タクシー会社社長の三澤賢治さんは、今も悔やみ続けていた。かつて部下を勤務中に失った。部下は何者かに殺害され、今も犯人は見つかっていない。事件は27年前、三澤社長は77歳になっていた。「自分が死んだら、事件は風化してしまう」そんな思いで取材に応じてくれた。
殺害現場となったのは、静岡県富士市・大淵の山道。1999年2月18日、タクシーの運転席で、運転手の田切忠男さん(当時66)が遺体となって見つかった。田切さんの首や腕には刃物で刺された傷があり、売上金も奪われていた。
現場に最初に駆けつけたのが三澤社長だった。「『田切起きろ、しっかりしろ!』と体をゆすって。出血がすごかった」。
富士市に本社を置く「シンフジハイヤー」、創業は1953年。三澤社長は、23歳の時に会社を継ぎ、77歳になった今も、約100人の従業員を束ねている。田切さんが入社したのは、事件の2カ月ほど前だった。
その人となりを「朴訥(ぼくとつ)な人だった。寡黙な。時間には来るし、お客さんにもキチッとした対応をしていた」と振り返る三澤社長。事件の日のことは、鮮明に覚えているという。
複数の運転手らで捜索、翌朝発見
1999年2月18日、夜10時ごろ。田切さんは、市内の繁華街にある車庫から無線を入れた。「大淵方面への客を乗せる」。車庫から遺体が見つかった山道まで約8km。深夜なら、15分もかからない距離だという。しかしその後、連絡が途絶えた。
三澤社長は「夜12時を回った後、行方不明になって、『大淵方面に行く』という無線が入っていたので、大淵地区を残っていた運転手で探した。探してもわからなくて……」と振り返る。
そして、朝5時ごろ。別の客を乗せて走っていた同僚が、田切さんのタクシーを発見した。タクシーは不自然な場所に停まっていた。「ドアを開けまして、シートベルトをしてるんで、向こう側に寄りかかるような感じで」(三澤社長)。
その日、三澤社長は現場で何を目にしたのか。田切さんは、シートベルトを締めたまま、助手席側に傾き、口から血を吐いていたという。
死因は、首の右後ろ部分を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。凶器は刃渡り10数cm、幅3~4cmの鋭利な刃物とみられている。さらに、田切さんの左腕には、いくつもの切り傷があったという。「田切さんが戦った形跡があった。どれだけの恐怖があったのか」。
犯行の推定時刻は夜10時30分から50分の間。殺害されて約7時間後に田切さんを発見した。犯人は、なぜこの場所を選んだのか。
サイドブレーキの謎、天井には“毛髪”も
実は三澤社長には、いまだ解けない謎がある。サイドブレーキが、不自然な状態だというのだ。「ほぼ90度垂直にレバーがなるくらい引いてあった」。そして、シフトレバーは、なぜか“リバース”に入っていたという。
いったいこれをどう考えれば良いのだろうか。元京都府警科学捜査研究所の矢山和宏氏は、こう推測する。「パーキングに入れた時に刺されている可能性があれば、とっさにシフトを変えるとすれば、パーキングの次がリバース。なのでバックに入ったまま動き出してしまったけども、絶命してしまう。犯人が後方からその車を止めるためにサイドブレーキをバッと引っ張った」。
謎はまだある。犯人が残した“痕跡”だ。「犯人の髪の毛も、モケット張りの天井だったからいっぱい付いてた。犯人が襲った時に、立ち上がって中腰でやったと思う。黒髪、5cmくらい」(三澤社長)。
天井に付着していたとされる毛髪について、矢山氏は「運転席と見立てると、犯人は降車時にお金を払うふりをして首を押さえて、被害者としては暴れるので、タクシーの天井部分に犯人の頭が擦りつけられる。頭を擦りつけることで静電気が発生して、天井に(毛髪が)残る可能性が高い」と推測する。
当時の無線記録では、田切さんの車には4回の乗車記録が残され、売上金は数千円だったとみられている。また、田切さんは財布を持っていたが、財布はなくなっていたという。
数日後に防護板を設置「安全対策は万全を期していく」
「部下を守れなかった」その思いが、三澤社長を動かした。まず導入したのは防護板。後部座席からの攻撃を軽減できるのではと、事件後数日の間に設置した。「これでも第1撃は、手が入らないから。首に手が回らなければなんとか脱出できるかな」。
さらに、車がどこを走っているか一目で分かるようGPSを導入。ドライバーがSOSを出せば、アラームが鳴る仕組みだ。「夜10時ごろに事件が起きて、発見されたのが5時。7時間くらいタイムラグがあるから、もっと早く発見されていれば犯人逮捕に結びついたのではという気持ちもある」。
一緒に働いたのは、わずか2カ月。その部下を失ってから、27年が経った。今でも、毎年命日とお盆には、社員を連れて献花に訪れている。「田切さんの事件を風化させないために、新しい若い人たちを連れて語り継いでいく。安全対策は万全を期していく。その誓いを胸に年2回この現場に来ている」。
「自分が死ねば事件が風化する」それが三澤社長の原動力となっている。
静岡県警は情報提供を呼びかけている(富士警察署 0545-51-0110)。
(『ABEMA的ニュースショー』より)