文部科学省の調査で、学校におけるいじめの認知件数が過去最多の約77万件に達した。SNSを用いた、大人から見えにくい巧妙ないじめもある中、被害を防ぐ教育のあり方や、社会全体の役割が問われている。『ABEMA Prime』では、専門家や教育現場の当事者らを招き、いじめ対策の現状と課題を議論した。
■「認知件数」最多の裏側と、SNSで隠れるいじめの実態

認知件数が急増している背景について、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」副代表理事の須永祐慈氏は「2013年のいじめ防止対策推進法制定以降、文部科学省がどんな小さないじめも件数に挙げるよう指導したことで、学校側の数え方の熱量が上がった結果だ」と分析する。実態調査ではいじめ自体が急増しているわけではなく、「学校が報告しやすくなった側面を押さえる必要がある」と説明した。
元文部科学副大臣の義家弘介氏も、文科省の調査基準が「発生件数」から「認知件数」へ転換された経緯に触れ、「報告件数が減ることや少ないことは、逆にいじめを認知できていない可能性がある」と指摘。命が失われたり不登校に追い込まれたりしている現状を受け止め、毅然とした対応をとることが不可欠だと訴えた。
一方、現代のいじめは大人から見えにくくなっている。24時間で消えるインスタグラムのストーリー機能を用い、親しい友人間に限定して陰口を投稿するなど、大人が気づきにくいケースもあるという。
元中学校教頭でフリースクール「アリビオ」を運営する大石真弘氏は「教員がSNSを直接確認することは難しいため、他の生徒・保護者からのスクリーンショットや情報などの提供に頼らざるを得ない」と現場の苦しい胸中を吐露。さらに自身の当時中学1年の息子がいじめを受けた経験を踏まえ、「子ども自身が『言えない』『隠したい』『大ごとにしたくない』という思いから、ひどくなるまで隠してしまう」と早期発見の難しさを語った。
■「いじめられづらい子ども」を育てるには?

いじめの発生を防ぐ新たなアプローチとして、エッセイストの下田美咲氏は、SNSへの投稿を機に大きな話題を呼んでいる「いじめられづらい子どもを育てる」という自衛策を提言する。下田氏は、加害する子どもについて「元被害者だったり、今も何かの被害に遭っている子どもが多いと思う」とし、不遇な思いの積み重ねによる憂さ晴らしや八つ当たりで「サンドバッグ」を選んだ結果がいじめだとの見方を示した。さらに「子ども社会は治安が悪いという前提に立ち、教育だけでいじめる側をコントロールすることは難しいため、ターゲットにならないよう防御力を高めることが現実的だ」と主張した。
具体策として、いじりやからかいの初期段階で「嫌だ」とハッキリ意思表示し、相手のノリを盛り上がらせないことが重要だという。下田氏は「加害者にとって『逆にめんどくさい奴だな』と思わせることができれば、憂さ晴らしのサンドバッグとして成立しなくなる」と語る。「自分が嫌だと感じていることは言葉にしないと相手に伝わらない」とし、「いじめてくる相手が100%悪い」と日頃から伝え、子どもが何でも相談できる関係性を築く大切さを強調した。
また家庭での相談環境について、下田氏は2人きりでの外食や、お風呂、寝かしつけの消灯後など、子どもがぽろっと本音や愚痴をこぼしやすいシチュエーションを作ることが有効だと明かした。
この予防的観点に須永氏も同意しつつ、思春期に入ると親への相談率が激減する現実に言及。「親以外の信頼できる大人や『斜めの関係』を複数持たせておくことが、いざという時のお守りになる」と助言した。
大石氏も「『あなたはいじめられていい存在ではない』と伝え続けることが大切だ」とした上で、「片方だけが笑っているのはいじめ、お互いに笑い合えるのが遊び」という明確な違いを小さいうちから教えていく必要性を訴えた。
■境界線の難しさと、「いじめ防止法」運用への危機感

いじめと遊び、あるいは適切に距離を置くこととの境界線をどう引くかについては議論が交わされた。
義家氏が「自分がされて嫌なことを人にすることは許されない、という一線を教育現場で明確に引き、毅然と指導すべきだ」と主張する一方、下田氏は「トラブルを避けるために特定の相手と距離を置く行為は、自衛として尊重すべき場合もある」と一律の線引きの難しさを語った。大石氏は「一番の原点は、相手の心を粗末に扱ったかどうか。人によってあからさまに態度を変えるような行為こそがいじめの根っこだ」と言及した。
さらに大石氏は、いじめ防止対策推進法が現場で十分に機能していない実態に強い懸念を示した。学校の授業でいじめ予防教育を行う時間が確保されていない現状に加え、令和6年の調査では認知件数約77万件に対し、警察へ通報された割合はわずか0.4%にとどまる。加害児童の別室指導は6800件(全体の約0.9%)、出席停止に至ったケースは全国でわずか4人しかいない。
大石氏は「重大事態が1400件以上起きているにもかかわらず、警察への通報や別室指導、出席停止は限られ、学校の指導のみで終わっているケースもある」と述べ、いじめ防止対策推進法が十分に運用されているのか疑問を呈した。
(『ABEMA Prime』より)