安倍晋三元総理の祖父・岸信介が晩年を過ごした邸宅へ。建築家・吉田五十八が随所に施した美しい景色を生かす工夫に迫りました。
岸信介が晩年を過ごした邸宅
日米安全保障条約の改定を成し遂げ、日本の安全保障の軸を築いた岸信介。弟は総理大臣を務めた佐藤栄作、孫には総理大臣となった安倍晋三がいます。日本を代表する政治一家の中心人物です。
そんな岸信介が愛した邸宅を訪ねました。訪れたのは静岡県御殿場市にある東山旧岸邸。総敷地面積約5700平方メートルに及ぶ、岸信介が住んだ邸宅です。
「岸さんは1970年から、晩年の17年間をこちらでお過ごしになられました」
「最後に住んでいらっしゃった場所?」
「はい、そうです」
「でも、それがそのまま残っているってことですか?」
「そうですね。岸さんの生活の跡を見ていただけると思います」
「こんな生活していたのかなって、ちょっと想像できるってことですね!」
要人を迎えた玄関
まずは、中曽根康弘元総理など数々の要人を迎えた玄関です。
「どうぞ、お入りください。こちらが玄関ホールになります」
「玄関ホールって、こんなに広いんですか?」
「これはですね、岸さんが国会議員であったということに関係しているんですけれども、お客様の待合室として使われておりました」
「家に待合室があるんだ!」
要人を迎えるために作られた広々とした玄関には、中曽根康弘元総理も迎え入れた記録が残されています。玄関ホールに入ると、当時のまま残る椅子がありました。
「ちょっと緊張しますね…ここにもしかしたら、要人たちが座ってたかもしれないってことですもんね?」
「そうかもしれないですね」
「同じところに!おしゃれですよね。日本っぽさもあるし、先進的というか」
「こちらは近代数寄屋建築という建物でして、第一人者の吉田五十八が設計した建物になります」
「聞いたことありますね。吉田茂邸をデザインされた…」
「手がけた建築家です」
以前、番組でも訪れた吉田茂邸。伝統的な和風建築を現代風に進化させた、吉田五十八の建築の特長が表れた邸宅でした。吉田五十八の代表作は、成田山新勝寺の大本堂です。昭和を代表する天才建築家と呼ばれ、多くの著名人の邸宅を設計してきました。
岸邸は、その中でも晩年の作品で、いわば吉田五十八の集大成です。岸信介の暮らしに合わせつつ、設計のこだわりをふんだんにちりばめた邸宅なのです。
安倍晋三も遊んだ?庭
そんな岸邸の顔ともいえるのが、幼いころの安倍晋三も見ていたとされる絶景を望める居間です。
「こちらが居間になります」
「庭が見える!素敵!いい眺めですね!広い!」
「岸さんご自慢のお庭でございます」
実はこちらの窓には、驚きの仕掛けがあります。
「全部開くんですか!?こっちも開くんですか!?」
「そうなんです。窓ガラスの部分に柱がございません」
窓枠が邪魔することなく、居間から開放的な庭を楽しめるのです。
「そして振り返っていただきまして、こちらの茶色いソファ。岸さんのお気に入りの場所でして、ここに座ってお庭を眺めるのがお好きだったそうです」
「これは贅沢な時間ですね!当時からこの広さのお庭があった?」
「はい。この広さのお庭でした。安倍(晋三)さんも、こちらのほうに遊びに来られていたそうです。なので、ここで遊んでいらっしゃったかもしれないですね」
庭を生かした“逆さ庭”
その窓と庭を生かした絶景も見どころです。
「椅子も当時のままのものでして、こちらに座った人だけが見られる景色がございまして」
「ふかふか!こうやりたくなる…」
「このガラスの机、見ていただけますでしょうか?」
「映っている!?お庭が…?」
「逆さ富士ならぬ、逆さ庭が…」
「逆さ庭!?」
吉田五十八は、この風景を最大限に生かした机をデザインしました。使用したのは、当時の工業用の強化ガラスです。それにより、この反射が実現したといいます。秋には紅葉が映り込み、絶景が楽しめます。
「観光地に見に行くあの景色を、ここで見ていたんですか!?」
「はい。楽しむことができます!」
夫婦で食事をした食堂
続いては、夫婦で食事をした、値がつけられない唯一無二の絵画を楽しめる食堂です。
「食堂のほうは、また天井の高さが変わってまいります」
「本当だ!ちょっと落ち着く感じがしますね」
「岸さんと奥様と、2人でお住みになられていたんですけど」
「2人で!」
「会議室としても使うという想定で作られておりましたので、このような数の椅子と大きな机になっているんです。岸さんがどのお席に座られていたでしょうか?机を見ていただけると、分かると思います」
「何かこう、ずっと物を置いてあったんだろうなという跡がありますね!」
「そうなんです!こちらが岸さんの…」
「ここ!端が落ち着くんですかね?ちょっと親近感ですね」
唯一無二の“絵画”
ここにも、食事が倍おいしくなる吉田五十八による仕掛けがあります。
「入っちゃうんですか!?」
「吉田五十八さんが考案したといわれます、押し込み戸という造りになっておりまして、窓の枠が額縁のようになりまして、庭が一枚の絵のように見えてくるかと思います」
「そうですね。確かに!額縁のようになっている!」
世界に一つ、さらには同じ景色は二度とない、その瞬間を刻む絵画が鑑賞できる粋な造りです。存在感を放つ、1年中赤い葉をつけるノムラモミジは、盆栽好きでも知られた岸信介が庭で唯一、自ら植えた木だといいます。そんな庭には、弟・佐藤栄作との兄弟らしさを感じる逸話もあります。
「要人も、こちらのお庭でお迎えになったそうです。ガーデンパーティーをされている様子が写真に残っております」
「ガーデンパーティー?川が流れていますね?」
「実はですね、こちらの小川は人工でして、岸さんは大事なお客さんがいらした時に川の水を流していらっしゃいました。岸さんのご実弟・佐藤栄作首相が遊びに来られた時に水が流れてなかったそうで、『俺は大事な客じゃないのか!』とお兄様に文句を言ったというお話が残っております。『お前は身内だ!』という話になったそうです」
(2026年8月21日放送分より)















