法務省は、仮釈放中の性犯罪加害者の再犯を防ぐため、GPSを所持させる実証実験を来年度から始める方針を固めた。対象は「同意を得た仮釈放中の人」や「保護観察付きの執行猶予判決を受けた人」で、体に装着させるのではなく、カバン等に入れて「持たせる」形式での運用となる。
法務省の調査では、性犯罪で有罪となった人のうち、5年以内に再び性犯罪で有罪となった割合は13.9%だった。一方、再犯した人の中では性犯罪による再犯が67.4%を占めた。国による監視の強化はどこまで許容され、どのような効果をもたらすのか。加害者の人権やプライバシーとのバランスをどう取るべきか。実効性のある再犯防止のあり方について、『ABEMA Prime』で議論が行われた。
■実証実験は「所持」で十分か?装着義務化を求める声

番組ではまず、今回の実証実験が「同意者」に限定され、かつ「所持」にとどまる点について意見が交わされた。
2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏は、「(再犯したくないと)同意した人がGPSをつければ、5年経った時の再犯率はかなり低くなるはず。再犯をしたい人は同意なんかしない。実験の目的は、再犯率を下げること。数字が低くなれば、GPSをつけた方がいいという結論になるし、その方がGPSを活用する社会への一歩になる」と実験の意義を評価した。
一方で、「所持では意味ないと思う。別に『また、やる』という人がいれば、GPSを家に置いて出て行くだけ。本格的にやるのであれば装着を義務化するべきだ。義務化すると再犯率が下がるという結果が、海外では出ている」と実効性に疑問を呈した。
メルカリ AI strategyのハヤカワ五味氏も、「実証実験で『所持』となると、最初から装着してほしいという意見が出るのも想像できる。大企業や政治の場でも、実証実験をしないと説明がつかないという事情があるだろうから、所持だと弱いと思いつつも重要な一歩。ただ、国外で効果が出ているのだから、それを元に始めてもいい気がする。スピード感が遅い」と同調した。
長年、性犯罪加害者の治療に取り組む西川口榎本クリニック副院長の斉藤章佳医師は、今回の実験対象について「仮釈放・保護観察対象者で、同意した人はかなり治療反応性が高く再犯リスクが低い人。本来、監視と治療セットで行うべきはハイリスクな対象者であり、これでどれぐらい再犯率が測定できるかは疑問だ」と指摘する。
さらに「GPSだけで解決しないのは、加害当事者の認知の歪みや、衝動制御を助けるものではないからだ。あくまでも補完するものであり、エビデンスに基づいた治療とセットでやっていくことが大事だ」と語った。
また、加害者の人権という観点から、監獄人権センター事務局長で弁護士の大野鉄平氏は、「GPSを所持させることで外形的に再犯防止につながるように見え、仮釈放の審査で再犯リスクが低下していると認定されやすくなるメリットはある。しかし、これが仮に刑期後ということになればプライバシーの問題が出る。スティグマという形で社会から切り離され、更生や社会復帰の妨げになる」と懸念を示した。
これに対し、近畿大学 情報学研究所 所長・夏野剛氏は性犯罪の特殊性を挙げ、「強盗などの犯罪とは違い、性犯罪、性的衝動は本能に近い。普通に考えたらそんなことはしないのにやってしまう、バリアが低い人たちだ。『やってはいけない』というプレッシャーを与え続けない限り、やってしまう。他の犯罪とは区分けして考えなければいけない」との見方を示した。
難しさについては、斉藤氏も同調するところだ。「性犯罪者の治療対象者は、基本的に治療の動機づけがあって『変わりたい』と思っている人。しかし、刑務所には全く変わる気がない人、さらには受刑中から再犯を宣言するようなタイプもいて、出所・退所を10回、15回と繰り返している超ハイリスク群がいる。日本では難しいが、イギリスでは、出所後もそのまま医療施設で治療を続け、社会に出さないようなシステムもある」と紹介した。
■再犯を防ぐためにも必要な孤立の解消

社会には、性犯罪者に対する強い処罰感情が根強く存在する。音楽プロデューサーの松尾潔氏は、「極端だと言われるのを承知で言うなら、児童への性加害は殺人とほぼ一緒だ。実験も段階的にやるよりも、やるならば全員に装着でやらないと、意義も薄れるのではないか。加害者の人権を認めることが被害者を貶めることにならないのは理屈ではわかるが、許せない気持ちがある」と吐露した。
ひろゆき氏はこれに対し、「被害者が罰を与えることでスッキリしたいという意味で望む人がいると話がややこしくなる。働けなくて生活保護で養うよりも、再犯できない状況で稼いで納税してもらった方がいい。一生性行為ができないなどの刑罰よりも、GPSの方が人道的だ。ただ、一生つけるとなれば就職できず、別の犯罪に走る可能性もある。情報は警察や被害者が知ることができればよく、一般大衆が知る必要はない」と主張した。
過度な監視による社会的排除について、斉藤氏は「今まで3500人以上の治療をやってきた中でたどり着いた一つの結論として、孤立と社会からの排除が彼らの2大トリガーだ。治療の中でどう居場所を作り包摂していくかが、遠いように見えて近道になる。そこを理解した上で、リスクに応じた監視を合わせていくべきだ」と指摘した。
番組では海外の事例も紹介された。韓国では、取り外し不可のGPS足輪の装着や裁判所による治療命令、化学的去勢といった複合的な対策によって、性犯罪の再犯率が劇的に下がったという。
斉藤氏は「韓国では足輪に加え、治療命令を裁判所が出せるようになり、再犯率は9分の1まで下がった。さらに欧米の一部ではハイリスクな人には、化学的な去勢をして、認知行動療法をするなど、かなり複合的な対策によってここまで再犯率が下がっている。見習うべき事例だ」と評価した。
一方で日本の課題について、「日本の場合は、最もハイリスクな性加害者は累犯で、満期出所してくる人たちだ。出所後、この人たちには現状どこも介入できない状態で野に放たれる。ここにどう介入するかが、本来一番法務省にやっていただきたいところだ」と制度の隙間を指摘していた。
(『ABEMA Prime』より)