11月2日に発足した「防災庁」。発足の背景にある課題や、避難生活・地域の防災対策が具体的にどう変わるのかについて、テレビ朝日政治部の吉野みなみ記者が解説した。
■SNSで憶測を呼んだ「緊急要請」の真相
防災庁の発足に伴い、細野防災大臣が国民に向けて「最低3日分、できれば1週間分の備蓄」を呼びかけた。この「緊急要請」という強い言葉に対し、SNS上では「サイバー攻撃や第3次世界大戦が起きるのではないか」「11月2日に何か起きると政府が知っているのでは」といった不安や憶測が広がった。これを受け、細野大臣は10月30日に「戦争のような危機的な状況や、事前の災害予知情報があるわけではない」と明確に否定している。
では、なぜ「緊急要請」という強い表現が使われたのか。その背景には、庁への格上げに伴って防災庁が新たに得た「尊重義務付きの勧告権」がある。これは他省庁に指示を聞かせることができる強力な権限だ。大臣としては、各省庁に実行してほしい方針を「緊急要請」として示し、従わない場合には勧告権を行使する構えだった。大臣は同時に国民や自治体へも呼びかけを行ったが、法的な義務を伴うのは各省庁に対する要請のみであり、国民に対しては備蓄を呼びかけるお願いという位置づけだった。しかし、同じ「緊急要請」という名称で発信されたため、国民の間に強い緊張感を生む結果となった。
■人員3倍、予算9倍へ…「事前防災」と「発災後対応」の両立
これまで内閣府の一部署に過ぎなかった防災部門だが、庁への格上げにより、人員は約3倍に増強され、予算も約9倍の獲得を目指して拡充が進められている。意思決定を担う「統括官」も従来の1人から4人へと増やされた。
組織改編の最大の契機となったのは、従来体制における構造的な負荷の大きさだ。平時の「事前防災」と有事の「発災後の対応」を同じ組織が担っていたため、能登半島地震が発生した際には、進行中だった南海トラフ地震の被害想定検討会議が約半年間にわたってストップする事態に陥った。組織と人員を大幅に強化することで、平時の備えと発災時の初動対応を両立させる狙いがある。
■避難所環境の改善へ「TKBB」の整備を急ぐ
防災庁創設の大きな柱の一つが、避難所生活の劇的な改善だ。これは石破前総理が強く掲げていた構想でもあり、掲げられた4つの理念の中でも「国民の生命・人権の保護を最優先」とする方針に基づいている。
体育館での雑魚寝、冷たい食事、不衛生なトイレといった過酷な環境から脱却し、災害関連死を減らすため、防災庁では「TKBB」と呼ばれる要素の配備を進めている。これは「T=トイレ」「K=キッチン」「B=ベッド」、そして新たに入浴施設として加わった「B=バス」の頭文字を取ったものだ。
今年7月に起きた熊本地震の避難所でも、ベッドの不足や、酷暑の中で食中毒を警戒した結果として温かい食事の配給が進まないなど、依然として多くの課題が浮き彫りになった。細野大臣は、南海トラフのような国難級の災害では日数単位の確約は難しいとしつつも、中小規模の災害については「いつまでにTKBBをお届けするか」という明確な目標を設定して示したいとしている。ただし、災害の規模や地域ごとに状況が大きく変わるため、具体的な目標設定をどのように数値化して打ち出せるかが今後の大きな課題となる。
■「ふるさと防災職員」が担うラストワンマイルと地域の底上げ
地域の防災対策における切り札として期待されているのが、今年4月から本格導入されている「ふるさと防災職員」だ。防災庁から全国47都道府県に1人ずつ配置された専任職員で、国と自治体の架け橋となる役割を担っている。
7月の熊本地震でもすでに活動しており、避難所を巡回して「トイレが暗いので明かりをつけてほしい」といった被災者のきめ細かな要望を吸い上げ、迅速な物資手配などを支援した。災害時には「拠点の近くまで支援物資が届いているのに避難所へ行き渡らない」という“ラストワンマイル”の目詰まりが度々問題視されてきたが、これは地理的な要因だけでなく、自治体職員自身も被災し手が回らないというマンパワー不足が大きな要因だった。平時から地域と関係を築いている国の職員が介在することで、ニーズの的確な振り分けと迅速な配布が可能になる。
もう一つの重要課題が、自治体ごとの「防災力」の格差是正だ。防災庁では、地震発生時の建物倒壊や避難者数を平日・休日、昼夜別に定量試算する「災害リスク評価(シミュレーション)」の作成を急ピッチで進めている。 現状では、こうした高度なシミュレーションを作成できている自治体とそうでない自治体との間に大きな差がある。作成には専門的なノウハウが求められるため、ここでも専門知識を持つ「ふるさと防災職員」が自治体のシミュレーションづくりを後押しし、全国的な防災力の底上げを図っていく方針だ。
(ニュース企画/ABEMA)