生活保護世帯で育ち、ヤングケアラーとして家族を支えながら東京大学への進学を果たした清野孝弥さん。法学部をトップで卒業し、現在は法科大学院で学ぶ清野さんは、その経験をもとに著書『ヤングケアラーの僕が東大に合格するまで』を執筆した。しかし、その道のりには「お金がない」「勉強時間が取れない」「制度の壁」という3つの大きな障壁が立ちはだかっていた。
生活保護世帯の子どもが大学に進学する場合、現行制度では、進学する本人を世帯から分離し、本人を生活保護の対象外とする「世帯分離」という扱いになる。この制度の問題点は国会でも繰り返し議論されてきたが、いまだ根本的な解決には至っていない。『ABEMA Prime』では、生活保護世帯と教育格差の問題について考えた。
■予備校通えず、ネットで無料の教材探し

清野さんが生活保護受給世帯となったのは、中学3年生の受験直前のことだった。「生活が行き詰まってしまい、生活保護を受給することができて、なんとか生きていく道が保たれた」と振り返る。
東大進学を決意した理由については、「毎回、奇跡みたいなものを起こし続けない限りは生きていけないだろうと思っていた。『東大に受かって人生を大幅に変えられるか』『詰んでしまうか』の2択ぐらいの感覚だった」と語る。
しかしその道には、経済的な壁が立ちはだかった。名門高校に進学しても、周囲の生徒が当然のように塾や予備校に通う中、清野さんにはその費用がなかった。「たとえば模試で頑張っていい成績を取ると『無料でうちの予備校にお越しください』とか言われることもある。ただ、授業は無料だけれども、『入学金などがかかる』とか言われて、その何万円が出せなかった」と当時を説明する。
また勉強に必要な参考書を手に入れることも一苦労で、「できるだけインターネットとかで無料の教材を探して、それだけで勉強するようにしていた」という。
さらに、ヤングケアラーとしての負担も重くのしかかった。受験期、父親の体調悪化により精神的なケアが必要になり、「家に帰ってから深夜の4時、5時とか翌朝に及ぶまでずっと話を聞く状況も日常茶飯事だった」と語る。
アルコールなどに走ってしまうことを食い止めるため、清野さんがそばにいることが求められた。「精神介護が一番、ハードルが高かった」と振り返る中、隙間の時間を徹底的に活用し、「とにかく効率的にやるしか勝ち筋がない」と自分に言い聞かせながら受験を乗り越えた。
■生活保護世帯、かつては高校進学も認められず

「お金」と「時間」の問題を必死にクリアしてきた清野さんだが、3つ目の「制度」の問題にも苦労した。そもそも、生活保護世帯の子どもが大学に進学するためにはなぜ「世帯分離」が必要なのか。
超党派「子どもの貧困対策推進議連 教育格差について考えるワーキングチーム」座長を務める自民党衆議院議員・細野豪志氏は、この制度の背景をこう説明する。「今から半世紀以上前は、生活保護世帯は高校にも行けなかった。1970年までは高校進学が贅沢とされていた」。高校進学率が8割に達した時点で制度が改められた歴史を踏まえ、細野氏は「大学・専門学校の進学率も8割に迫ってきているから、日本も変えるべきだということで提案をしたが、まだ変えられていない」と現状を語る。
世帯分離の問題点について、清野さんは具体的に説明する。「大学に進学して生活保護を外れたら、4月1日からいきなり生活費も医療費も交通費も全て自分で賄ってくださいということになる。それと同時に(進学した子どもの分)両親が得ている保護費の金額も減る。自分たちの生活がただでさえ大変なのに、子どもが大学に行くことで『減らされたら生きていけない』からと、『大学に行くな』と親が反対するパターンもある」。
厚生労働省は、大学進学を「最低生活保障の対象として認めることは困難」との立場をとっている。その背景には、大学生本人を生活保護の対象にした場合、申請が大幅に増えることへの懸念もある。細野氏は「端的に言うと(一人暮らしの)大学生が(大量に)生活保護を申請してくることを厚労省は恐れている」と説明する。一方で「そんな大勢が申請するとは思えない。学生は社会がサポートするものだから、生活保護とは違う形でサポートすべき。それを大げさに恐れるのはおかしいという議論を厚労省としている」と述べ、制度の壁を崩そうとする姿勢を示す。
世帯分離という制度そのものをどう見るか。細野氏は「根本的に世帯分離という制度そのものは変えるべきだと思っている」と主張する。「高卒で立派に働いて自立している人もいる。それも一つの選択だから、その評価を下げるようなことは絶対したくない。しかし一方で、専門学校に行きたいとか、様々な資格を身につけたいという若者もたくさんいる。そのチャンスすらない」と強調する。
清野さんも「実際に今、生活保護世帯の子どもたちがどういう状況かというと、経済的な理由で高卒で働かなければいけない、自主的な意思で働いているわけではない可能性もいっぱいある。そういう意味では、高卒ではない選択肢を拡充していくためにも、世帯分離はどうにかするべきだ」と語った。
また、自身の今後については法曹界に進み「法制度の改革に携われるような仕事をしたい。自分と同じような家庭環境で生まれ育ち、自由に勉強できていない子どもたちがたくさんいる。1世代・1学年で、1万1000人ぐらいとも言われている。その子どもたちの未来をどう保証するか、自分はずっと気がかりだ」と、厳しい家庭環境にいる子どもたちを救いたいという抱負を述べていた。
(『ABEMA Prime』より)