだろ」と拒むと、関根被告は「広げりゃいいって話じゃないでしょ。あなたとは話がかみ合わないな」と返すような流れだ。

 宝島さんの側も、上野駅の周辺の店を、すべて自分の経営にしたい。そんな意向を持っていて、ほかの店ともめることもあった。そして2024年1月、長女が両親の会社の取締役を外れる。

 ABEMA的ニュースショーは、関根被告が逮捕された直後、事件を紐解く話を取材していた。東京・御徒町にある居酒屋経営者だ。関根被告から代理店を通じて、宝島さんが経営していた店舗を購入しないかと持ちかけられていたのだ。宝島さん夫妻が殺害された直後のことだった。

 改めて当時の話を聞いた。「図面とか店の外観を撮ったのをまとめて、宝島さんの会社をコンサルタントしている人に頼まれた、ということで営業マンが来た。担当さんが12店舗をまとめて1億円だったら安いんじゃないですかという形で。ただ、もんじゃ焼き屋とイタリアンとかバルみたいなものだけは、このまま続けるという話でしたが。肝心の宝島さんご夫婦が亡くなられている状態で、誰と契約を交わすんだろうというところが、やはり疑問になります」

 秋山氏が「この界隈のこういう居酒屋は、1店舗で平均月どのくらいの売り上げがある?」と聞くと、居酒屋経営者は「後輩がアメ横でやっているが、坪数50坪くらいで3000万円」と答える。怪しさを感じた居酒屋経営者は購入しなかったが、この証言をABEMA的ニュースショーで伝えた直後、警察が事情を聞きに来たという。

 2024年2月下旬、関根被告は上野署を訪れ、こう訴えていた。「あの店は、従業員が長時間働かされている」「外国人従業員の9割がオーバーステイか資格外活動です」「脱税もしています」。しかし、根拠は何も示さなかった。摘発はされていない。

 長女のスマホに、関根被告からこんなメッセージが届く。「あいつら消してやる」「ここを歩けなくさせてやる」。

 2024年3月下旬、関根被告は知人男性に「消して欲しい人がいるから手伝ってほしい」と依頼するも、男性は断った。事件の約3週間前だった。

「関わりたくなかったが…」関係性から依頼を受諾

 依頼が次に渡ったのが、佐々木被告。福岡から上京して2カ月。佐々木被告は「みんなお辞儀をしているから、すごい力を持っている人だと思った」と供述する。

 関根被告は、佐々木被告にこう言ったという。「処理してほしいことがある」。依頼は遺体の処理、報酬は数百万円。後に佐々木被告は「関わりたくなかったが、誠端さんと同じ上野で仕事をしている以上、断れなかった」と明かす。

 しかし数日後、中身が変わる。「上乗せする。やれる人を探せ」。提示されたのは1500万円で、原資は関根被告と前田亮被告(不動産会社経営者)が用意したとみられている。

 探せと言われた男が、探せと次の男に指示を出した。それを受けた男が、さらにその下に指示を出す。

 時間を2024年4月15日に戻す。午後9時30分、平山被告は品川区にいた。コンビニの駐車場に、自分名義の車を停める。午後10時、歩いてきた姜被告と若山被告と合流。「場所は、送ってある」「終わったら、栃木だ」「“栃木”とだけ聞いている」と告げ、車の鍵を渡した。運転するのは姜被告だ。

 午後11時、平山被告だけが歩いて店を出た。空き家へ向かう途中で道に迷い、通りがかりの人に、道を尋ねている。下見をしていない、場所も正確には知らない。それでも殺す場所と燃やす場所を2人に伝えていた。

 そのころ、宝島さん夫妻は東品川にいた。車内で飲まされたコーヒーに、睡眠薬が混ぜられていた。夫妻が連れて行かれたのは品川区にある空き家、その1階のガレージだった。平山被告は中には入っていない。外に残り、扉の開け閉めや見張りをしていた。

