出版不況やデジタル化の波が押し寄せる中、1913年創刊の経済誌『週刊ダイヤモンド』が、2027年3月29日発売の4月3日号をもって紙の発行を終了し、デジタルへと完全移行する決断を下した。読者の情報収集の手段がテキストから動画、さらには生成AIへと多様化し、メディアを取り巻く環境が激変する現在、経済誌はどのような価値を提供していくべきなのか。経済メディアのトップらを招き、今後の生き残り策や存在意義について、『ABEMA Prime』で議論が行われた。
■定期購読と市販のズレ…紙媒体終了の背景

『週刊ダイヤモンド』編集長・深澤献氏は、紙媒体の終了に至った背景について、「いきなり紙をやめるという話にしたわけではない」と前置きし、これまでの経緯を説明した。
「2007年から『ダイヤモンド・オンライン』を始め、2019年にデジタル有料サービス(サブスク)を設けた。そのあたりから、どうやらデジタルでもお金をもらえることが明らかになり、雑誌とデジタルの読者を一致させるようにしてきた。雑誌が市販(書店やコンビニなど)と定期購読の割合が半々くらいで推移していたが、だんだん市販が減った」。
それでも市販は競争相手との差が目に見えてわかるだけに、「ライバル誌がいると市販で勝負したくなり、大学やマンション管理、介護などピンポイントで読者の興味に刺さる特集をするようになる。すると、その号だけを買う人は増えるが、1年通して買ってくれている定期購読の人にとっては『この号は全然興味ない』という状態になっていた」と、雑誌作りにおけるジレンマを明かした。
その上で、「支えてくれているのは定期購読の読者ではないかと考え、一喜一憂するのではなく定期購読の読者を大事にしていきたいという方針を打ち出した。お金が取れるコンテンツは結局、産業や企業の深掘り記事だった。定期購読の読者は、サブスク読者とほぼイコール。デジタルで先に出したものを再編集して雑誌にする流れの方がわかりやすかった」と述べた。
■「紙」の存在価値と多様化する情報収集

一方で、現在も紙の発行を継続している他誌の編集トップらは、「紙」ならではの価値について独自の視点を示した。
『日経ビジネス』編集長・熊野信一郎氏は、「我々のターゲットは経営者やマネジメント層であるため、社長室にさりげなく置いてある、空港のラウンジに置いてある、あるいは職場で部署のみなさんで読むといった、物理的に存在する価値がある。金銭的価値に換算しづらいが、ブランドがあるということを認知していただいたり、我々が目指す世界観を知っていただくための価値を、デジタルやAIの時代だからこそもう少し考えるべきで、まだまだ役割はある」と主張した。
また、『週刊東洋経済』総編集長の山田俊浩氏は、「紙の良いところは、強制的にページをめくる時に、いろいろと見たこともないものが見られる点だ。最初から最後まで読むのではなく、書店でパッと見た時に気に入ったものがあれば買うことができる」と、一覧性と偶発的な出会いの重要性を指摘した。
■生成AIの台頭とメディアの葛藤
経済メディアにとって、デジタル化に続く新たな脅威となっているのが「生成AI」の存在だ。番組内では、可処分時間やサブスク課金の奪い合いだけでなく、情報収集の在り方そのものが変化している現状が共有された。
深澤氏は、「検索すると最初にAIの要約が出て、これで事足りるようになってしまい、流入がなくなってきた。ビジネスメディアを自分で読んで、自分で答えを出すのではなく、いきなり答えを見せられてしまう。サブスクのお金の取り合いという意味での脅威もあるが、AIの脅威は大きい」と危機感を露わにした。
自社で作成した記事が生成AIの回答や要約に利用されることへの懸念にも触れ、「せめて引用元や参照元が提示され、『詳しくはこちらへ』というルートがあればいいのだが、AIに記事のエッセンスだけ抜かれてしまう」と語った。
熊野氏もこれに同調し、「読者が会議に向けて参考情報を求めたい時に、入り口がAIになってしまうとそこで終わってしまう。ダイジェストを見て、ベースとなる一次情報を持つ我々のメディアまで来ないということが当たり前になると、我々に対価を支払うという前提がなくなってしまうことが起き始めている」と、ビジネスモデルの根幹に関わる事態であることを強調した。
■一次情報の価値と今後の課題
紙やデジタルという媒体の枠を超え、今後のメディアの在り方についても議論が交わされた。
熊野氏は、「紙かデジタルかという枠組みはすでになく、総合格闘技のようなところがある。紙は体験価値やブランド価値、デジタルは検索などの機能性を持つ。そこにリアルなイベントを開催して、実際の経営者同士が議論したり人脈を作ったりするコミュニティの価値をセットにし、ブランドを積み上げていかなければ流されてしまう」との見方を示した。
情報が氾濫する現代社会において、歴史あるメディアが果たすべき役割について、EXIT・兼近大樹は「情報過多でみんなの時間が足りない中、実績も信頼もない、誰が言っているか分からないような情報が垂れ流されるのが当たり前になっている。信頼と実績のあるメディアがもっと影響力を持つことで、訳の分からない情報を簡単に信じてしまう若者が減っていくと思う。歴史あるところがやってほしいとすごく感じる」と期待を寄せた。
これを受け深澤氏は、新社屋に動画スタジオを設け、企業のトップとの会談現場にカメラを入れるなどの新たな取り組みを始めていることを明かした。「どこに載せるかではなく、現場に行って一次情報を取りに行く『取材力』こそが力だと思っている。どうしたら届くのかということを追求していきたい」と語り、プラットフォームが変化しても変わらない一次情報の価値と、それを発信する手段の模索が続いている現状を示した。
(『ABEMA Prime』より)