なぜ『投高打低』プロ野球“異常事態”記録ラッシュ…千賀滉大投手・川上憲伸氏が解説[2022/05/19 23:30]

今、プロ野球界で異常事態『投高打低』が起きています。

4月10日には、ロッテ・佐々木朗希投手(20)が28年ぶりの完全試合。さらに、5月6日には、中日・大野雄大投手(33)が9回までパーフェクト(10回1安打完封)。5月11日には、ソフトバンク・東浜巨選手(31)がノーヒットノーランと、わずか1カ月の間にピッチャーの偉業が続いています。

この異常事態について、2019年にノーヒットノーランを達成した、ソフトバンクのエース・千賀滉大投手が、シーズン中にもかかわらず答えてくれました。

(Q.投高打低はなぜ?)

千賀滉大投手:「僕もやっている身なので、なんだろうな、すごい感じている部分は、いきなり変わったとかではなくて、ピッチャーみんながいいピッチングをしているので、それに引っ張られているのは確実にある。(ピッチャーは)野手の人に比べて時間がすごくある。ピッチャーは投げることが仕事なので、自分の能力さえ上げてしまえば活躍しやすい土壌ができやすいのがピッチャー。野手の人はほぼ受け身の環境なので、ピッチャーが投げてきたボールに対しての(対応が求められる)ところが大きい」

ここ5年のセ・リーグとパ・リーグの防御率と打率を見ると、年々、防御率は良くなり、打率は低下。「投高打低」になっていることが分かります。プロ野球のデータを扱う専門家は、こう話します。

データスタジアムアナリスト、佐藤優太氏:「特にパ・リーグに関しては『投高打低」の傾向が顕著に出ていて、2011・2012年に低反発球が使われて記録的な打低になったが、その年よりもさらに得点が入りづらい、打率が低いシーズンになっている。歴史的な『投高打低」のシーズンにパ・リーグはなっている」

実際にパ・リーグのバッターを相手にしている千賀投手は、どう感じているのでしょうか。

千賀滉大投手:「強烈なヒット、ハードコンタクトが減っている」

ハードコンタクトの減少とは、ピッチャーの球威にバッターが打ち負けていることを意味します。

千賀滉大投手:「バッターに思い切り触れさせていない。バッターのタイミングで当てさせないことが増えてきているから、これだけ防御率が良いことは、そういうことにつながっていると思います」

ハードコンタクトの減少は、データからも読み取ることができます。

データスタジアムアナリスト、佐藤優太氏:「特にフライ・ライナーの打球が、例年に比べてかなりヒットになりにくいデータがある」

パ・リーグの打球データを見てみると、5年前はフライのヒット率は3割超えでしたが、今年は2割8分台に。同様にライナーのヒット率も下がっています。

先週、自己最速の164キロをマークした千賀投手は、球速の進化も『投高打低』の要因ではないかと話します。

千賀滉大投手:「僕が入団した時は、プロ野球全体で150キロを投げるピッチャーはそんなにいなかった。今は150キロは普通。次はもう10キロ速い世界に来ている」

球速のアップは球界全体の傾向です。セ・リーグとパ・リーグの平均球速を調べると、特にパ・リーグは10年前に比べ、6キロも速くなっています。

千賀滉大投手:「スピードで速く(間を)詰めれば詰めるほど打ちづらくなる。(投手と打者の)18メートルの空間の中で、相手に考えさせたり、間を与えないかが大事。変化球のスピードがどんどん速くなって(バッターは)対応の仕方が難しくなっている」

歴史的な『投高打低』のプロ野球。今後については。

千賀滉大投手:「10年間でそれだけ変わるということは、もう10年20年経てば、もっと成長スピードが速い。160キロを投げるピッチャーはどのチームにも何人かいる。150キロの変化球を投げる人も何人かいるとなった時、今後どうなるのか楽しみ」

◆2002年にノーヒットノーランを達成した川上憲伸さんに聞きます。

(Q.今年の記録ラッシュ、『投高打低』の現象をどう感じていますか?)

川上憲伸さん:「ノーヒットノーランは1年間に1人出るか出ないか。でも、そういった記録がすでに出ていて、完全試合も達成されていることが異常な気がします。この先のシーズンでまたあるのかなと思うくらい、ピッチャーの威力があります」

過去5年間のセ・パ両リーグのデータを見ると、1試合でピッチャーが何点失点するかを表す防御率は、セ・リーグでは4点台から3点台前半に、パ・リーグは今シーズン2点台と、ピッチャーの失点が減っています。

一方、打者がヒットやホームランを打つ確率を表す打率は、両リーグとも年々低下しています。特にパ・リーグは、2割5分台から、今シーズン2割3分台まで低くなっています。

(Q.打者が打てなくなったのか、投手が進化したのか、どちらだと思いますか?)

川上憲伸さん:「投手のレベルが上がった感じがします。とにかくスピードが速くなった印象です。過去10年さかのぼってみると、平均球速が6キロ速くなっています。中学生や高校生、大学生、社会人も含めて、アマチュア時代でも、ピッチャーが投げている所を、iPadなどですぐに動画で確認できるようになりました。僕の頃ではあり得なかったことで、練習が終わった後、夜に確認していて、成功しているかどうか分かりませんでした。今はすぐに動画でフォームの確認や、ボールの回転数を測って見ることができます。そういう高いレベルをもったアマチュアの人が、そのままプロ野球の世界に入ってきます。そうなると、1〜2年目からどんどん活躍してきます。さらに、僕らの頃は徹底して『低めに投げなさい』。困ったときはアウトローというところがありました。今は速い球のピッチャーが増えてきたので、速いストレートは高めでOKという流れにもなっている気がします」

(Q.バッターも研究していると思いますが、ピッチャーの進化に追い付きませんか?)

川上憲伸さん:「もちろんお互いに研究していますが、ピッチャーはその場ですぐに結果が出て成長につなげられます。バッターの難しいところは、同じ150キロ超えのストレートでも、一人ひとりキレ・質が違います。バッターは実際に体験して結果を残していくしかないので、時間がかかり、手こずるのかなと思います。対戦が少なければピッチャーが有利というのは、僕も経験しています」

(Q.ピッチャー優位の状況はしばらく続きますか?)

川上憲伸さん:「千賀投手の言う通り、160キロのストレートや、150キロの変化球を投げるピッチャーが増えてくるとなると、しばらくピッチャー有利が続くのかなという気がします」

(Q.川上さん自身は、ブルペンにある機械や映像があったら、もっと進化していたと思いますか?)

川上憲伸さん:「思います。悔しいです。僕の時は、本屋さんで本を買って、絵を見ながらやっていました。それが成功したのか分からないまま、自分を信じてやるしかなかったので、手こずりました」

(Q.ピッチャー優位の状況でも活躍しているバッターには、どんな特徴がありますか?)

川上憲伸さん:「速いストレートに負けないように、まずしっかり引っ張る。時には、アウトコースに来た球を無理なく流し、スタンドインさせるバッターもいます。ただ、プロ野球全体を考えると、若いチームに変えていこうと、まだレギュラーになりきっていない選手が多い球団が多いです。結果を残していかなければいけないというプレッシャーと戦っているので、速い球だけに対応できるところにいってないと思います。ただ、バッターとピッチャーが切磋琢磨してレベルを上げていって、最終的にはバッターも対応してくると、プロ野球界のレベルはさらにパワーアップしていると思います」

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