WBCの大一番…実況は「必要ない」という意外な理由 入社21年目ベテランアナの野球愛[2022/11/10 05:00]

2023年3月、実に6年ぶりの開催となる野球世界一決定戦「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」。

14年ぶりの王座奪還を目指し、着々と歩みを進める侍ジャパンは11月10日の夜、オーストラリアとの強化試合に挑む。

WBC1次ラウンドで対戦予定の相手に対し、栗山英樹監督は若き剛腕・佐々木朗希を先発投手に指名した。果たして、この強化試合で、どのような試金石を得ることができるのだろうか。

その一戦の実況を担うのは、WBC過去全4大会で実況を務めてきたテレビ朝日入社21年目のベテラン・清水俊輔アナウンサーだ。

数々の大舞台で記憶に残る“言葉”を残してきたテレビ朝日の名物実況アナウンサーは今、侍ジャパンをどう見ているのか。

■今の侍ジャパン…一言で表すと「過渡期」

今回の強化試合は日本のプロのみで形成されたチームで挑むが、すでに多くの報道がなされているように28人中16人が初選出というフレッシュな顔ぶれとなっている。

Q:「現在の侍ジャパンをどういう言葉で表現しようとしている?」

清水アナ:「今回のWBCほど、日本のメンバーが読めない大会はない。監督も変わったこともあって、本当に侍ジャパンの過渡期というところで、新しい力がどれぐらい出てくるのかっていうところが、一番大きいのかなと」

Q:「今の侍ジャパン=過渡期という言葉になる?」

清水アナ:「そうですね。ただ、過渡期と言っても、全然ネガティブな意味合いではなく。どんどん若い選手が出てきているので、今まではこの選手は絶対入るだろうっていう選手が結構な人数いたんですけど、今回はガラっと変わる可能性があるので」

■「イチローさんのタイムリー何歳で見たか」を気にする理由

これまで主力を担ってきた実績十分の選手と、成長著しい若手の“過渡期”にある侍ジャパン。清水アナは、特に若い選手についての情報を集約していくプロセスでまず調べるのは、彼らが2009年WBC決勝でイチローさんが放った決勝タイムリーを何歳で見たのか、ということだという。

そこには、“彼らが何歳で初めて日本代表という組織に触れたか”という単純な側面だけではなく、日本における野球のトップチームの変遷という側面も忘れてはならないと言う。

Q:「なぜ、『イチローさんの決勝タイムリーを何歳で見たか』を気にする?」

清水アナ:「日本で本当の(野球の)トッププロがフル代表を組むようになったのは、2004年のアテネ五輪から。2000年のシドニー五輪でプロアマ混合というところからスタートして、野球の歴史は日本では古いんですけど、実は本当のフル代表の歴史って、ここ20年ぐらい。そう考えると、今の若い選手たちって、物心ついた時から当たり前にトッププロのフル代表を見てきている選手たちなんですよ。これって、初めてのことなんです。例えば高校生の時に2006年のWBCを見た選手がいるとすると『ついにこんな大会ができたんだ』とか『こんなメンバーでいくんだ、すごいな』という記憶がある選手たち、佐々木朗希投手とか村上宗隆選手たちは物心ついた時には、トッププロの代表があった。それは、すごく大きいと思います」

Q:「それは、実況をする上でも大きな要素?」

清水アナ:「物心ついた頃に、当たり前にトッププロのフル代表チームがあった世代の選手たちが挑むWBC。あのイチローさんのタイムリーを小学生の頃に見ていた選手たちが登場するWBC。これは侍ジャパンの歴史の継承、伝統の系譜みたいなところで言うと、今回はすごく大事にしたいなと思っています」

■緊張感がすべて…WBCで実況は「プラスにはならない」

今回のインタビュー中、清水アナから突然、“意外な言葉”が飛び出した。一体、どういうことなのか。

Q:「過去のWBC4大会で、印象に残っている大会は?」

清水アナ:「一番と言われると…2013年ですかね。初めて勝てなかったWBCです」

Q:「負けた瞬間は、どのような思いが込み上げてきた?」

清水アナ:「当時、2013年2次ラウンドまで実況して、最後の決勝の実況担当だったんです。決勝に向けて準決勝を現地で見ていて、目の前で日本が負けちゃったんですよね。やっぱり3連覇するというのは、難しいんだなっていうのが分かった。でも、シンプルに3大会連続ベスト4って日本だけだったので、底力も感じました。ただ1回目、2回目と連覇を見てきていると、どうしても期待は高まっているので、何とも言えない喪失感みたいなのがありました」

Q:「WBCを実況してきたなかで、一番ハマったなと思う自分の実況は?」

清水アナ:「『鳥谷敬選手の盗塁(2013年WBC)』っていう名シーンがあって。まさか、盗塁するとは思っていなかったところで盗塁したのですが、『視野の外側のところに、必ずランナーは入れておきなさい』という実況アナウンサーの基本があったので、反応できた。だから、後々考えると、あの盗塁に反応できていなかった時が恐怖ですよね。盗塁の瞬間は(センターから撮っている)ピッチャーとバッターの映像なので、テレビで見てる方は分からないんですよ。スタートを切ったかどうか。あの反応がもし遅れていたら、実況アナウンサーにとっては致命傷。思い返すのは、そういうことですね。基本通りやってきて良かったなっていう。それが凝縮されたのが、あのシーンでした」