 龍太郎さんの首は、2日前に買われた延長コードで絞められた。幸子さんは長さ30cmのネイルハンマーで、頭を繰り返し殴られた。死亡したのは、午後11時50分から、午前1時30分までの間。その間、平山被告は外にいた。姜被告から「今から、空き家を出ます」との連絡を受け、2人が車で走り去るまで、平山被告はその場を離れていない。

 4月16日午前2時30分ごろ、上野の駐車場に、関根被告らの車が集まる。平山被告はそこにいない。平山被告は五反田の居酒屋に1人でいた。

報酬1500万円の分け前は…

 およそ1時間半後、佐々木被告が店に入ってくる。渡されたのが1500万円。分け方を決めたのは、平山被告だった。「2人にはこっちから渡す」「250万円ずつだ」。佐々木被告に100万円、実行役の2人には250万円ずつ、そして自分に900万円。

 手を下した2人の合計が500万円。決めた本人が、その2倍近くを取っている。ただし、金額の話は、全員の供述が食い違う。

 そのころ実行役の車は、栃木県内を走っていた。遺体は頭にビニール袋をかぶせられ、粘着テープを巻かれた。買われた道具が順番に使われていく。那須の河川敷で、2人の遺体に、ガソリンがかけられた。

 伐採の現場に向かう途中の男性が、河川敷に煙を見つけた。山火事かと思って近づいた。電波が届かず男性は駐在所まで走り、その場の電話で110番した。

依頼主から届いた「出頭指示」

 遺体が見つかり計画は崩れた。“上”から降りてきたのは、出頭の指示だった。「依頼主がお前に出頭させられないかと言っている」(佐々木被告)。依頼主とは、平山被告が名前を知らない男だ。

 平山被告は「出頭しよう。3人で行こう」と呼びかけ、姜被告は「考えます」と告げたが、そのあと連絡は返ってこなかった。「2人と連絡がつきません」と報告する平山被告に、佐々木被告は「なら、お前が出頭しろ。俺に携帯を渡せ」と促した。「断ったら、殺されるかもしれない。いずれ捕まるのであれば、自分から出頭した方がいい」(平山被告)。

 4月17日午前6時ごろ、五反田駅の近くで平山被告と佐々木被告が数分間会っている。ここで渡していたのは、携帯電話と車の鍵だった。その携帯は、のちに平山被告の母親によって解約される。

検察は「真相解明や真犯人全員の検挙を妨害する行為」

 およそ30分後、交番へ。「自分の意思で来た」と説明したが、検察はこの出頭をこう見た。「上位の指示者を隠すため、最初は姜と若山を出頭させようとしたがかなわず、仕方なく共犯者からの出頭指示に従ったもの」「真相解明や真犯人全員の検挙を妨害する行為」。

 出頭はしたが、証拠は手放していない。そして、自分を指示した“上”の名前も出していない。それが平山被告の出頭だった。

 最初に作られたのは、自首調書だった。話したのは車を貸したことと遺棄場所の提案。どちらもいずれわかることだった。捜査員「車を貸した相手は?」との質問に、平山被告は「Aさんです。名前は知らない。一緒にいた2人も、あだ名しか知らない」と答える。

 また「他に事件に関わった人間は?」との問いに、「Hという人間が、関わっています」と返し、捜査員から「Hは……キミだね」と確認される場面も。平山被告は「はい」と応じるも、それでも指示者の名前は出さなかった。

 2年後の論告、検察は「平山は実行部隊のリーダーであった」として、自首も認めなかった。裁判所は自首の成立を認めている。ただし「自首の成立は、量刑に大きく影響する事情とはならない」「被害者夫妻とは関係性がなかったのに、本件に関与し必要な役割を主体的に果たした」。その上での懲役30年だった。

 誰かに命じられて、渡されたものではない。“上”から降りてきたのは、「探せ」の一言だけだった。平山被告と指示した佐々木被告は、ともに懲役30年の判決だった。関根被告は無罪を主張している。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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