「ノーベル賞の登竜門」ともいわれるアメリカの医学賞・ラスカー賞を、筑波大学の柳沢教授が受賞した。受賞の理由は、睡眠と目覚めに大きく関わる脳内物質「オレキシン」の発見だ。そのオレキシンを実際に精製したのは、同じ研究室に在籍していた筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構副機構長・櫻井武氏だったという。
【映像】どんどん低体温に…冬眠状態になるマウス(実験の様子)
現在、世界最高峰の睡眠研究機関に所属する櫻井氏が最も力を入れているのが、「人工冬眠」の研究だ。人間を意図的に冬眠状態にするという、SF世界さながらの挑戦である。『ABEMA Prime』では、睡眠研究の最前線に立つ櫻井武氏を招き、人工冬眠の可能性と睡眠・冬眠をめぐる根本的な問いについて考えた。
■オレキシン発見から人工冬眠研究へ 偶然見つけた「動かないマウス」

なぜ睡眠研究者が人工冬眠に着目するようになったのか。その経緯について櫻井氏は次のように語る。「ある脳内物質を見つけた時に、その物質を産生している神経細胞の機能を調べていった時に、偶然見つかった。大学院生が特定のニューロンを活性化するという実験をしていた時に、死んでしまったかのようにマウスが全然動かなくなって、すごく冷たくなってしまった。これなんだと調べていたら、冬眠と言ってもそんなにおかしくない状態だと分かって、そこから興味を持った」。
現在はマウスを使った実験が進んでいる。通常は冬眠しないマウスの脳の特定部位をレーザーで刺激すると、尻尾から熱を放散して体温を下げ始め、およそ1時間半で体温が10度近く低下。心拍や呼吸など代謝全体が下がり、冬眠と同様の状態になるという。実験では、 この状態を何度繰り返しても健康状態に問題はなく、副作用も確認されていないという。また、現在はサルを使った研究にも着手しており、ウイルスを使って人工的な受容体を発現させることで「Qニューロン」を刺激するアプローチを取っているという。
■「冬眠は睡眠じゃない」何が違うのか

出演者からは、冬眠と睡眠の違いについて次々と疑問が投げかけられた。
2ちゃんねる創設者・ひろゆき氏が「生命活動自体の活性化を下げるだけなので必要なエネルギーは必要だし、絶対止めちゃいけない部分は動き続ける。それが足りなくなった時に一回覚醒して、またもう一回処置をしてという繰り返しで長期的な冬眠状態は可能なのでは」と問うと、櫻井氏は「中途覚醒が何で必要かというのはよく分かっていない。一つ面白いセオリーがあって、それは仮説だが、冬眠と睡眠は違うから冬眠中は睡眠がとれないので、たまに起きて睡眠をとるということも言われている」と説明した。
また、櫻井氏は冬眠と睡眠は「全然違う。睡眠はスリープ、冬眠はハイバネーション」と語る。ひろゆき氏が「睡眠は脳の中で記憶を処理したり老廃物を洗い流したりする機能が必要という意味か」と確認すると、「睡眠は休んでいるわけではなく、脳がいろいろなシナプスという神経細胞同士のつながりの機能を調整したり、記憶の固定化とかいろいろな作業をしている状態。冬眠ではその機能をうんと落としてしまっている」と語った。冬眠中の意識については「ほとんどない。大脳皮質に電極を刺して調べるとほとんど機能していない」と述べた。
元経済産業省職員・武井亜樹氏が「本来8時間必要なものを5時間くらいで全部回復できるようなショートスリーパーになれるのか」と質問すると、「真のショートスリーパーというのは、何かのテクニックのようなものではなくて、脳自体の機能で鍛えられるものではない」と説明。さらに、櫻井氏によると、数千人に1人程度とされる本来のショートスリーパーは、遺伝的・体質的に決まっているものであるという。
■人工冬眠の応用可能性と最大のハードル

人工冬眠が実現した場合のメリットについて、櫻井氏は「無限にある」と述べ、具体的に2つを挙げた。「まず分かりやすいのは医療応用。スローモーションにすることで、いろいろな病気の進展の速度を遅らせることができる。次に宇宙探査。NASAやESAが火星に人類を送るのに(往復で)2年かかるとされていて、積載量(酸素や食料品)をなるべく小さくするために乗組員の代謝を冬眠で下げるという考え方ができる」。
また、単にスローモーションにするだけでなく、「脳内の微小炎症などがちょっとだけ冬眠することで解消できたりする。うつ病の人が微小炎症になっているという話もあって、積極的な治療の意味もある」と述べ、将来的な治療への応用可能性にも言及した。また、人工冬眠によって寿命が延びるかという問いには「伸びると思う。最初のマウスの実験では老化がすごく遅くなった」と語った。
一方で実現へのハードルについても正直に語った。「特定のニューロンを特異的に興奮させる薬を見つけないといけない。オレキシン受容体をターゲットにした薬は創薬としてゴールが見えているが、Qニューロンの話は神経細胞を特異的に興奮させる薬の開発が課題だ」。将来的には「脳にデバイスを入れるとか電気刺激という方法もあるかもしれない」とも話した。
最後に睡眠に悩む人へのアドバイスを求められると、「光環境を整えること、そして気温をちゃんと整えること。物理的な環境を整えるのが大事。睡眠薬はずっと飲むものではなくて、眠れるようになる学習をするためのもの」と述べ、現代人の睡眠改善に向けた実践的な提言をしていた。
(『ABEMA Prime』より)