Q:「WBCでの実況で、大切にしてきたことは?」

清水アナ:「緊張感をそのまま伝えるスタイルです。日本代表のゲーム、特にWBCは“あの緊張感”がすべて。『間』が多かったり、何でもかんでも解説者の方にお話を聞いて委ねたりするのではなく、一人でポツポツと喋っていきながら、じっくり次の一球を待つというスタイルは、代表戦で培ったものだと思っています。大きい試合になればなるほど、実況アナウンサーは“一番必要無い”。負けたら終わりの代表戦、1発勝負という試合は自分の実況がプラスになることはない。マイナスになってしまう可能性のほうが高い。気をつけているのは、大事なシーンでお喋りしないっていうこと。僕は球場の空気をダイレクトに感じているので、無駄なフィルターを通さずに、そのままいきたいっていうのが根本にります。代表戦になればなるほど口数は少ないと思います、1試合トータルで見ると。(実況を担うようになった)最初の頃は代表戦を喋ってる時、やっぱり自分もテンションが上がっているし、張り切っているので、今より言葉数も多かったような気はします。やっていくうちに今のスタイルに至ったと思います」

Q:「どのように視聴者に選手たちに関する情報を伝えていく?」

清水アナ:「いかにすごい選手なのかというのを実績や数字で示すというのは、大事なことです。大きい大会になると、普段プロ野球を見ていないけれどWBCは絶対見るという方もたくさんいらっしゃる。ですから、ちゃんと、すごい選手ですという話は、するようにしています。そのうえで、シンプルな言葉を使うということですね。普段は使わない言葉は使わない。なので正直、“上手い言葉”とかあんまり思いつかないんですよ。試合が3〜4時間あるので、聞いている人がストレスにならないような発声と滑舌。これが、ほぼすべてと言ってもいい。あとは、ダラダラと文章で喋らない。短くそのシーンを淡々と単語で積み重ねていくことによって、その場の緊張感とか躍動感みたいなものを出すっていうのが、間違いなく自分のスタイルだと思います」

自らの経験と知見を一つ一つ繋ぎ合わせ、辿り着いた確かな実況スタイル。さらに、清水アナがテレビ朝日に入社以来、今なお変わらず抱き続ける“思い”もまた、侍ジャパンを実況する上での根幹を支えていると言う。

■侍ジャパンは…プロ野球の代表ではなく“全世代の代表”

清水アナ:「プロ野球界の代表だけじゃなくて、社会人、大学、高校、中学、野球を始めたばかりの子どもたち、僕自身そうですけど草野球プレーヤー、皆の代表なんです。日本で1位、2位を争う人気スポーツであると同時に、野球というのは日本の文化。その中の二十数人って、考えれば考えるほどすごい。想像を絶するすごさなんですよ、あそこに立っている選手たちって。この想いは根底にあります。リスペクトなんて言葉では表せない、次元が違います」

Q:「プロ野球の代表じゃなくて、全世代の代表なんだと?」

清水アナ:「絶対そうです。皆が待ってるんです、フル代表を。河川敷で野球をしている僕らおじさんも、大谷翔平選手みたいに打ちたいって思ってやっているんですよ、毎週毎週。皆本気で思ってやっている。日本代表に入るっていうのは、どんなスポーツでもすごいのですが、野球の裾野の広がりを考えると、ちょっと信じられないですよね。(実況中)放送席に座ってるだけで、シンプルな野球ファンですよ、僕。楽しくてしょうがない!選ばれし二十数人が世界と戦っている…野球が好きな人間にとって、こんなワクワクすることはないんですよ。毎回、ワクワクが止まらない。その気持ちで実況しています」

入社21年目を迎えてもなお、野球少年のような無垢な野球愛、そして日本のトップチームへの揺るぎない思いを抱き続ける清水アナ。そんな頼れる実況アナウンサーと共に待ち望むことはただひとつ、14年ぶりの世界一奪還だ。

清水アナ:「我らが、テレ朝出身の栗山英樹さんが監督就任されて、新しい侍ジャパンの形が出てくる。これまでの伝統、未来への継承、ここに2023年の3月がある。そこの意味を自分のなかで、もっと深いところまで浸透させる。もっと深いところで理解するということが、すごく大事になってくると思っています」

【清水俊輔】
社歴:2002年入社、アナウンサー歴21年目
番組:スポーツ中継各種、報道ステーション、クイズプレゼンバラエティーQさま!!他

■『侍ジャパンシリーズ2022 日本VSオーストラリア』札幌ドーム
11月10日(木)よる6時30分〜8時54分(※一部地域を除く)
地上波放送終了後BS朝日にてリレー中継(試合終了まで)

■2023年3月WBC開幕テレビ朝日系列にて放送予定

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