巨人・高梨雄平 5歳下“師匠”とのシンデレラ物語[2021/07/07 17:00]

【担当記者が選ぶオールスターイチオシ選手〜巨人編〜】
2年ぶりに開催される「マイナビオールスターゲーム2021」(7月16日(金)第1戦・17日(土)第2戦)。この“夢の舞台”に初出場するのが、巨人・高梨雄平(28)。昨季途中に楽天からトレードで巨人に加入すると、チームのリーグ連覇に大きく貢献。今季もここまで32試合の登板で防御率2.29、チームトップタイの15ホールドを記録(7月7日現在)するなど、リリーフ陣の重要な一員となっています。

開幕からチームを支える活躍もあり、ついにオールスターゲーム初選出を果たしたのですが…この男の野球人生は、かつて自身のことを“給料泥棒”とも称した程のどん底から這い上がった、まさに“シンデレラストーリー”。そして、そのウラには、高梨の人生を変えた“5歳下の師匠”の存在がありました。

遡ること10年前、男は早稲田大学の門を叩きました。同期には有原航平(レンジャーズ)や中村奨吾(千葉ロッテ)などのメンバーが揃う中、“オーバースローの本格派左腕”として下級生時代から活躍を見せると、3年生の春季リーグ戦では東京六大学史上3人目となる完全試合を達成。輝かしいキャリアを築いていきました。しかしその後、社会人チームの強豪・JX−ENEOSに進むと壁にぶち当たります。登板しては打ち込まれの繰り返し。ついにはベンチ入りメンバーからも外れるようになりました。

「野球で結果を出してくれというので採用されているので、それが全くできていないのは本当に給料泥棒だなって」

社会人野球は、野球をする代わりに給与が支払われる中で当然結果を求められるシビアな世界です。その中で当時高梨が与えられていた役割はー。

「JX−ENEOSのグラウンドは、バックスクリーンのスコアボードが手動だったんですよ。それをセンターのボードのところに独りでぽつんと座って、戦況を見ながら得点板を貼ってひっくり返してみたいな。そういう感じでしたね」

かつて神宮球場を沸かせた左腕が辿り着いたのは、雑用係。気が付けば、グラウンドの中心ではなくスコアボードの横が居場所になっていました。「野球をしたいという感じでしたよね。してないので、野球を。マウンドで投げたいっていうだけですね。自分の居場所を作りたいなっていう感じでしたね」今まで当たり前のように立っていたマウンドが、遠い存在に感じた高梨。それでも夢を捨てきることはできませんでした。

迎えた社会人2年目の2016年、ドラフト3カ月前の夏。ついに『サイドスロー転向』を決意します。無謀だと知っていても、わずかな可能性を信じるしかありませんでした。「どうしてもプロに行きたいっていう思いがあって。本当にサイドスローしかないなっていう感じで、上投げから横投げに変えたらやっぱり使ってみたくなるじゃないですか、どんなもんだろうっていう。プライドはもともと高かったと思いますけど…まあ無くなりましたね。横に変えようと思った時に全部捨ててきたっていう感じですかね」

しかし、付け焼刃のフォーム変更で上手くいくような甘い世界ではありませんでした。目に見える結果を残すことはできなかった高梨。そこですがったのが、高卒1年目のチームメイト・鈴木健矢(日本ハム)でした。鈴木は当時、社会人の日本代表に選出されるなどチームの看板投手だったのですが、彼もまたオーバースローからサイドスローに転向した“経験者”だったのです。

鈴木「最初は戸惑いがありましたね。『俺サイドに変えたんだけど見てもらえない?』って感じで言われて、『あっ、わかりました』みたいな感じでした」

先輩の突然のサイドスロー宣言に戸惑いを感じた鈴木でしたが、「毎日練習に付き合ってくれ」とお願いをされてからは、全体練習後に2人で鏡の前でシャドーピッチングを繰り返す日々。高梨は、5歳下の後輩の指導にすべてを賭けたのでした。するとその二人三脚は、驚きの展開を生むことになります。

鈴木「食堂でみんなでドラフト見ていたんですけど、9位・高梨ってなった瞬間に高梨さんの部屋にダッシュで行きました。『高梨さ〜ん!』って」

高梨「僕は部屋で洗濯物たたんでいたんですけど、『うそでしょ?』とか言って」

サイドスロー転向わずか3カ月でのドラフト指名。本人が驚くのも無理はありません。投球フォームを変えてからも、実戦では結果を残せていなかったからです。では、なぜ実績のない“サイドスロー・高梨”を指名に踏み切ったのか。当時、高梨を担当した楽天・後関スカウトに話を聞くと…

「たまたま関係者から『ちょっとフォーム変えたんだけど1回見てみないか』という話があって、それで見に行った時に、正直『あれ、もしかしたら面白いんじゃないか』って逆に思ったんですよ。オーバースローのまま投げていたら、多分リストから外していたかもしれないですね」

高梨のオーバースロー時代を見ていた後関スカウトは、そのままでは厳しいと感じていました。サイドスローに変えたからこそ、スカウトの嗅覚を騒がせたのでした。さらに、当時の楽天は左投手が補強ポイントだったといいます。

「『フォームが固まれば絶対に使えます』って若干はったり気味に言った記憶はあるんですけど、最終的にチーム事情+ドラフトの流れでどうしても左がほしいと。だったら高梨いきましょうという判断ですよね」

無謀な挑戦が偶然の連鎖を引き起こし、本人すら予想していなかった“ドラフト指名”を実現させたのでした。

そして、高梨の快進撃が始まりました。ルーキーイヤーから楽天の中継ぎに定着すると、2年目には球団新記録となるシーズン70試合登板。侍ジャパンにも選出された。巨人にトレードで加入してからは既述の通りの活躍。プロ通算(5年)240試合に登板し防御率1.95と安定した活躍を見せ、ついに今季、初めてオールスターに出場することとなったのです。ちなみに、高梨がプロで活躍する大きな要因の一つとなっている決め球のスライダー。実はこのウイニングショットも、鈴木から教えてもらったものでした。
高梨は鈴木について、「かなり大きい出会いだったなと思います。いなかったらなんとなく横に変えているだけなので全く結果も出ていないと思いますし、プロに入っていないと思いますし。師匠ですね。」と感謝しきり。

雑用係からオールスターへ。5歳下の“師匠”との運命の出会いから生まれたシンデレラストーリー。しかしこれは、深夜0時に解ける“魔法の物語”などではなく、高梨の不屈の魂と努力が生み出した“現実”なのです。

【マイナビオールスターゲーム2021】
7月16日(金)よる6時〜 第1戦@メットライフドーム
7月17日(土)よる6時〜 第2戦@楽天生命パーク宮城
テレビ朝日系列地上波にて生中継(※一部地域を除く)
両日ごご4時55分〜よる6時 BS朝日にてホームランダービー生中継

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